Epilogue
普段だと閑静な一帯だが、けたたましいパトカーのサイレンと工事の轟音で騒がしい住宅街を1台の黒いクラウンが走り抜けていく。
そして、クラウンは高層で高級なマンションの手前で停車する。
「上条、ありがとう。」
久しぶりに自宅に帰ってきたユリカは護衛兼運転手の上条に感謝の言葉を伝える。
「……?! 」
ユリカが右後部座席から降りようと上体を上げると、フロントガラス越しに1台、バックミラー越しに1台の黒塗りの車が視界に映り込む。
「いつから、つけられていたのかしら……」
ユリカは、ハァ…と溜め息をつくと足下に収納されているケースからアサルトライフル【TAR-21】を取り出し、弾倉をセットし初弾を薬室に装填する。
「すかさず、EMPによる停電とは流石ね…」
ユリカの周囲が暗闇に包まれるだけではなく、クラウンのエンジン音も聞こえなくなる。
「本部との連絡がつきません。朝霧さん、私が奴等を引き付けている間に逃げて下さい。」
上条は現状に狼狽えながらも、スーツの上着に隠れているショルダーホルスターから【 コルトSERIES 80】を取り出す。
「上条、待って。ここまで、計画性を持って行動する連中なら交渉の余地があるかもしれないから……」
狼狽する上条とは打って変わり、アサルトライフルを一旦、置いたユリカは今までの経験から全ての可能性を模索する。
「?!」
ユリカの自宅マンションの約1km後方にある高層ビル屋上で閃光が刹那的に発生したかと思うと、次の瞬間にはクラウンのボンネットの上で弾丸が跳ね、ボンネットが一部損傷して隆起する。
「この車にダメージを与えることが出来るってことは対物ライフル!」
驚きを隠せないユリカをよそに、今度はパッ! パッ!っと連続で閃光が生まれるとクラウン左側の前後のホイールがタイヤを地面すれすれまで覆っている防弾プレートごと拉げる。
「うっ! うぁぁ!!」
異常な現状に上条はヒステリック状態に陥り、思わずクラウンから降りるが次の瞬間には上半身が木っ端微塵に飛び散り、下半身だけが運転席のドア付近に佇んでいる。
「ここまで、出来るテロリストをNSCが野放しにするはずはないはずよ…… なんで……」
然しものユリカも恐怖に駆られ、真っ赤に染まるクラウンの窓ガラスを茫然と見つめることしか出来なくなる。
「オカサトミヤの情報分析官、朝霧・B・ユリカさんで間違いありませんよね?」
ユリカが開いた左後方のドアを見ると【HK USP】を構えた玲香が立っている。
「宮之城御嬢様がどうして……」
ユリカは止まっている頭を必死に回転させて応える。
「ここまで、来て、まだとぼけるつもりですか? あなたを麻薬取締法違反と拉致監禁の容疑で拘束し、取り調べをさせてもらいます。」
玲香は憤りを堪えるように、更に続ける。
「ビスマルクを薬物で内部から弱体化させてまで、オカサトミヤの利権を確固たる物にする必要性は無かったんじゃないかしら?」
「そう…… そうじゃないわ、権利やお金欲しさにビスマルクにギフトを流した訳じゃないわ!」
意気消沈していたユリカの感情が徐々に高ぶっていく。
「ギフト…… じゃあ、どうして?」
玲香は怪訝な表情を見せる。
「オカサトミヤと私自身の権利をより強めることで、私達が統べることが出来る地域を拡大して、少しでも早く争いの無い世界を実現したかったからよ!」
ユリカは声を張り上げるように応える。
「なるほどね、だからあなたはCIAを辞めてまで、オカサトミヤに転職したのね…… それでも、あなたが行ったことが犯罪であることには変わり無いわ。」
玲香はふむ…と頷いたあと、冷たく突き放す。
「彼女達の存在がイレギュラーだったのよ……」
ユリカは絶望に打ちひしがれながら呟く。
「そうね、私にとってもイレギュラーだったわ…… でもね、彼女達のおかげで梓に出会うことも出来たわ……」
