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アカトキヴァンシュ-GUN OPERATOR GIRL-  作者: 久マサル
七章.玲香とベレッタ
29/30

26話

「茅花さん、本日も宮之城御嬢様はお休みなのでしょうか?」

「そうだよ。今、ちょっと大事な仕事があって休んでいるんだよ。」

茅花は教室でクラスメイトの茉莉奈(まりな)と弁当箱を広げて昼食を食べている。

「左様ですか… 茅花さんが学校に戻ってこられましたし、また3人で昼食を食べたいと思っていましたので残念ですわ。」

黒髪のおさげが似合っている茉莉奈はしょんぼりと肩を落とす。

「またまた〜 茉莉奈の会社が経営しているカジノの警備契約料に関することで玲香ちゃんと交渉したいんでしょう?」

茅花は一瞬にして、茉莉奈の真意を言い当てる。

「確かに、宮之城御嬢様と雑談をしていくなかでその事に関する話になる可能性は少なからずありますわね。」

茉莉奈は話の焦点を少しぼかして応える。

「別にいいけどね、茉莉奈は玲香ちゃんや私の仕事に対して理解があるし… ちょっと、ごめんね。」

茅花はスマホの着信音に気付き、メールをチェックする。

From『梓さん』

本文『茅花ちゃんなら知っていると思ってメールしたんだけど、玲香ちゃんが一番好きな食べ物を教えて欲しいな。


最近の玲香ちゃん、今までよりもずっと頑張っているから少しでも応援したいなって思って。』

To『梓さん』

本文『玲香ちゃんはカニクリームコロッケが一番好きだよ。ちょっと、おやじくさいでしょ(^q^)


食材は私が買って帰るから、梓さんは家で待ってて♪』


「… …」


To『梓さん』

本文『玲香ちゃんはカニクリームコロッケが一番好きだよ。ちょっと、おやじくさいでしょ(^q^)』

茅花は少し躊躇いを見せたあと、メール本文の一部を削除して送信する。

「ごめんなさい… 少し気分が優れないからお花を摘みに行ってきますわ…」

「えっ… ええ。」

茉莉奈は茅花の何かに耐える表情にたじろぎなからも返事を返す。

「ごめんなさい…」

茅花は教室を出ると、感情に背中を押されているかのように早歩きで化粧室に入る。


ーーーーーー


「あっ! 茅花ちゃんからの返事だ。」

梓はメールの着信音に気付き、内容を確認する。

「ふふ、確かにおやじくさいね。カニクリームコロッケか… あれって作るの難しいんだよね。えっと、足りない物は… 」

梓はぼやきつつも、冷蔵庫の中やキッチン回りを確認しながらメモする。

「拳銃持っていくし… 近くのスーパーだし… ちょっとくらい大丈夫だよね。」

梓はメモをスカートのポケットに入れ、レッグホルスターにシルバーフレームの【M9A1】を収める。

「… 行ってきます。」

「近道通っていこうっと。」

梓は大通りから路地に入る。

「お姉さん、1人? 良かったら俺達と遊ばない?」

「ちょっとくらい遊んでくれても良いじゃん!」

男達は下卑た目を女性に向ける。

「止めて下さい。そこを通して下さい。」

「…?! あんた達、何をしてるのよ!」

その現場を目撃した梓は居ても立ってもいられなくなり、忠告する。

「なんだ、お嬢さん? あんたが代わりに遊んでくれるのか?」

1人の男が梓に突っ掛かってくる。

「私、請負人なのよ。これ以上、その人に迷惑をかけるなら、それなりの対処をするから。」

梓は所属PSC『宮之城民間警備ホールディングス』と印字された請負人登録証(ライセンス)と【M9A1】を男達に突き付ける。

「ちっ! 行こうぜ。」

「ああ…」

諦めた男達は梓と女性の前から去っていく。

「ありがとうございます。助かりました。」

「いえいえ、それにしてもなんで絡まれていたんですか?」

梓は怪訝な表情を浮かべる。

「はい。私、友達と東京に遊びに来たんですけど… いつの間にか、友達とはぐれちゃって道に迷っていたらさっきの人達に絡まれたんです。あの、重々で悪いんですけど駅までの道を教えて貰えますか?」

