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華穂様の挙動が不審だ。
朝からずっとそわそわしている。わかりやすすぎである。
仕事中は心内はどうであれポーカーフェイスが標準装備の私にはとても微笑ましく見える。
今まで華穂様の心がわからず悩んでいたが、本人に自覚がなかっただけらしい。
・・・・・・よかった。隠れ肉食系とかじゃなくて。
隼人の家で自分の気持ちを自覚してからの華穂様はとにかく乙女だ。
想い人からのメッセージに赤くなったり、ぼっーっとしてみたり、ベッドに突っ伏して足をバタバタさせていたり。
あまりの可愛らしさにこちらが心の中で悶えている。
想い人にこの可愛らしさを見せてあげられないのが残念だ。
今もぼーっとしている華穂様に声をかける。
「華穂様、そろそろ生け花に行くお時間ですが・・・・。」
「あ、うっううん!じゅっ、準備するね!!」
大丈夫かなぁ。
本性を見せて以降、レッスンでも毒舌になった宗純の前でぼんやりなどしなければいいが。
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「本日は自由制作にします。」
宗純の言葉に顔にこそ出さないが内心がっくりする。
最近の生け花では宗純の手本を真似るだけではなく、題目を与えられてそれに沿った作品を自分で考えて作ることも増えていた。
・・・・・・私はこれが大の苦手である。
何にも思いつかないのだ。想像力の欠如も甚だしい。
先日は【秋の実り】という題目だったのだが、本当に何も思い浮かばず、栗とかさつまいもとかそのまま並べてはダメだろうかなどと思っていた。
宗純は私が苦手なのをわかっていて自由制作をさせている気がする。
いや、指導者としては正しい方針なのだろうが。
「こちらが決める題目はありません。ご自分で考えて好きに活けてください。
後でできた作品を前にどんな想いを込めたか聞かせていただきます。」
・・・・・・・まさかの題目考えるところから自力。泣きたくなってきた。
花器を睨みつけながら(もちろん外からは無表情)題目を考える。
と、隣でスイスイ腕が動いていることに気がついた。
華穂様が結構なスピードで花を活けていく。
顔はとても真剣でなにか閃いたのかもしれない。
「華穂さんは順調なようですね・・・。平岡さんはまたですか。」
宗純から呆れを含んだ言葉をかけられる。
うぅう・・・、申し訳ございません。
空っぽの花器を前に私が思い悩むのはいつものことだ。
「題目があるから思いつかないのかと思いましたが、自由でも思いつきませんか。
一体、あなたの頭の中は何で占められているのでしょうね。
それとも何も入っていないのでしょうか。」
返す言葉もございません・・・・。
「貴女には好きなものや楽しかった思い出などはないのですか?
今回は何を活けてもいいのです。
なんだったら嫌いなもの悲しかったことでも構いません。何かあるでしょう。」
好きなもの・・・。
ちらりと華穂様のことが頭を掠める。
いやいや、本人を前に題目は自由だったので本人をイメージして活けましたなんていったら、変態すぎだろう。
ドン引きされてしまう。
他に好きなこと・・・・。
あ、これいいかも。
「何か思いついたようですね。」
う、見透かされた。
やっぱり鉄面皮が標準装備の宗純にはポーカーフェイス歴5年ごときではかなわないらしい。
ちょっと恥ずかしい。
「貴女は技術には問題ないのですから、思い切りやってみなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
私はいつもより軽く感じる腕を動かし始めた。
ふぅ。
区切りのいいところまで活けてしまいひと息つく。
ずいぶん集中していた。
自由制作の時はいつも『あれでいい?それともこっちが・・・』と悶々と悩みながら活けるので、集中力が続かない。
久々にじっくり活けられた気がする。
華穂様は・・・・・・
!!!!!!??????
な、なにあれ!?
花の山ができている。
もう盛り過ぎて花器が見えない。
そんな状態なのに華穂様はさらに花を挿していっている。
もう根元が剣山に届いているかどうかすら怪しい。
ちらっと宗純の様子を伺うといつもの顔のまま華穂様を見ていた。
止める気はないらしい。
「・・・・・幸せそうですね。」
宗純のつぶやきが聞こえると同時に彼の顔がこちらを向いた。
「人のことを気にしていないで、自分のことに集中なさい。
まだ終わっていないのでしょう?」
「はっ、はい!」
慌てて仕上げに入った。




