20話
「目標まで、200m…」
玲香と梓、それに4人の請負人達は、木々の間をすり抜けるように進んでいく。
「みんな、止まって… 装備の確認をして。」
「了解。」
ボディアーマー【IBA】を装着している請負人達は各々の銃に初弾を装填する。
「梓、これを掛けて。
「ん? これってサングラスだよね?」
梓はスクエア型のレンズが黒いサングラスを受け取るが怪訝な様子を見せる。
「これは、サングラスの形をした暗視装置よ。右の蝶番の近くにあるボタンで操作出来るわ。」
「これって、宮之城社製なの?」
暗視装置を起動した梓が周囲を見渡しながら玲香に尋ねる。
「そうよ、要人警護の現場で物々しい雰囲気を嫌うVIP達に合わして開発したの。」
梓の問に応え、玲香はPDW【HK MP7】を肩にかけ直す。
「時間ね… 4人とも頼むわね。」
「了解。」
玲香の声を機に、獲物を狙う鷹のように目を光らせた請負人達は草木が生い茂る暗闇のなかへと進み、梓と玲香の前から姿を消す。
「よし!」
玲香はスカートのポケットから白いシュシュを取り出し、長い黒髪を束ね結ぶ。
「あれ? これって、茅花ちゃんがいつもお団子を作るのに使っているやつと同じシュシュだよね? 」
「そうよ、高校入学のお祝いのお返しにって茅花がくれたのよ。」
梓の方に振り向く、玲香に連れられてなびく、ポニーテールは月の光を反射し輝いている。
「そうなんだ、玲香ちゃんは何をプレゼントしたの?」
「茅花が自宅のホームディフェンス を探していたから【HK VP9】をあげたわ… よ…」
梓の呆れた表情を見て、玲香の言葉は詰まる。
「なるほど、茅花ちゃんがシュシュをお返しに渡した意味が分かったよ…」
「? とにかく、私達も所定の位置に進むわよ。」
プレートキャリアに暗視装置と軽装の梓と玲香も再び、草木の間を進んでいく。
ーーーーーー
草木の隙間から見えるビスマルクの拠点は煌々と照らされ、周囲にはアサルトライフルやらサブマシンガンを装備したビスマルクの警備員達が監視している。
「ジッ… デルタ、ポイントに着いた。」
「ジッ… ベータ、ポイントに着いた。」
請負人達はそれぞれの所定の位置に着いたことを玲香に伝える。
「了解、作戦開始… 」
玲香がインカム越しに応える。
…
バン…
「どうした、停電か?!」
パシュ… ドサ!
レイモンドが消音装置付のアサルトライフル【FN F2000】で停電に戸惑う警備員の額を撃ち抜き、レイモンドとケニーが拠点内を横切り船着き場を目指す。
「おい! どうした?」
正面ゲートを警備する2人が拠点内の異変を感じ取る。
パ、パシュ… ドサ!
ジョンが消音装置付のアサルトライフル【M4カービン】で警備員達を無力化する。
「ジッ… デルタ、正面ゲート制圧。」
正面ゲートに辿り着いたジョンとスミスは玲香に伝える。
…
「停電? 襲撃なのか…?! 」
パパシュ、パシュ…
襲撃されていると断定させる隙も与えず、レイモンドとケニーが船着き場周辺の警備員達を無力化していく。
「ジッ… ベータ、C4設置完了。」
「了解、事を起こすなら何時でも良いわよ。」
…
ドォン、ボッ… ドカン!
C4を設置されたクルーザーが炎上し爆発する。
「なんだ? 船着き場の方から聞こえたぞ!」
正面ゲート付近の警備員達がざわつく。
パ、パパァン! パァン
スミスがドラムマガジンを装着した分隊支援火器【M27 IAR】をぶっ放す。
「クソ、迎撃しろ!」
2階建ての建物から警備員達がぞろぞろと現れ、迎撃態勢をとろうとするが…
パシュ、チュイーン!
ジョンが正確な射撃で次々と警備員達の頭を撃ち抜いていく。
…
パリーン!
レイモンドが船着き場に面した、大広間に閃光手榴弾を投げ込む。
キィーン!
「クソ、見えねぇ!」
大広間にいる警備員達と標的の幹部達は動きを封じられる。
ポォン、… ドォン!
