19話
宮之城民間警備ホールディングスの静岡支部は海に面した場所に存在している。
「ふぅ… 」
玲香は支部事務所2階のバルコニーから、茜色に染まる港を見ながら飲んでいた缶コーヒーを飲み干すと移動する。
ガチャン…
「準備は進んでいるかしら? 」
玲香は軽装甲機動車や防弾仕様の高級車がズラリと並んでいるガレージに入る。
ガレージ内には、身長180cm以上の筋骨隆々な白人が4人いる。
「御嬢様、バッチリですよ。」
ボディアーマーの一種【IBA】を装備したレイモンドが応える。
「おい、みんな集まれ! 」
入口付近に居るレイモンドの呼びかけに他の3人が集まってくる。
「久しぶりね、ジョン、スミス、ケニー。」
「御嬢様、お久しぶりです。」
ケニーが挨拶する。
「ええ、今回の依頼を確認するわね。」
玲香は80インチのプロジェクタスクリーンにビスマルクの拠点周辺の衛星画像を表示する。
「目標は今いる、静岡支部から約5km南下した地点にあるわ。」
玲香はPCを操作し、衛星画像をさらに拡大する。
「拠点の北側は山に、南側は海に囲まれていて一般道は拠点の正面ゲートに通じる1本だけよ。」
スクリーンに映る拠点は約500坪の広さで、50mプールと同じ広さの2階建ての施設が建っている。
「拠点の警備は厳重よ。でも、電力会社に依頼したところ、拠点の電力源を絶つことを了承してくれたわ。だから、拠点の発電方法が自家発電に切り替わるまでの時間に船着き場に潜入して、船にC4を設置してほしいの。」
玲香は淡々と続ける。
「そして、爆破と同時に正面ゲートと船着き場の2つの方向から突入して、ターゲット達を追い詰めて。」
4人の請負人はスクリーンに映る、5人の標的の顔を瞬時に記憶する。
「逃げたターