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身支度を整えてから朝食作りに取り掛かる。
キッチンに立つとシンクにスープ皿とコーヒーカップが下げられていることに気がついた。
昨日はあれから下がって良いと言われたのでゲストルームに戻っていた。
流は寝る前に食器を自分で下げてくれたらしい。
昨日準備しておいた魚をオーブンにセットしてスイッチを入れてから、流を起こしにいく。
コンコンッ
返事はない。まだ眠っているようだ。
「失礼します。」
カチャッ
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
パタンッ
思わず開けたドアを無言で閉じてしまった。
!?!?!?!?!?!?!?!?
顔にブワッと熱が上がるのを感じる。
ど、どうしよう。
見てはいけないものを見てしまった気がする。
寝ててもアレとかいくらゲームのイケメンキャラでも反則だと思う。
一弥に派手に啖呵切ったくせに、こんなので赤くなるなんて主人じゃなくて自分が邪みたいだ。
頬の熱を冷ますように深く深呼吸して再度ドアノブに手をかけるが、先ほどの光景を思い出して手が止まる。
流は寝るときは何も着ない派だった。
いや、下は履いてたのかもしれないけど、布団から外に出ている部分は何も纏っていなかった。
昨日のバスローブとは比べものにならないくらい曝け出されてる胸や肩。
ただ眠っているだけなのに顔は微かに微笑んでいて、その姿はゲームでの華穂様との甘い朝を想像させて平常心でいられない。
どうしよう。起こさないといけない時間なのに。
というか、この状態は男性的にはセーフなのだろうか?
男執事が女主人があの状態で寝ている部屋に入るのは確実にアウトだが、その逆はどうなのか。
男執事に劣ることはないと思っていたが、こういう時は異性だと困る。
職責とモラルの狭間で揺れていると、ガチャリと目の前にドアが開いた。
「・・・・・・何をしている?」
ドアを開けた流は寝ぼけ眼でちょっと機嫌が悪そうだ。
・・・・・・そして、やはり上は何も着ていない。
下は辛うじて着ているもののボクサーパンツ一枚と着てると言ってもいいのかどうかという格好だ。
「も、申し訳ございません!」
慌ててそれ以上見ないように後ろを向く。
「・・・・・・さっきからどうした?」
不思議そうな声が後ろから聞こえるが、振り向くわけにはいかない。
これ以上聞かないでほしい。
「なんでもありません!朝食の準備ができておりますので、準備ができましたら、テーブルまでお越しください。」
「なんでもないということはないだろう。
今のお前の主人は俺だ。俺にはお前のことを知っておく義務がある。
こちらを向け。」
だんだん流の声が不機嫌になっていく。
これはもう・・・・・
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜服を着てください!!」
「・・・・・は?」
ポカンとした声が聞こえてくるが構ってはいられない。
「私は執事ですが、生物学上 女に分類されております。
いかに主人の命といえども、そのようなお姿を直接見るわけにはまいりません!」
羞恥に耐えて一気に言い切ると、後ろでドアが閉まる音がした。
ほっと胸を撫で下ろす。
再び出てきた流は昨日の部屋着を着ていた。
「これでいいか?」
「はい。我が儘を申しまして申し訳ございません。」
「いや、俺の方こそ悪かった。人前に出る格好ではなかったな。」
・・・・・主人に気を使わせるなんて最低だ。
凹んでしまう。
そんな私の頭を流はポンポンと叩いてくれた。
「顔を洗ってくるから食事を出しておいてくれ。」
「はい。」
洗面所に向かう流に色々な意味を込めて頭を下げた。
用意した朝食は、鮭の塩焼き、納豆、オクラとえのきのポン酢和え、ノリ、生卵、ワカメの味噌汁という、THE日本の朝食だ。
流は昨日と同じように綺麗な仕草で米粒ひとつ残らず平らげると、いつものスタイルに着替えて仕事に行った。
自分も朝食を食べて仕事の入る。
洗濯機に入れる前に靴下などの下洗いをしていると、リビングの方で誰かがいる気配を感じた。
一旦手を洗ってリビングに戻る。
リビングにあるテーブルの上に大きなバッグを置いて、中から荷物をゴソゴソと出す小さな背中が見えた。
「おはようございます。」
私が声をかけるとびくりと肩が震えて振り返る。
振り返った顔は70歳前後の老婦人に見えた。
目がまん丸に見開かれる。
「まあああああああぁぁぁぁあぁぁあ!!!!」
老婦人は大声を上げるとそのままパタリと倒れてしまった。
・・・・・・えぇぇぇぇ!?
一弥の前では大人の強い女風に強がっていますが、今までの彼氏はひとり。現在、彼氏いない歴5年の独身女なので、裏のない流の前だと免疫のなさが出ます。




