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さて、ふたりとも作品の説明をしてください。
まずは平岡さんから。」
「はい。私の作品の題目は【理想】です。
私は自分が理想とする執事像を表現してみました。」
浅く広めの円形の花器の縁はデンファレやカーネーションなど茎を切り取られた色とりどりの花で飾られている。
真ん中には大きなアマリリスが一本塔のように立ち、その周りを葦の穂が寄り添うように取り囲んでいる。
「たくさんの人々の中でも一際輝く主人でいてくださるように、守って支えていける存在になりたいとおもい製作しました。」
縁に飾られているのは他の人々、中央のアマリリスは主人、周りを囲む葦は自分。
葦は地味だが茎は硬くしっかりと立った植物で、穂は柔らかい。
そんな風に目立たずしっかり、それでいて包み込むような優しさや気配りが持てるようにとこの植物を選んだ。
最近は『執事とはなんぞ』という会話をすることが多かったので、思い浮かんだ題目だった。
「なるほど・・・。やっと貴女らしさが出せましたね。」
ふんわりと笑う。
それは前世でスチルでみた優しい微笑みだった。
突然出た貴重ショットに目を見開いてしまう。
うわぁぁぁぁぁっ
華穂様にしか見せない笑みだ。
華穂様が想い人を決めた以上、もう見れないと思っていた。
この笑みが見れたことも嬉しいが、宗純がこの笑みを出せるようになったことも嬉しい。
華穂様との仲が進展していなくても宗純の迷いが晴れてきている証拠だ。
「突然何をニヤニヤしているんですか、気持ち悪い。」
心の中で喜びをかみしめていたらいつの間にか宗純はいつもの表情に戻っていた。
・・・・・・・・私がニヤニヤしてるのをわかるのは宗純だけだと思います。鉄面皮の達人怖い。
「貴女の表現したいことだとここにこの花を挿した方が・・・」
宗純が少し手を加えると一気に作品が輝き、かつ葦の柔らかさとアマリリスの強さが際立つようになった。
「続いては華穂さんですが・・・・」
「はっ、はいぃ!!」
正座したまま飛び上がらんばかりに驚いている華穂様。
「えっと、この作品のテーマは・・・そのっ・・・なんでしょう?」
はい?
山盛りの花と予想外の返事に顔には出さないが目が点になる。
「なんだか作りたいものを作ったらこうなりましたっ!」
華穂様は開き直ったように言い切った。
「つまり・・・これが今の貴女の心の形ということですか?」
「はい!そんな感じです!!」
こんもり盛られた花を見る。
技術など何もなくただひたすら盛られた花の山。
・・・・・・・・・華穂様の心の中は花満開ということだろうか。
無造作に挿してあるように見えるが、ぎっしり積み重ねられているにもかかわらずどの花も潰れることなく美しく咲き誇っている。
確かに華穂様の心の中を表現しているのかもしれない。
「・・・・・・作品の良し悪しはともかく、これが貴女の心だというのなら、なにも言いません。
そうですね・・・。
もう少し落ち着いて、しっかり技術を思い出せるようになれば今までより良い作品ができるでしょう。
それは持ち帰って自分が一番よく見る場所に置いておきなさい。」
「はい。」
「本日の指導はこれで終了です。
ふたりとも今日は良いものを見せてもらいました。
今日のことを忘れず、精進してください。」
「「はい」」
帰りの車に乗り込むと同時に華穂様は大きくため息をついた。
「なんかすっごくやっちゃった気がする。」
自覚はあるようだ。
「宗純先生からは特に注意もありませんでしたし、ありのままの華穂様らしくてよろしかったのではないでしょうか。」
「やっぱりありのまま・・・・?」
「はい。たくさんの花が咲き乱れていて楽しそうな生け花でした。」
私の言葉に華穂様は両手で顔を覆ってしまった。
隠しきれてない耳がほんのり赤い。
「この作品、見ていただかないといけませんね。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
誰にとは言わないが。
「・・・・・・・・・・私ってそんなにわかりやすい?」
「素直なのは華穂様の美徳だと思います。」
実は隼人の家で華穂様に好きな方がいらっしゃることはわかったのだが、具体的な名前は聞いたりしていない。
バレバレだけれども。
私に相手がばれていることがわかった華穂様はさらに赤くなる。
可愛いけれど、このあと大丈夫か心配になってくる。
この可愛さにやられて想い人が良からぬことをしないように今日はぴったりくっついておくことを決めた。