玲香はセンチメンタルな気持ちを拭うように、銃口をユリカに向ける。
「とにかく、詳しい話は場所を移して聞……?!」
言葉を遮るように玲香のスマホに着信が入る。
「もしもし、姉さんから電話を掛けてくるなんて珍しいですね。」
「久しぶり、玲香ちゃん。いきなりですが、クイズです♪ あたし、宮之城玲香はどこにいるでしょう?」
玲香のスマホからは不気味なくらい明るい声が聞こえてくる。
「えっ、いきなりなんですか姉さん…… 確か、今はパリの高校ですよね。」
玲香は戸惑いながらも答える。
「ブ、ブブー! 正解は玲香ちゃんの後でした♪」
直後、1発の銃声が暗闇のなか響き渡る。
「姉さん…… どうして」
左脇腹に銃弾を受けた玲香はその場に倒れる。
「そんな、宮之城玲香が2人……」
ユリカは玲香によって玲香が撃たれたという現実に言葉を失う。
「あぁ、そこに倒れているのは双子の妹、静華。それで私が本物の宮之城玲香なんだよね。」
静華と容姿が瓜二つの玲香は狂気に満ちた笑みをユリカに向ける。
「えっ?」
ユリカは説明を受けても、状況を把握しきれていない。
「別に分からなくても良いよ、どうせ殺すし♪」
玲香はそう告げると、ハンマーからグリップにかけての流線的なラインが特徴のベレッタ【PX4 TYEP D】をユリカに向け発砲する。
「茅花、監視役おつかれ♪ 最近、もう1人増えて大変だったでしょ。これからは、私のことを玲香ちゃんって呼んでも良いからね。」
玲香はスマホから無線機に持ち変え、1km先の狙撃ポイントに視線を向ける。
「…… …… 」
茅花は憤りと自責の念から沈黙し続ける。
「まっ、良いか…… ?!」
玲香のスマホに着信が入る。
「あぁ、凪ちゃん。今、終わったところ」
玲香は嬉々とした表情で京橋と会話を進める。
「うん。100億円、指定した場所に持って来てね。」
玲香は報酬の受け取り方法を再確認する。
「ホント、凪ちゃん達『Chevalier』って何者?…… ですよね〜 だから、千切れたトカゲの尻尾さえシュレッダーにかけた訳だし。」
「…… Chevalier ?」
静華は息が荒くなり、目の焦点がぼやけるなかで玲香に尋ねる。
「静華ちゃんには関係のないことだから!」
玲香は電話を切ったあと、語尾に合わせて、静華の傷口を蹴る。
「うっ…… 」
傷口からよりおびただしい量の血液が溢れ出す。
「最近の静華ちゃん、気に食わないんだよね。勝手に友達なんか作っちゃってさ、私の人形なんだから、私の言うことだけを聞いてれば良かったんだよ。」
玲香は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべながら、静華の傷口を踏みつける。
「っは…… 姉さん、もうやめて……」
静華は息も絶え絶えになりながら、懇願する。
「そう…… ならもう帰るから、じゃあね静華ちゃん。」
再び、不気味な笑みを見せた玲香は踵を返し、闇夜に消えていく。
静華は残りの命を振り絞るようにして仰向けになる。
「梓だけには教えたかったわね…… 私の名前。」
ー Fin ー
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「2年前、私は親友とその恋人を見殺しにした…… 」
『アカトカキヴァンシュー Chevalier Oblige ー』
Coming Soon
まず、『アカトキヴァンシュ-GUN OPERATOR GIRL- 』を最後まで読んで頂きありがとうございました。
処女作の為、至らない点ばかりですいません(^-^;
本作は質・量より、自分なりに期限を設けてとにかく小説を書くことを習慣付けることを意識して書き上げました。
次回作は4月中に投稿を開始する予定で、プロット・設定等を調整していきます。また、良ければ読んで下さい。