ケニーがアサルトライフル【FN F2000】のマウントレールに装着しているグレネードを大広間に放つ。
パシュ、パパァシュ…
「標的ONE、TWO、撃破。」
レイモンドが次々と標的を狩っていく。
ポォン、… ドォン!
「標的Three、撃破… 標的Four、Five、逃走。」
ケニーが玲香達に伝える。
…
バン!
拠点がまた煌々と照らされる。
「ガレージ、スナイパー!」
スミスが正面に見える、ガレージの屋根にいるスナイパーを発見する。
パシュ!
ジョンは瞬時に照準を合わせ、スナイパーを無力化する。
「… ?!」
ジョンのスコープ内に、逃げる標的2人が写り込む。
パシュ!
「うぉ?!」
アキレス腱を撃たれた標的の1人は足がもつれる。
パシュ! ゴロン…
スミスに撃たれた標的の頭が転げ落ちる。
…
…
バタ…バタバタ、バタ!
ヘリポートに着陸している輸送ヘリ【キングスタリオン】のプロペラが旋回している。
「警戒を怠るな! 別動部隊がいるかもしれない!」
サブマシンガン【HK MP5】を装備した警備員数人がヘリポート周辺の警備を固めている。
「あいつらは一体、何者なんだ? 強すぎだろ… 」
命かながら逃げてきた幹部がヘリポートに到着する。
バン!
1人の警備員がヘリのコックピットに乗り、離陸の準備を進めていくが…
ドォン、ボッ… ドカン!
ヘリの底に仕掛けられていたC4が爆発し、ヘリが炎上する。
「うぁ〜 熱い!」
爆発に捲き込まれた警備員数人が火だるまになり、悶えている。
「クソ… どうすれば…」
目の前の地獄絵図に腰を抜かす幹部。
パァン、パパァン!
「うっ…」
PDW【HK MP7】から放たれた弾丸をくらった、警備員2人が倒れる。
「動くな!」
草木の茂みに隠れていた梓と玲香が銃を構えて現れる。
「し、知っているぞ… お前は宮之城玲香だろ? なるほど、奴らが強いわけだ。」
目の前に現れた玲香を見て、幹部がぼやく。
「そう、光栄ね。」
玲香がMP7の銃口を幹部に突き付ける。
一方、梓は散弾銃【ネオステッド ショットガン】を構え、周囲を警戒している。
「私も殺すのか…」
「あなたの出方次第ね。まず、あなた達がバラ撒いていた薬物を渡してくれるかしら?」
「何のことだ? 知らないな…」
パァン!
「うぁ〜!」
幹部は玲香に左肩を撃たれ、悶える。
「出来ればあなたの手から受け取りたいのだけれど協力してくれるかしら。」
玲香は鋭く冷たい視線を幹部に向ける。
「あぁ、これだ…」
幹部はスーツの内ポケットから薬物を取り出し、渡す。
「ありがとう… 次に、この薬物の出所はどこなの?」
「それだけは言えない… 言ったら殺される。」
パァン!
「うぁ!」
「言わなくても殺されるわよ…」
玲香は幹部の右肩を撃つ。
「クソが… オカサトミヤの情報分析官だよ… 金髪ハーフの姉ちゃんだよ。」
「えっ…」
梓はある人物に思い当たる。
「ジッ… 屋内の制圧完了しました。」
「了解、幹部を連れて向かうわ。」
玲香はレイモンドからの報告に応える。
「ちょっと! オカサトミヤの分析官ってどういうことなの?」
梓が先の幹部の発言に食いつく。
「あぁ、どうした? お嬢ちゃん。」
「ジッ… RPG! クソ、撃ち返せ!」
インカムから切迫した状況が伝わってきて驚き固まる梓と玲香。
「ジッ… 逃げて下さい、御嬢様! ザッー…」
請負人達の通信が途絶える。
… バタバタ、バタ!
呆然と立ち尽くしている2人の上空に1機のヘリが近付く。
ドシャ…
「な…なんだよこれ…」
幹部は空から降ってきた鋼鉄の棺に潰され、生気を失っていく。
「なに… これ?…」
梓と玲香は恐怖と焦りが入り交じった表情を見せる。




