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ヤンデレ注意報発令中。

一弥に連れてこられたのは今流行りの隠れ家のような店だった。

白い漆喰の壁に木製の扉がひとつぽつんとついているだけ。

看板も店先のメニューもなければ窓すらない。

店には見えないが逆に目立ってしまいそうな造りだった。

店内はカウンター席が数席で、残りは全て個室だった。

なんというか


「いかにも芸能人って感じ。」


「芸能人だからねぇ。」


一弥が選んだのはもちろん個室だった。

4人座ればぎゅうぎゅうみたいな空間で、天井がドーム状になっており洞窟やかまくらを思い出させる。

テーブルは円卓でその高さに合わせて壁の一部が飛び出しており、そのままイスになっていた。

一弥がドアを閉めるとそれだけで密室感が増す。


「もう少し離れて座らない?」


狭いといっても4人は入りそうな空間だ。

ふたりだったらくっつく必要なんてない。


「ダメだよ。この店はこうやって楽しめるのがウリなんだから。せっかくなら十分活かさないと。」


ただでさえ近かった距離が腰に手を回されより近づく。


「こういう店に詳しいなんて、さすが恋多き男。」


「なぁに、嫉妬?」


くすりと笑う一弥に秒速で返す。


「いや、全然。」


「唯ちゃんはブレないよねぇ。こう、ちょっとクラときたりしない?」


そのまま私の耳元に顔を近づけてくる。


「俺、声にも身体にも自信あるんだけど。」


深く艶のある甘い声に思わず震えそうになる背中を意志の力で押さえつける。

腰を抱かれてる状態で震えがばれのはまずい。


「そんなに簡単にクラッとくる女が好き?

私は声も身体も関係なく、中身が大事なの。

クラッとさせたいなら中身を磨いてきて。」


本当は余裕のあるフリを装うので精一杯だが、そんなことは悟らせない。執事生活で培ってきたポーカーフェイスを全力投入する。


「中身ねぇ・・・・・。どんな中身だったらお眼鏡に叶うの?」


「え?」


ど、どんな??


「中身教えてくれなきゃ磨きようがないでしょ。」


か、考えたことなかった!!

とっ、とりあえず一弥に希望を持たせないように正反対の人物像を・・・・!!


「うーんっと、優しくて、一途で、ええっと・・・誠実で、素直で、努力家で、爽やかな人・・・・かな。」


「・・・・・・・・それって隼人ってこと?」


ああ、言われてみれば隼人はぴったりだ。


「うん、そんなかんじいっっっっ!!!」


突然耳をがぶり噛まれた。

甘噛みなんてものではなく、歯型がつきそうな勢いで。

一弥は噛み付いたまま言葉を紡ぐ。


「唯ちゃんも諦めが悪いよねぇ。

隼人は華穂ちゃんに夢中だってわかってるでしょ。

それなのにいつまでも・・・・・。

おまけに槙嶋の御曹司までたらし込んで。

あぁ、実はお固く見えて、人の男を取る趣味でもあんの?

だったら俺も華穂ちゃんのこと好きなフリしたら奪い取ってくれる?」


「なっなんの話!!??」


耳が千切られそうで下手に突き放せない。


本当になんの話だ。あくまで好きなタイプの例をあげただけで、隼人だとは一言もいっていない。

流にいたってはなんで名前が出てくるのかすらわからない。


「困った華だねぇ。

手元で育てるとくすんじゃうし、野で育てればどんどん悪い虫を引き寄せる。

・・・・・ねぇ、どうしたらいいか教えてよ。」


一弥が何か言っているのはわかるが、痛くてそれどころではない。


「痛いっからっはっなしってっ・・・・」


「痛い?唯ちゃんに痛みを与えてるのは俺だよ。隼人でも御曹司でもない。俺のことだけで頭いっぱいになって。」


噛んでは話し噛んでは話し。

ジンジンする耳はだんだん感覚がなくなってきた。

逆に痛みが薄らいだ分、思考力が戻ってくる。


この・・・・・ヤンデレがぁ!!


耳を噛まれてるから頭は下手に動かせない。

覆いかぶさられるように抱きしめられているので、腕も使えない。

脚は・・・・動かせないことはないがたいしたダメージは与えられなさそうだ。

あと使えるものは・・・・


「離しなさい。」


静かに深く強く、命じるように声を出す。

噛んでいる力が少し緩んだ。


「逃げたりしないから、離しなさい。」


もう一度、同じ口調で繰り返す。

ゆっくりと頭が離れていくにつれ、一弥の顔が見える。


あぁ、その表情かおは・・・・・。


噛まれた私よりもよっぽど痛そうな顔。

その表情はスチルで見たことがある。華穂様に救いを求めていた時の表情かお

どうして私にそれを見せるの。

私にはそれを受け止める資格がないのに。



「・・・・・この店では人間を食べるの?相手は大きな猫っぽいし、宮沢賢治の世界?」


人間を犬か猫にわけるなら、絶対に一弥は猫だ。

猫というか黒豹?

大きくて危険で、でも目を離せない魅力がある。


「それとも料理を頼むのも待てないくらいお腹すいた?

一弥が連れてきてくれたんだから、もちろん美味しいとこなんでしょ?

私も早く食べたい。」


ゲームの華穂様だったらそのまま抱きしめて、そばにいることを誓うのだろう。

それができない私はただ話を逸らす。


「・・・・・俺のオススメはねぇ」


あからさまな逸らし方でも一弥は乗ってきてくれる。

あの表情は一弥にとっても触れられたくないデリケートな部分だ。


お互いをごまかしながら私たちはメニューを選んだ。




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