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アカトキヴァンシュ-GUN OPERATOR GIRL-  作者: 久マサル
七章.玲香とベレッタ
28/30

25話

「何があったの…」

玲香が驚きを隠せないのも無理はない。

何故なら、玲香の目の前には、ピンポイントで爆撃を受けたかのような土地が広がっているからだ。

「ここに、病院があったなんて思えないほど徹底的に破壊されているわね…」

鉄骨やコンクリートの残骸達が転がるように点在している景色に驚嘆しつつ、玲香は黄色の帯に黒文字で『 KEEP OUT 』と印字されている規制線に手を掛ける。

「お嬢さん、こんなところで何してるんや?」

玲香の目の前に現れた、中年男性は怪訝な表情を浮かべている。

「私は、この事件に関する調査を行っている者です。」

突然、現れた中年男性に驚いた玲香は咄嗟に応えてしまう。

「調査… あんた、どっかのPSCの人間やな。おあいにくさまやけど、この一件は警察(うちら)のもんやで。」

中年の男性刑事は経験と感で、玲香の素性を言い当てる。

「… この事件はあなた達だけじゃ、手には負えないと防衛省が判断して私が派遣されました。」

玲香はしまったという表情を浮かべた後、すかさず不実を伝える。

「だったら、余計にお嬢さんの手を借りる訳にはいかんな… あんたらのお膳立てをして、これ以上、仕事を奪われたら敵わんからな。」

刑事は言い放った後、玲香を冷たく蔑視する。

「そんなつもりはありません。私は警察とも一緒にこの国を守りたいって考えています。」

玲香はさっきとは打って変わり、真意を伝える。

「そう思うなら、この事件から手を引いてくれんか? 俺達、警察はいつ、首を切られても可笑しくない状況のなかで、純粋に国を守りたいって気持ちで働いているんや。金欲しさに戦争屋しているおたくらと一緒にすんなよ。」

刑事は逆鱗に触れられたかのように感情が高ぶっていく。

「戦争屋…」

刑事の真に迫る言葉に玲香は黙ってしまう。

「とにかく、お嬢さんは帰った、帰った!」

刑事は玲香の右肩に手を掛ける。

「いいえ、仲間達の為にも譲れません!」

玲香は刑事の手をはね除けると、規制線を越え、現場検証を試みる。

「ええ加減にせいゆうてるやろ!」

刑事は玲香を追い、再び、右肩を掴もうとするが…

「きゃ!」

刑事に背中を押された玲香は跡地の土台から落ちてこける。

()ったい…」

「すまん、やりすぎた… 一つだけ事件に関することを教えるから帰ってくれ。」

擦りむいた左足の脛を押さえる玲香を見ていられなくなった刑事が事件に関して口を開く。

「何についてですか?」

「爆破に関する事だ。この病院の監視カメラの記録映像をチェックしても、爆発物が持ち込まれた形跡はなかった。」

刑事は玲香に手を差しのべ、話を続ける。

「病院内にも引火性や揮発性の高い医薬品は多数あったが、この規模の建物を全壊させる威力には到底足りなかったらしい。」

「見慣れない二人の少女…」

立ち上がった玲香が呟く。

「ああ、俺達もその二人が怪しいじゃないのかって考えてはいる。でも、建築工学の専門家曰く、仮にその二人が爆破のプロであっても半壊が良いところだと… でも、非現実的な方法を使えれば可能らしい。」

刑事は眉間にシワを寄せる。

「えっ? どういう方法ですか?」

玲香は首を傾げる。

「医薬品の爆発と同時に、病院中に張り巡らされていた全ての水道管に流れる水を水蒸気爆発させることが出来れば可能なんだとさ…」

「水道管の水蒸気爆発…」

ただ苦笑している刑事とは、異なり玲香は何か考え込んでいる。


ーーーーーー


「ただいま… ?!」

自宅に帰ってきた玲香はダイニングルームに明かりがついていることに気が付く。

「玲香ちゃん、おかえり。」

玲香が帰宅したことに気が付いた梓が出迎える。

「梓、ただいま。こんな時間まで起きていたの…」

玲香が腕時計を見ると午前0時30分を過ぎていた。

「あれ? 玲香ちゃん行くときはタイツだったよね?」

梓は玲香が紺のハイソックスに履き替えていることに気が付く。

「転んで怪我した時に破れたから履き替えたのよ。」

「ケガしたの?! ちゃんと消毒した?」

淡々と事実を伝える玲香とは打って変わり梓はあたふたする。

「絆創膏を貼っただけだわ。」

「駄目だよ、消毒するからソックス脱いで… ほら、スカートのお尻の部分も汚れてるよ。」

梓は玲香のスカートに付いている土埃を払う。

「ありがとう。京都からずっと汚れていたのに、気付いていなかったのは恥ずかしいわね。」

「… った!」

シャワーを浴びた玲香は梓に傷口を消毒して貰っている。

「玲香ちゃん、何か収穫はあったの?」

「ごめんなさい… 収穫と呼べる程の情報は獲られなかったわ。でも、梓が少し前に話してくれた二人の少女に繋がりそうな情報は手に入れたわ。」

玲香は自責の念に駆られる。

「玲香ちゃん謝らないでよ、それだけでも進歩だよ。」

梓が玲香に檄を飛ばす。

「ありがとう。梓に励まされるなんて、出会った頃には想像出来なかったわ。」

「私も、玲香ちゃんが弱音を吐く姿なんて、出会った頃には想像出来なかった。」

微笑んでいる玲香と梓の表情は柔らかい。

「明日は、楸さんの所に行って改めて情報を整理するわ。」

明日(あす)の予定を決めた玲香の表情はいつものキリッとした状態に戻っている。

「玲香ちゃん… 私も手伝いに行っても良いかな?」

梓は恐る恐る、玲香に尋ねる。

「その気持ちだけで十分有り難いわ。だから、家に居てくれるかしら?」

玲香は言葉を強める。

「だよね… でも、無理しないでね玲香ちゃん。」

梓は一度、言葉にした望みを呑み込んだ後、玲香に応える。


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