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ピタリと耳をつけるとふすまの防音性などあってないような物だ。

綺麗に向こう側の声が聞こえてくる。



「・・・・・・なんか、母さんがすみません。」


「全然気にしないで。唯さんがいいならわたしもそれでいいし。」


「唯さんの件もそうなんスけど、今日もわざわざ来てもらったりして・・・・・。」


「それについてこっちがお礼を言う方だよ。

隼人くんのお母さん、こんなに素敵なものが作れるなんてすごいね。

びっくりしちゃった!」



ふたりの和やかな会話が聞こえてくる。

・・・・・・話したいことがあったんじゃないのか?

和やかな会話が続く中、隼人が切り出したのは唐突だった。



「あああああああのっ、おっ俺、ふっふたりで話したいことがあるんです。今度、時間とってもらえませんかっ?」


「うん。大丈夫だけど・・・・・、今じゃダメ?

隼人くん忙しいから時間合わせるの大変じゃない?」


・・・・・・・気づいてないから仕方ないとはいえ、華穂様鬼だなぁ。


「いやっ、ダメっていうか、そのっ・・・えっと、あのっ・・・・・・」


うまい返事が見つからないようで慌てている雰囲気が伝わってくる。


「おっ、俺っ、今日すっごく楽しかったです!

母さんと雛と華穂さんと、みんなでこんなに楽しく話せる日がくるなんて想像もしてなかったです!!」


「うん、わたしもとっても楽しかったよ。」


「だっ、だからっ、これからもずっとこうして楽しく話がしたいっていうか・・・・雛と母さんだけじゃなくてっ、勇人たちも一緒に・・・・・・」


「そうだね。今日は会えなかったから今度は勇人くんたちがいる時に来たいな。」


そうじゃなくて!!!


「そうじゃなくて!!!」


思わず、私の心の叫びと隼人の叫び声が重なった。


隼人は興奮してきているのか聞き耳を立てなくても普通に聞こえそうな勢いだ。



「ああのっ・・・そのっ・・・すいません。急に大きな声出して驚かせちゃいましたよね。

えっと・・・俺、驚かせたかったわけじゃなくて・・・・なんというか・・・・」


だんだん隼人の声が尻すぼみになっていく。


「おおおおおお俺と結婚してください!!!!」



一瞬、時が止まったかと思った。

パニックなのか勢いが必要だったのか、隼人は家中に響き渡るボリュームで告白していた。

しかもプロポーズ。


・・・・・・なんか、やっと言ったというよりやってしまった感が強すぎる。



「やっ、ちがっ、けっ結婚じゃなくてっ、結婚を前提にっつっ付き合ってほしいっていうか・・・・いやっ、でもやっぱり結婚してほしいのも本当で、あああああもうっ、お俺何言って・・・・・」


大きなため息とともに、隼人母が横で頭を抱えている。


「あの子ったら・・・・・」


お母さん、激しく同情します。

隼人は純情で可愛いが、自分の息子だったら頭を抱えたくなるかもしれない。


ゲームではちゃんと『俺、華穂さんのことが好きです』って告白してたのになぁ。

ゲームの強制力は肝心なところで働かないらしい。


まだふすまの向こうから混乱した気配が伝わってくる中、静かに華穂様が口を開いた。


「隼人くん。」


『あっ』とか『うっ』とか言葉にならない音を発していた隼人の声がピタリと止まった。


「気持ちは嬉しいです。・・・・・でも、ごめんなさい。」


「・・・・・・・・付き合ってる人がいるんですか?結婚は言い過ぎました。お付き合いだけでもっ!」


「いないよ。けど・・・・・・今日、このお家に来て、大切なことに・・・自分の気持ちの在り処に気がついたの。

だから、隼人くんの気持ちには応えられません。ごめんなさい。」


華穂様の返事の後、沈黙が下りた。

ふたりともどんな表情をしているのだろう。

自分のことではないのに沈黙がつらい。


「・・・・・・頭あげてください。華穂さんと付き合えないのは残念ですけど、別に謝ってもらうようなことじゃないスから。



ぷっ。

なんで振られた俺じゃなくて華穂さんの方が泣きそうなんですか。」


「ごごごごごめんっ」


「まだ付き合ってないってことはこれから告白ですね。

・・・・・縁起でもないですけど、もし振られたら、俺のところに来てください。

華穂さんが幸せになるまで俺の隣は空けておくんで。」


振られたことで落ち着いのか、隼人の優しい声が穏やかに聞こえてくる。


「え!?いやっ、そんなわけには・・・」


「嫌です。俺の隣は俺の好きにします。

・・・・・だから、華穂さんは俺の隣の空席をあける時間を短くできるように、頑張ってきてください。」


「ええぇぇ!?」


形勢逆転。

珍しく隼人の方が攻めている。




「残念。可愛いお嫁さんを逃しちゃったわぁ。」


私の隣で、隼人母が困ったように笑う。


「まあ、こればっかりは仕方ないわねぇ。

口を出したら馬に蹴られて死んじゃうし。

・・・・それに失恋であの子もまた少し成長したみたいだしいい経験になったかしらぁ。」



“自分の心の在り処に気づいた”


華穂様が心を決めた。

これで私の目指す先も決まった。

華穂様の目標に向かって全力でサポートしていくだけだ。


選ばれなかった攻略対象者のついてはいくつかフォローが必要かもしれないが、大したことはないだろう。

母親の言う通り、隼人は失恋まで含めてこの恋を通して成長した。

女の子と話すことさえできなかったことを考えれば大幅な進歩だ。

今はこうやって話して、相手を弄れるまでになった。

隼人はこのまま大きく成長していくのだろう。


隼人の今後に幸あれ。




・・・・・その前に、ここを切り抜けるのが最優先だろうけど。


「隼斗、残念だったわねぇ。」


「母さんっ!?」


スパーッンとふすまを開け放って隼斗母がふたりの前に姿を表す。


「えっ!?ちょっ!!ままさか聞いて!!!???」


「そりゃあ、あぁんなに家中に聞こえるような大声でプロポーズしてたら嫌でも聞こえちゃうわよぉ〜。

気を利かせて入ってこなかったお母さんを褒めてほしいわぁ。」


その前からしっかり聞いてましたけどねっ。


ここからは母親が息子をいじり倒すという親子コミュニケーションが繰り広げられ、巻き込まれた華穂様が赤面して机に突っ伏すという展開になっていった。


振られた気まずさも振った気まずさもない、賑やかな空間だった。

やっぱり母とはどこの家庭でも強いらしい。

隼人ファンの読者様とかもしいらっしゃいましたらごめんなさい!!

最後まで悩んだんですが、隼人はこういう結果になりました。

本当はこれをキリよく100話にしたかったんですけどねぇ。

ifでラブラブな隼人と華穂を書いてみたい気がしなくもない。


昨日予告していた拍手お礼書き終わりました!

本日中にはUP予定です!

UP後にまた活動報告で報告します。

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