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なんでこんなことに・・・・・・・。
私は目の前で広げられる色とりどりの洋服達に気が遠くなった。
昨晩ーーーーーーーー
「明日のご予定は?」
明日は祝日である。
家で休むのかどこかに出かけるのか、はたまた仕事なのか。
執事として予定を把握しておく必要がある。
「明日は国立美術館へ行く。お前もついてこい。」
「かしこまりました。」
今は何が展示されてるんだっけ?後で調べておこう。
「明日は9時半には家を出るからそのつもりでいろ。」
「はい。」
そんなこんなで9時半に家を出たのだが、着いた先は美術館ではなかった。
「あの・・・流様、何故ここに?」
そこは以前も来た豊福デパートVIP専用入り口だった。
「俺は仕事以外でスーツの女を連れ回す趣味はない。」
えぇー・・・・・。
確かに私は現在黒いスーツという地味極まりない格好ですが、そもそも私は今仕事中・・・・・。
と言うわけにもいかず、大人しくVIP専用部屋に連れて行かれ冒頭に戻る。
「これも似合いますねぇ♡」
ニコニコしながら私に服を当てて見せてくれるのは、以前ホテルに泊まった時も世話になった外商部の本田さんだ。
私は先ほどから彼女の着せ替え人形ならぬ当て変え人形と化している。
その様子を正面から流が満足気に眺めていて、なんだか動物園のパンダの気分だ。
しかも時々流が頷いている。
おそらく頷いた時に着ていた服はお買い上げコースだ。
それがわかって戦々恐々としなければならないのが悲しい。
いっそ華穂様のように何も知らずに当て変えを楽しめれば楽だったのに・・・・・・・!!!
今も1着10万のボトムに流が頷いているのが見えて、鳥肌が立つ。
「あの、流様・・・・美術館にいくためならば1着でよろしいかと思うのですが・・・・。」
「お前はなんでも似合うな。
1着など選べん。」
いや、選べなくても一回に着れる服には限度があります。
「あら、美術館にいかれるのですか?でしたらこのようなコーディネートはいかがでしょう。」
本田さんがまた新たな服を出してくる。
もう勘弁してください・・・・・。
白のキャバリアブラウスにベージュのタータンチェック柄の生地で作られたマーメイドラインのロングスカート、焦げ茶色のボレロのジャケットには可愛らしいレースがついている。
長身の私が自分でコーディネートするとどうしても甘めの格好は難しいのだが、さすがプロ。
こんな私が着ても可愛くフェミニンな感じに見えそうだ。
そしてしっかり流の好みも抑えている・・・。プロ怖い。
「あぁ、今までの中で一番いいな。
それを着て帰る。」
「ありがとうございます。
着て帰られるということはこのまま美術館に行かれるご予定ですか?」
「あぁ。」
「ではこちらで服に合わせたメイクとヘアアレンジも行っておきます。さ、平岡さんはこちらへ♡」
こうして本人抜きにどんどん話は進んでいった。
「ご覧ください槙嶋様。いつもの素敵な彼女とはまた違った魅力のあるお姿になられました♡」
ニコニコ顔で隣に立つ本田さんの言葉に顔から湯気が出そうだ。
ホンダさんに連行された私は、メイクをナチュラルだが可愛らしい印象のものに1からやり直され、髪はハーフアップに。
胸元まである毛先はヘアアイロンにより少し縦ロール気味にゆるく内側に巻かれている。
服は先ほどのものにグレーのベレー帽がプラスされ、黒スーツ姿からのビフォーアフターが半端じゃない。
もはや別人レベルだ。
こんな自分、26年生きてきて見たことがない。
なんだかこの年齢で可愛らしい自分の姿を鏡で見ることになるなんて、羞恥以外のなにものでもない。
プロの技だ。似合っていないとはいえない。
でも、自分じゃない感じがして恥ずかしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
流は無言でぽかんと口を開けていた。
え、なんですかその反応。
自分が選んでおいてもしかして『お前は誰だ。』とか言い出さないですよね。
「平岡さんがあまりに可愛いから見惚れていらっしゃいますね。」
クスクス笑いながら本田さんが小声で耳打ちしてくる。
み、見惚れ??何言ってるんですか。アホヅラにしか見えませんよ。
「流様?」
首をこてんと傾げてどうしたのかと問いかける。
すると、突然流の顔が耳まで真っ赤になった。
「な、なんだ!?」
それはこちらの台詞ですが・・・・・・。
「槙嶋様、こちらのコーディネートお気に召していただけましたでしょうか?」
「ん?あ、あぁ、よく美術館に合いそうだ。さぁ、行くぞ。」
流が私の手を取る。
こうして私は赤い顔の流に強引に手を握られたまま、にこやかな笑顔の本田さんに見送られ豊福デパートを後にした。
今回の文章中に「26年生きてきて」とありますが、唯は1話より作中でひとつ歳をとりました。




