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アカトキヴァンシュ-GUN OPERATOR GIRL-  作者: 久マサル
六章.伊賀梓と宮之城玲香
25/30

22話

「忘れ物はないよね…」

梓の自室は備え付けの家具しか残っておらず入居以前の状態に戻っている。

「… 行ってきます。」

梓が出ていき静まり返った部屋には、日の光が差し込んで、静かに舞うホコリが見える。


ーーーーーー


ー A few days ago ー〈数日前〉


「今回の襲撃はテロリストによるものであることを念頭に置いて、事件の解明を進めていくだってさ。」

梓はスマホでPSCビスマルク本社の記者会見に関する記事を読んでいる。

「なるほどね、表向きにはテロリストの仕業に仕立て上げて、その裏では私の会社に多額の口止め料と損害賠償を送金してきたわけね。」

黒いセーラー服を着た玲香はハイバラ珈琲東京本店のカウンター席に座っている。

「なんで、日本の警察は今回の事件に対して、見て見ぬふりなの?」

学校のブレザーを纏っている梓は不服な思いを込めた質問を玲香に投げ掛ける。

「日本だけじゃなくて、ドイツも含めた今の各先進国にとってPSCが必要不可欠な存在だからよ。ビスマルク程の大手の損害は、治安維持の面に置いても大きな損害に繋がることが目に見えているから法的機関でさえ、そう易々と口は出せないの。」

「やっぱり、PSCってミネラルウォーターに似てるね…」

梓は思い出した言葉を呟く。

「確かにそんな感じかしら。というより、梓もそういったことに理解があるのね… 意外だわ。」

「玲香ちゃん、私のこと馬鹿にしすぎだから!」

梓はムスッ!と膨れっ面を玲香に見せる。

「ごめんなさい。それより、もうそろそろ彼等が着くわね。」

玲香は壁に掛けられた時計に目を向けたあと、カウンター席からテーブル席に移動する。

「そ、そうだね…」

緊張の色を隠せない梓もテーブル席に移る。

カラン… ♪

『close』の札が掛けてある入口のドアが開く。

大柄なスーツ姿の請負人2人に挟まれるようにスーツ姿の初老の男性が店内に入ってくる。

「宮之城玲香様、お初にお目にかかります。(わたくし)、オカサトミヤPSC部門東京本部情報管理局局長、司波和也と申します。以後、お見知り置き下さい。」

司波は玲香に対して慇懃な挨拶をする。

「司波さん、本日はよろしくお願い致します。早速ですが、事件に関する報告をお願いします。」

司波は玲香に促され席に着く。

「報告を始める前に、謝罪をさせて頂きます。今回は弊社の【(もと)】社員数名が御社に対して多大なる損害を与えたことについて心よりお詫び申し上げます。」

「!?」

玲香は突然の謝罪に一瞬、不意を突かれる。

「今回の件に関するお詫びの気持ちです、お受け取りください。」

司波に促された請負人がアタッシュケースをテーブルの上で開ける。

「うわ…」

札束が満杯に詰まったアタッシュケースを見た梓は思わず驚きの声をあげてしまう。

「お気持ちだけで結構です。司波さんもお忙しい身である方でしょうし、話を進めて下さい。」

玲香はアタッシュケースを閉じる。

「では… 今回、防衛省からのPSCビスマルク日本支部の幹部達の拘束任務を遂行中の宮之城様達を襲撃した部隊は弊社に所属していた数名の社員であり、その社員達はクシャトリアだったことが判明しております。」

アタッシュケースを請負人に渡した司波が淡々と説明を始める。

「世界的大企業の内部にクシャトリアのメンバーが潜伏していて尚且つ、御社が厳重に管理しているステルスヘリ【MH-60 Raid】を使用し私達を襲撃したということでしょうか?」

