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き、気まずい・・・・・・。



流の機嫌が治らないままカフェを出て車に乗った。

流はプライベートでは運転手を使わないので、流自ら運転する車の助手席に大人しく座っている。

流の機嫌が悪いのと主人に運転させているという罪悪感で非常に居心地が悪い。


自分で運転できれば行き先を聞くとかで、まだ話題ができるのに!!


とおもうが、やはり自動車保険の関係上やはり運転したいとは言えない。



行き先を聞かないまま車が進んだ先は一度だが見たことのある風景になってきた。

目的地につき、無言で車を降りる。

寒さも相まって、前回よりもさらに澄んだ空気に胸がすっきりする。

ここは私が流に慰めてもらった山の上だ。

流も車を降りるとなにも言わずに前回座ったベンチへ座った。

私はどうしたらいいかわからず、仕方なく車から少し離れた場所で景色を眺める。

仕事中なのでぼんやりしないようにと姿勢を正して風景を眺めているとやっと流から声が掛かった。


「おい、そこでなにをしている。早く座れ。」


先ほどよりは少し機嫌が治ったらしい流の声に従いベンチに腰掛けると


「うわっ!!」


急に腕を引かれて、流にぶつかるように倒れこんでしまう。

流の胸に顔を押し付けるような格好になっているのだが、流はそれに構わず腕を回してくる。


「考え事をするから付き合え。」


こ、この格好で!?

い、息が・・・・・!!


なんとか横を向いて呼吸を確保しようと苦戦していると、流の手が背中に流れる髪を梳いていく。


あの時も髪を梳いてもらったなぁ。


前回、慰めてもらった時も流は私の髪を優しく撫でるように梳いていた。


流は『考え事に付き合え』と言った。

もしかしたらあの時の私のように何か悩みがあって誰かに甘えたいのかもしれない。


流だけではなく攻略対象たちは、みんな甘え下手だ。

だから打算も計算もなく真っ直ぐに感情をぶつけてくれる華穂様に惹かれるのかもしれない。


ふられちゃうんだなぁ・・・・・。


華穂様が誰かと結ばれてハッピーエンドを迎えることを心から願ってきた。

・・・・・しかしそれは、選ばれなかった残りの人々が失恋するということだ。

ゲームの時のように何周も繰り返しプレイできるわけではない。

隼人はふられても表面上は気丈に振る舞っていた。

流はどんな顔をするのだろう。

ヤンデレになったり世を儚んだりすることはないと思うが、あまり悲しい顔をして欲しくない。


「いい匂いがするな。」


「流様が選んでくださった香水ですから。」


その言葉に笑って答えると、流がもっと匂いを吸い込むように顔を動かす。


「あぁ、本当にいい匂いだ。」


「流様、くすぐったいです。」


「我慢しろ。」


そんなやり取りをちょこちょこ挟みながら、流の背を撫でる。

顔は見えないのでわからないが、声はいつもの流に戻っていた。

少しは前回の恩返しが出来ただろうか。






冬の夕暮れは早い。

私が流の腕から解放されたのは空が茜色になりかけた頃だった。

やっと見ることができるようになった流の顔はすっきりとしていて、それに満足した後・・・・・真っ青になった。


!!!!!!!!!!!!!


数十万はするであろう流のコートにべっとりとファンデーションがついている。


平謝りする私に流が言った『魚拓ならぬ顔拓が取れたな』という言葉にさらに謝るべきか怒るべきかわからなくなる。

こっちは真剣に謝ってるのに!


なぜか顔拓でご機嫌になった流と車に乗り込む。


「食事はどうなさいますか?」


今からマンションに帰るとちょうど夕食の時間になる。


「家で食べる。お前の料理は美味いからな。」


「ありがとうございます。満足いただけるよう頑張って作らせていただきます。」


こちらに来た時とは正反対の和やかな空気で、車は帰途についた。

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