先の状況を伝えた女性は申し訳なさそうな表情で梓を見つめる。

「なるほどね。この辺は物騒ですし、私も付いていって上げますよ。」

梓は女性を安心させようと笑顔で話しかける。

「ありがとうございます… あの、おいくら位支払えば良いのですか?」

「えっ… 今のは請負人としてじゃなくて、1人の人間として当たり前のことをしただけなので要らないですよ。こっちです。」

梓はそう伝えると最寄りの駅に向けて歩き出す。

「ありがとうございます。」

女性は改めて頭を下げる。

「地方から来られたのなら、東京の治安について詳しくなくても仕方ないですよ… あの、私の勘違いかもしれないと思うのですがどこかで会いませんでしたか?」

梓は頭の片隅にある記憶を確かめるように質問する。

「いえ、初対面ですよ。」

梓の後ろを付いていく、女性は応えながら鞄の中に手を入れる。

「あはは… そうですよね。ごめんなさい…? うっ!?…」

背後から強い電流を受けた梓は意識を失い、その場に倒れる。

「ターゲット確保しました… はい、登録証を確認しましたので本人で間違いありません。」

女性はスタンガンを片手に、スマホで誰かに状況を報告する。

「おい、急げ。」

「分かってる…」

さっき、女性に絡んでいた男達が車で駆け付け、梓を持ち運ぶ。

「行きましょう。」

気を失った梓と女性を乗せた男達の車が走り出す。


ーーーーーー


「次はビスマルクが持っていた薬物について調べてみようかしら。」

ハイバラ珈琲東京本店の地下にある情報端末機でデータベースにアクセスする玲香はカーディガンを羽織り、コーヒーを飲んでいる。

「この8月中旬の薬物事件の犯人… 元ビスマルクの請負人だったのね。」

玲香はテキストデータをスクロールしていき、読み進めていく。

「へぇ、この一件に梓が関わっていたのね… 依頼人は勿論、警察で、引き受けたのはオカサトミヤの情報分析官朝霧・B・ユリカ。」

更に、読み進めていく玲香はある点が気になる。

「依頼した男性警部補が後に辞職して、オカサトミヤのPSC部門に転職している… 癒着?」

玲香は元警部補が配属されていた警察署前に設置されている監視カメラの映像をモニターに映し出す。

「8月中旬だから… この辺りから再生してみようかしら。」

玲香は映像記録の日時を指定して早送りと逆再生を別々に同時で行う。

「あ、出てきたから… 早送りだけに切り換えて。」

玲香は映像記録で警部補の行動を追跡していく。

「バーに入ったわね…」

玲香はまたしても、逆再生と早送りを別々の画面で行う。

「朝霧さんが現れたわね。」

玲香は逆再生の画面を拡大し一時停止する。

「このバーは私の会社と契約してないからこれ以上は見れないか… 明日、直に店に行って調査協力を仰ぐしかないわね。」

玲香は呟きながら、腕時計を見る。

「もう、夜の9時… くしゅん!」

玲香は情報端末機の電源を落とし、エレベーターに乗り込む。

「楸さん、長居してしまってごめんなさい。」

玲香はカウンターに立つ楸に一言かける。

「いえ、御嬢様構いませんよ。それより、お客様がお待ちですよ。」

「えっ… 朝宮ついり!」

全く予期していなかった来客に玲香の声が大きくなる。

「えっと、初めまして。伊賀さんの元クラスメイトの朝宮ついりです。」

朝宮は礼儀正しく頭を下げる。

「ええ、知っているわ。用件は何かしら?」

玲香は朝宮に敵意を込めた鋭い視線を向ける。

「今、宮之城さんが欲しがっている情報を渡したくって来ました。」

朝宮はそう伝えると鞄から茶封筒を取り出すと玲香に渡す。

「朝霧さんとさっきの警部補の画像写真。」

玲香は茶封筒の中に入っている写真を次から次へと確認していく。

「何かを手渡している?」

「その紙袋に入っているのは、口止め料です。それで、こっちが映像記録です。」

朝宮はDVDを玲香に渡し、話を続ける。

「もう1つ渡す物があってですね… これは朝霧さんと薬物を結び付ける証拠です。」

朝宮が玲香に渡した画像写真には、ユリカと8月中旬に射殺された元ビスマルクの請負人が取引している様子が写っている。

「なるほどね。これでPSCビスマルクと薬品製造も行っているオカサトミヤの繋がりがはっきりしてきたわね。」

複数の証拠を前にして、合点がいった玲香は素朴な疑問を朝宮にぶつける。

「なんで、私の為にここまでしてくれるのかしら?」

「伊賀さんや宮之城さん達を巻き込んでしまったのは私の責任だと思ったから… その償いをしたくて。」

朝宮は慎重な口調で真意を伝える。

「そう… それにしても、これ程の証拠を集められるなんてあなた達は何者なの?」

玲香は更に疑問を投げ掛ける。

「ごめんなさい、それは教えられないんです。でも、もう1つだけ伝えます。」

朝宮の口調は更に重くなる。

「そうよね… それで何かしら?」

「伊賀さんがオカサトミヤによって誘拐されました。」

「えっ…」


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