玲香は自社の調査部が撮影したヘリの残骸の写真を司波に提示した上で、含みのある質問を投げ掛ける。

「会社内部の深いところまで、クシャトリアに潜入されていたことは誠に遺憾ながら事実であります。」

「そして、御社はクシャトリアのメンバーを制圧する為に部隊を送り、制圧後、私達の救出に駆け付けたということですね?」

玲香はキリッとしている瞳をより鋭くして、問い掛ける。

「左様でございます。拘束任務の情報が漏洩していたことも考慮して、防衛省内部にも調査を行っている最中であります。」

司波は反省の意を伝える。

「… 分かりました。本日はご協力ありがとうございました。弊社も今回の件に関して原因を解明していきます。」

玲香は司波に向けて一礼する。

「この度は本当にご迷惑をおかけました。最後に一つだけよろしいでしょうか?」

「? 何でしょう?」

玲香は怪訝な表情を見せる。

「ありがとうございます。では、伊賀梓さん。」

「はい?!」

梓は突然、自身が話題に上がり驚く。

「本日をもって、オカサトミヤPSC部門東京本部所属の請負人、伊賀梓を解雇します。」

「!? どうして… でしょうか?」

梓は余りの衝撃に言葉が途切れ、途切れになる。

「宮之城民間警備ホールディングスとの連携を取っていくなかで当社の業務に関する機密を漏洩した疑い、更に依頼内容が更新される度に本部へ伝達しないことは契約違反ですので。」

司波は言葉を強める。

「この程度の違反で、その判断はあんまりじゃないでしょうか?」

玲香が所感を述べる。

「これは、当社内の問題であり、PSC東京本部に関する最終決定権は私にあります。」

司波はさっきまでとは異なり、玲香に対して強気に接する。

「でも… ユリカ… 朝霧さんは人事部に話を通しておくからって…」

梓は声を振り絞る。

「朝霧が言っていたのは、最初の依頼だけだったのでは? とにかく、1週間以内に自宅から退去して下さい。それでは、失礼します。」

梓に向けて冷たく言い放った司波は踵を返し、請負人達を引き連れて店から去る。

「そんな… どうしよう…」

梓は俯き途方に暮れている。

「梓… あなたは私達と違って自らの意思で請負人になったわよね?」

玲香が肩を落としている梓に優しく語りかける。

「えっ… うん。私達って玲香ちゃんと茅花ちゃんのこと?」

梓は涙目の顔を上げる。

「そうよ、私や茅花は生まれた家が家だったから必然的に今の立場になったけれど… 理由はどうであれ、梓は違うでしょ。」

玲香は更に続ける。

「だから、その… 梓の意思の強さをこれからも見せて欲しいなって思っているから… えっと…」

モジモジし始める玲香。

「だから… 」

「もう、玲香ちゃん焦れったい! さっさと、うちの会社で働かないって言えばいいじゃん♪」

カウンターの裏側から茅花が姿を現す。

「えっ?! 茅花、いつ帰ってきていたの?」

「今日のお昼に自宅療養が許可されたから、帰ってきたら面白いことになっていたから隠れてたの。」

左腕をギプスで固定している茅花は笑いを堪えている。

「勧誘がぎこちないところが玲香ちゃんっぽくって良かったよ♪ んふふ…」

茅花は勧誘している現場を盗撮した画像を玲香に見せつける。

「なっ… ちょっと! 今すぐ消しなさいよ!」

「玲香ちゃん相手にここまで逃げれるなら、現場復帰も近いかも♪」

玲香は赤面しながら逃げる茅花を追いかける。

「… ふっふふ。」

梓の表情から涙が消え、笑みが戻る。

「ふぅ… 私、玲香ちゃんと茅花ちゃんと一緒に働きたい! よろしくお願いします。」

梓は一瞬にして、動きを止めて梓自身に視線を向ける2人に思いを伝える。

「うん♪ 梓さんよろしくね。」

「梓、ありがとう。改めてよろしくね。」

玲香が笑みを返す。

「意思の強さだって〜」

「ねぇ〜」

2人して玲香をからかう。

「もう! 茅花はさっきの画像消しなさいよ!」


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