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「美味しい。」


ほうっと感嘆のため息が出る。


一弥の連れてきてくれた店は多国籍料理というべきか無国籍料理というべきか、どこかで見た料理と料理がフュージョンしているものが多かった。


生春巻きにサルサソースがかかっていたり、肉じゃがのピザだったり鯉のカルパッチョだったり。


ちょっと


この組み合わせ本当に美味しいの?


と思ってしまう組み合わせなのだが、実際食べてみると絶妙なバランスで食べたことのない味を提供してくれる。


空太を連れてきたら喜んでくれそうだなぁと思うが、隣の人物が怖いのでそれを口には出さない。


「でしょう?この店でしか食べられない味なんだよねぇ。」


気に入っている店を褒められて、自慢げに一弥が笑う。


「良いところに連れてきてくれてありがとう。」


美味しい料理のおかげで最初の気まずさはなく、会話は弾んだ。


「どういたしまして。」


返事をする一弥の顔がとても優しくて、とくりと心臓が音を立てる。

その音を誤魔化すように私は口を開いた。


「ところで、今日はなんで呼び出したの?」


「なんで?」


私の質問の意図がわからないようで、きょとんとした顔をされる。


「何か話があったんじゃないの?」


一弥の表情がみるみるうちに不機嫌になっていく。


「・・・・・・この間の埋め合わせって言ったでしょ?

それとも、理由がなけりゃ俺に会う必要ない?」


・・・・・・・なんだか地雷を踏んだようだ。


「話ねぇ。あぁ、御曹司との5日間はどうなったの?」


「いや・・・・まだ、流様から連絡来てないから・・・。」


「ふぅん。

連絡来たらどうすんの?

5日間、あいつとなにするか聞いてる?

あんなのの側にいて無事に過ごせると思ってんの?」


「執事をつけるかどうか考え中みたいで、私で5日間お試し執事体験をしてみたいんだって。

・・・・・無事に過ごせるってどういう意味?」


声のトーンがすっと低くなる。


「まんまの意味だよ。

わかってんの?男相手に執事5日間とか。」


心が凍てついていくのと同時に、中心部にマグマのような怒りが溢れていく。


一弥は私の逆鱗に触れたことに気づかずに言葉を続ける。


「男は狼って聞いたことないの?

唯ちゃん、自分が強いからって油断してるのかもしれないけど、相手が準備万端整えてたら抵抗できんの?

手錠かけられても外せるくらい怪力?相手が刃物持っててこっちが丸腰だったら勝てる?」


「・・・・・・いい加減にしなさい。」


先ほど一弥を止めた時とは比べ物にならないくらい低い声が出た。

声に静かな怒りが滲み出しているのを自分でも感じる。


「そんなに私を侮辱したいの?」


「侮辱なんてしてない。事実を言っただけ。」


「そうね。確かにあんたは事実を言っただけ。

そしてあんたのいう事実は私の仕事を侮辱してる。


男性主人に仕える女執事は誰もが伽の相手をしてるとでも?

馬鹿にしないで。

そうならない為に躱し方も学んだし、護身術だってある。

何よりそんな主人こちらから願い下げ。

契約が残ってようがなんだろうが、警察に訴えてやる。


私たちにだって主人を選ぶ権利がある。

自分で『この人』と決めて仕える。

あんたはその私たちの主人を見定める目も疑ってる。

そうやって見定められた主人はそんな馬鹿な真似しないし、そもそもそんな扱いをしていいと思わせるような仕事はしない。


主人を影から支え、私たち執事がいて良かったと感じてもらう。

そういう仕事をすることが私たち執事の誇り。

伽の相手を命じて辞めてもいいと思わせるなんて三流のやること。

あんたの目に私の仕事はそんな三流に写ってるってことね。


確かに女である以上、力で男にかなわないこともある。

それで最終的に不本意な結果になったとしても、それは私の仕事かもしくは見る目か、自衛の努力が足りなかっただけ。

それを受ける覚悟くらい執事学校に入った時にとっくにできてる。

そんな覚悟もない女だと思われてたなんて、私も甘く見られたもんね。」


静かに言い募る私に、一弥は一言も口を挟まなかった。


「・・・・・・でも、御曹司あいつは唯ちゃんが自分で選んだわけじゃないでしょ?

それでもいいの?」


「あの方には助けていただいた。

それに今まで接してきて流様なら同僚を推薦してもいいかと思うくらいには信頼してる。

もし何かあったら見る目のない私を嘲笑ったらいい。」


大きく深呼吸をする。

本当は口に出したくない。

さっきだって避けたばかりだ。

避けて避けて同じところをぐるぐる回るのは、踏みとどまっているのと同じことなのだろうか?


「一弥。

あなたは私に何をさせたいの?

あなたは何を望んでいるの?」





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