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美術館特有の静かな空間を展示物を見ながら進む。
本当に流の芸術系の趣味の範囲は広いらしい。
今日の展示テーマは
『雅なる大和絵の世界』
源氏物語絵巻から琳派の屏風図まで幅広い時代の雅な絵を集めてある。
源氏物語の世界を表現した絵巻は金箔が貼られ色とりどりの十二単が雅な物語を視覚でも艶やかに彩ってくれる。
美しさに思わずため息が出る。
足音はふかふかした床に吸収され、歩いても音がすることはない。
私が一歩進むと前の人物もまた一歩進む。
流は私より一歩先で私と同じように展示物を見ていた。
その顔はじっくり展示物をみているのに歩調は私に合わせてくれているのがわかる。
最初、私は自分は軽く見るだけで流の後をついていこうと思っていた。
展示物を見ながら流の足の動きに気を配る。
が、動く気配がない。
流が動くまでと思い展示物を見て説明文を読む、読み終わって説明文から顔を上げると、そこで流が次の展示物に進んだ。
それだけで流が私のペースに合わせるつもりなのがわかった。
『私はあなたの従者なのですから、主人が合わせる必要はありません。』
という言葉は、展示物へ注がれる視線と美術館という静かな空間に口から出ることはなかった。
無言で展示物と向き合い歩を進める。
お互いに一言も話していないのに、流とふたりで見ているような不思議な感覚。
終始そのような感覚に包まれながらじっくり展示を見て回った。
カフェモカの甘い香りに惹かれてカップに口をつける。
ここは美術館併設のカフェだ。
展示物を見終わって、流とふたりで遅めのランチを食べている。
「何か気に入ったものはあったか?」
「どれも大変素敵でした。
昔の日本らしい豪華絢爛な色使いに、当時の方々に好まれた図柄など、昔の上流の方の歴史や生活を垣間見ることが出来ました。」
絵の横には当時を再現した十二単や碁盤など、その絵が描かれた頃の生活様式がわかるようなものが一緒に飾ってあった。
「燕子花図も良かったですが、やはり源氏物語絵巻が一番印象に残りました。」
今回の展示では国宝がこれでもかというほど置いてありとても見ごたえがあったが、やはりよく知る物語が絵巻になっているのは印象深かった。
「流様はなにがお気に召されましたか?」
「そうだな・・・・。
俺は松島図屏風だ。あの迫力のものを宗達と光琳の二作、見比べるのはなかなか面白い。」
「そうですね。確かにあれは圧巻でした。」
松島を取り巻く、生き物のようにうねる波を思い出す。
しばらくそうして今日見たものについて話していると突然 流が嬉しそうに笑った。
「クラシックを聴きに行った時も思ったが、こうして感想を言い合うのは楽しいな。」
その笑顔はいつもの自信に溢れた笑顔ではなく、まるで少年のように純粋で、思わずこちらも微笑んでしまう。
「はい。流様の見識は大変広いので流様の話を聞いているのも聞いてもらうのも楽しいです。」
そう返事をすると褒められて嬉しかったのか、少年のような笑顔がいつもの不敵な自信満々の笑顔に戻った。
「流様はいつもお一人で鑑賞を?」
「あぁ、ひとりだ。
これまで誰かと観に行くなんて考えてことがなかったからな。
今度からはお前が付き合え。」
その言葉に私は困ったように笑う。
「なんだ、嫌か?」
「嫌ではないのですが・・・・・。
流様が芸術鑑賞をなさるのは休日なので、難しそうだと思いまして・・・・。」
世間一般の休日は基本的にレッスンのない華穂様につきっきりだ。
「体験していただいたのでお分かりだとは思うのですが、主人の休日こそ執事の仕事が必要なのです。
今日のように主人に1日ついて仕事をすることも珍しくありませんし・・・・・・・」
「・・・・・・そうか。お前にとっては仕事だったな。」
先程まで笑っていた流の眉間にシワが寄る。
・・・・・・・・一緒に行けないと断ったことがよほど気に障ったのだろうか。
しかし、どんなに気に触ろうとも行けないものは行けない。
「華穂様がご一緒であれば大丈夫ですので、華穂様をお誘いください。
華穂様にも流様のような知識や感覚を養っていただきたいのでご教授いただければ。」
「・・・・・・・わかった。」
どうせ土日は空太も仕事だし、私も一緒に行けば問題ないだろうということで提案したのだが、その提案では不満らしく流の眉間のシワは取れなかった。
書きながら思ったんですが、展示内容が美術館じゃなくて博物館な気がします。
が、今更直すのもどうかと思うので大目に見てやってください。
ついでに『そんな展示のラインナップありえねーよ!』というくらい門外不出ものの名前を出してますがそこも大目に見てください。
夢の競演ってヤツです(ぉぃ
すみません、最近本当に時間取れなくて更新が飛び飛びです。
17時も難しくなってきたので、しばらくは出来上がり次第UPさせていただきます。
申し訳ございませんが、ご了承ください。




