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途中でスーパーに寄ってもらう。

ここ数日、食材は電話注文で配達してもらっていたのだがこの時間なら帰りがけに買ったほうが早い。


有機野菜なども取り扱いのあるちょっと高級志向向けのスーパーなのだが、スーパーそのものに来たことのない流は興味津々だった。


「これがカートか・・・・・!!」


ファンデーションで汚れたコートのまま外を歩くわけにはいかないので、寒いから車で待っていて欲しいと頼んだのだが流はコートを脱ぐとさっさとスーパーの中に入って、私の一挙手一投足をじーっと見ている。

やりにくい・・・・・。


「押してみますか?」


「いいのか!?」


子供のような喜びようである。


「他のお客様に当たらないように気をつけて、私の隣をついてきてくださいね。」


「わかった。」


なんだか妙に気合を入れている流に苦笑しながらスーパーを回る。


「何か食べたいものはありますか?」


せっかく一緒の買い物をしているのだからリクエストに応えたい。


「食べたいものか・・・・。」


ちょっと考えるような仕草をした後、流の視線が一点で止まった。

流の視線を追っていくと


【今日はアツアツお鍋にしよう!】


と大きなPOPが掲げられた特設コーナーが見えた。


今日も寒い。こんな日は鍋もいいかもしれない。


「お鍋にしますか?」


たしか、家捜しした時に土鍋とカセットコンロはあったはずだ。


「鍋とは家でも食べられるものなのか?」


・・・・・・・・予想外の回答。


「お店のものより味は落ちてしまいますが、もちろん家でも食べられますよ。」


「では、鍋にする。」


「かしこまりました。」


作るものは決まったので、ぽいぽい材料をカゴに放り込んで行く。

流が会食で使うような店でも出てくるしゃぶやすき焼きはやめて、ちょっと変わった鍋にしよう。


どんどんかごの中に増えていく食材を見て流が目を丸くしているのが面白い。


「こんなに食べるのか?」


「全部は食べ切れませんので余った分は持って帰ります。鍋の具材は多い方が美味しいですから。」


「持って帰る・・・・・・。」


なんだか声の調子が1トーン下がった気がする。今度は何が気に障ったんだ。


「流様が明日もご自宅で食事をなさるのならば、こちらを使って作り置きでよろしければ準備をしておきますが。」


「そうしてくれ。お前の料理が明日で最後なのは残念だが仕方ない。」


無意識に褒められてこそばゆい。


「はい。出来るだけ日持ちがする物を種類多く準備しておきますね。」


そう言いながら作り置き用の食材もかごに放り込んだ。









・・・・・・・・・・・・・・・・やりにくい。

レジスターを前に会計で目をキラキラさせていた流は、スーパーから帰ってきてからもくっついて離れなかった。

なんだかカモの親子になった気分だ。

そんな状態なので燕尾服に着替えに行くこともできず、私は買ってもらった服装のまま夕食の準備をしている。

じーっと包丁を握る手元を見つめる流の視線が痛い。


「流様、プロではないので私の包丁裁きにそんなにじっくり見ていただく価値はないのですが・・・・・。」


「そうか?なかなか興味深いぞ。」


流の興味の幅が謎過ぎる。


「入浴の準備をしましょうか?」


「いや、お前を送らなければならないからその後でいい。」


さようですか。


「料理とはこのようにしてできるのだな。」


「流様は料理をするところを見たことがないのですか?」


意外である。目の前で料理人の技が見えるようなカウンターで料理を食べているイメージがある。


「テレビで何度か見たことはあるが・・・・。実物を見るのは初めてだな。いつも完成品しか見ていない。」


んー、金持ちあるあるかもなぁ。

普通の家庭では親がダイニングで料理をする姿を見る機会があるが、生粋のセレブの家柄では専用の厨房で料理人が調理するためわざわざ覗きに行くことがなければ見る機会はないだろう。


「・・・・・・料理をまったくされないにしては立派なキッチンですね。」


調理器具はほとんどのものが揃っている。


「紫乃が勝手に準備して行った。いつかこれを使ってくれる相手に会いたいとよくわからないことを言っていたな。」


・・・・・・・・・・紫乃様、私なんかが使ってしまってすみません。


「お待たせしました。出来上がりましたので、席にお着きください。」


流に座るように促して、カセットコンロをテーブルにのせる。


「なんだこれは?」


カセットコンロもご存知ないらしい。もう庶民的な物で何を知っているのかを知りたいくらいだ。


「カセットコンロです。こうやって回すと・・・・・こんな感じで火がつきます。」


カチッという音ともに火を付けると流の顔が驚きに彩られた。


「この大きさでも料理ができるのか。すごいな。」


一度キッチンのコンロで火を通しておいた鍋をカセットコンロの上に移す。


「熱いので気をつけてお召し上がりください。」


蓋を開けると湯気がブワッと広がりいい香りが一気に立ち込める。

いい具合に煮えている。


が、流は鍋に手をつけようとしなかった。


「取り皿にお取りした方がよろしいですか?」


自分で選びたいかと思いあえて鍋から自分でついでもらうようにしたが、まずかっただろうか。


「そうじゃない。・・・・・お前は食べないのか?」


ん?今更その話??


「執事ですから。」


「しかし、鍋とは複数人で食べるものだろう?それにこの量はひとりでは多すぎる。」


「残りは私が食べますので。」


「それでは火が通り過ぎてしまうだろう。ベストの状態でたべられないのは食材にも生産者にも申し訳ない。」


・・・・・・・・・・・・・・言われてることが正論すぎて何も言えない。


「もしお前が執事としてできないと言い張るなら、今この時点で約束を終了してもいい。

もしくは主人としての命令でテーブルに着くかどちらがいい?」


どちらにしろ私は流と一緒に食べることになるらしい。

ここまで言い張られては仕方ない。私はおとなしく席についた。

拍手御礼小説、流の執事体験が想定以上に伸びすぎて(更新できなかったというのもありますが)掲載期間が長めになっていますが、近日中に交換します!

まだ読んでおられない方がいらっしゃいましたらお早めにお願いします。

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