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流が見合いで政略結婚???
・・・・・・・・・・・・・・・ないな。
流はたとえ親であろうが誰であろうが人から指図されて動くタイプではない。
流を従わせられる人間がいれば見てみたいものだ。
本人の承諾なしに決められた結婚など、鼻で笑って無視するだろう。
「流様がお父様に言われたからと言って素直に結婚するとは思えませんが・・・・・・。」
「そうねぇ。坊っちゃんの場合、旦那様の意向はあまり関係ないんだけれど、条件に釣られそうで心配でねぇ。」
条件?
「大きなお家にはまあ良くあることだけれど、わたしたちと違って結婚に必要なものは愛じゃなくて財力や家柄だと思っていらっしゃるから。
今回のお相手の方の条件だけ見て決めてしまわれるのかと思うとねぇ。」
そういうことか。
流の父親が持ってくる縁談だ。申し分ない条件だろう。
華穂様へのアプローチも最初は高良田財閥が目的だった。
「銀行の頭取のお嬢さんで、見た目も美人なんだけれど、だからって坊っちゃんが好きになるとは思えないし、坊っちゃんは結婚したから相手を好きになったり大切にしたりするタイプでもないからねぇ。」
銀行頭取のお嬢さん・・・・。
あ、もしかしてあれか!!
流ルートのバッドエンドのお相手!!!
流ルートでのバッドエンドは、流が華穂様以外の相手と結婚してしまうというものだ。
槙嶋コーポレーションも参画している石油コンビナートで大規模爆発が起こり数十人の死者が出たり、グループ企業の食品会社の工場で食品への農薬混入事件が起こったり、衣料グループの海外工場でストライキが起こったりと一つならまだしも、『いくらゲームでもやりすぎだろ!』と言いたくなるような不幸が立て続けに槙嶋コーポレーションを襲う。
槙嶋コーポレーションは根本的な企業体質を疑われ、著しい企業イメージのダウンにより経営危機に直面。
流は責任を取ってCEOを辞任。裏から金策に走ることになる。
華穂様は裕一郎様に流への援助を頼み込むが、事業内容が近く、イメージダウンで共倒れになると判断した裕一郎様がそれを聞くことはなく、また同じ判断を下していた流も裕一郎様に援助を求めることはなかった。
ふたりとも大企業のトップとしての責任がある。
子供や恋人への愛情で決断していいことではない。
結局、流は事業系統の違う高良田ほどではないがそこそこ大きな銀行系の財閥令嬢と結婚して会社の立て直しをはかるという決断をする。
もともとご令嬢の一目惚れで父親も流の手腕を高く評価しており、入り婿という形で入れば、『出資はするが会社経営には一切口を出さない』という条件のみで決めた結婚だった。
『華穂、お前のことを死ぬほど愛している。
槙嶋流は今日、この時、お前への愛とともにお前の腕の中で死んだ。
死んだ相手のことは忘れてお前は幸せになれ。』
華穂様を強く抱きしめながら伝えられた別れの言葉に、流に心酔していた多くの流ファンが涙した。
今思い返すとクサイ台詞だなぁと思ってしまうが。
「坊っちゃんは何も気にしていらっしゃらないんだろうけど、旦那様と奥様の様子を見ていると坊っちゃんが不憫でねぇ。
わたしは坊っちゃんにそんな結婚をして欲しくないのよぉ。」
流の両親は政略結婚で不仲なようだ。
というか紫乃様、たった5日間しかいない人間にそこまで内情を喋っていいのだろうか。
うーん・・・・・・・。
「たぶん、大丈夫だと思います。
流様も日々新しいことに触れられ、多様な考えをお持ちになられています。
きっと・・・・・・今の流様なら、条件だけで釣られたりはなされないかと。」
華穂様との恋は叶わないけれど、流は変わった。
きっとその経験は次に活かされるはずだ。
「もし条件だけで決めてしまわれそうな時はふたりで流様を説得しましょう。」
いたずらっぽく笑うと、紫乃様は不安そうな顔をほっと緩めて笑ってくれた。
「坊っちゃんは説得なんか聞く性格じゃないけど、なんだか唯さんがいうとできそうな気がするわねぇ。」
「そうだといいんですけど。そろそろお仕事を始めましょうか。あんまりおしゃべりしてたら流様に怒られてしまいます。」
「あらいやだ。わたしったらずいぶん話し込んじゃったわねぇ。いけないいけない。」
そこからは時々、紫乃様から今からでは想像できない流の昔の可愛らしいエピソードを聞きながら仕事に励んだ。




