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「やややややっぱり無理!!

胃が痛い!熱っぽい!!もう寝る!!!」


華道の教室から帰宅後、部屋に入るなり華穂様は大声でそう宣言して、ベッドに潜り込んでしまった。


現在午後4時。

とても寝るような時間ではないし、宣言する姿は顔こそ赤いもののとても元気そうだった。


「華穂様・・・・。そのようなことをなさっても、心配してお部屋に来られるだけだと思いますが・・・・。」


「具合悪いから会えないって言って。」


なんとしても今日は会う気はないらしい。


「・・・・・・華穂様。今日はそれでいいとしても、これからずっと病気になるおつもりですか?

心配をおかけした上に、避けられてると知ったらとても悲しまれますよ?」


「べ、別に避けてるわけじゃっ!」


掛け布団を跳ね上げガバリと起き上がった。


「では、どうしてお会いにならないのですか?」


「胃が痛くって・・・。」


無言で悲しそうな目をして見つめてみる。

目を合わせること10秒。

負けたのは華穂様だった。


「恥ずかしいし、どんな顔して会えばいいのかわかんないんだもん・・・・。」


赤くなってもじもじして・・・。

その顔で会ったら、逆の意味でまずいと思います。


「その恥ずかしさは先延ばしにしても改善されないと思いますので、諦めてください。」


悲しそうな目から一転、いつもの顔ですっぱりと言い切る。


「唯さんの鬼っ!!」


「わかりました。部屋でお過ごしいただいて結構です。

華穂様お部屋にいらっしゃる間に、最近の華穂様について逐一報告しておきますので。」


「唯さぁぁぁん!!」


そんな子供のようなやり取りを繰り返して、なんとか華穂様を夕食に引っ張り出した。







食堂にカチャカチャとナイフとフォークを使う音が響く。

きちんとマナーを守って優雅に食事をしているように見えるが、その顔は真っ赤なまま視線はお皿に固定されており、とても食事中の顔ではない。

味がわかっているかどうかすら怪しい。


コンコンッ


ノックと同時に扉が開く。


「デザートをお持ちいたしました。」


その声に、お皿に向いていた華穂様の顔がガバッとそちらを向く。

白いシャツに黒のスラックスそれに黒のエプロンをつけた空太が、デザートの乗ったワゴンを押して入ってきた。


料理長の方針で空太が高良田邸で料理修行するときは、調理服に着替えてから華穂様や裕一郎様がが食べた最後のお皿が厨房に戻ってくるまでは、一使用人として振る舞うことになっている。

そうやって仕事をする代わりに、邪魔にさえならなければいつでも高良田邸の厨房を好きに使っていいという約束をしていた。


華穂様はジッと空太を見つめたまま動かない。


華穂様の皿がまだ空になっていなかったので、空太は給仕はせずにワゴンを押して私の隣まで来てからそのまま待機の姿勢に入った。

その間も華穂様の視線は空太からはずれない。


・・・・・華穂様、なにも自分でそんなに自分の首を絞めなくても。


空太の使用人としての態度は食事の間だけだ。

いつも華穂様の食事が終わると厨房の後片付けをして、それから華穂様の部屋で話をしてから帰るというパターンになっている。


このあと問い詰められること間違いない。


「華穂様、どうかなさいましたか?」


見かねて声をかけると、ハッとしたような表情をしたあとぶんぶんと首を振り、食事に戻られた。




物凄く緊張感を強いられた食事から解放されて、華穂様は自室のソファーに座り込んだ。

ここからが肝心なのにすでに疲労困憊である。


「あぁ"〜どうしよう。唯さん、今日は一緒にいてね!」


「はい。とりあえず今日の料理の感想から考えておくべきでしょうか。」


「料理の味なんて覚えてないよ・・・・。」


でしょうね。


華穂様はがっくりと項垂れた。


コンコンッ


ノックの音に華穂様の体がびくりと跳ねる。

それを横目に見ながら、私は彼を招き入れた。


「こんばんは、唯さん。」


「いらっしゃいませ、空太様。どうぞこちらへ。」


先ほどまでは使用人仲間だが、ここからはお客様だ。

空太はもてなされる側に変わる。


「よっ華穂!

お前どーしたんだよ?今日なんか変じゃねぇ??」


「そそそそそんなことないよっ。空太の気のせいだよっ!!」


クッションを抱きしめたまま真っ赤な顔でいる華穂様はどこからどう見ても変にしか見えない。


「お前、そんだけテンパっててよく気のせいとか言えんな。

相変わらず嘘つけねーやつ。」


「うっ、嘘なんてついてないよっ!?きょっ、今日の料理も美味しかったよ。今日はどんなこと勉強したの!?」


「今日はハーブを使った魚の下処理を・・・、ってそんなんで誤魔化されるわけねーだろ。なにがあった?」


何としても話を逸らそうとする華穂様に、だんだんと空太が不機嫌になってくる。


「空太様。」


一向に良くなりそうにない状況に口を挟むことにした。


「華穂様はあの・・・その・・・ちょっと男性には言い難いことでお悩みなのです。」


それを聞いた途端、空太が真っ赤になった。

いったいなにを想像したのやら。


「華穂様のご相談は私がお受けしますので、空太様は優しく見守って差し上げてください。」


華穂様から『他にもっといい言い訳なかったの!?』という恨みがましい視線を感じるが、嘘をつくわけにはいかない。

恋バナは男性にし辛いものだ。


「唯さんがそう言うなら任せます。ただ俺にも何かできることがあれば言ってください。」


「はい。華穂様は素敵な騎士ナイトがいらっしゃって幸せですね。」


「ゆっ唯さん!!」


ふたりを軽くからかって場を和ませ、料理の話を聞かれしどろもどろのなる華穂様を微笑ましく眺める。

もうすぐ恋人同士になるふたりを見るのは、ちょっぴり羨ましい時間だった。

ということで、華穂のお相手は空太でした。

隼人が振られた時点で皆様予想はされてたと思いますが。

次は唯ですね。

華穂を微笑ましく眺めているような余裕がなくなるといいんですが(ぇ

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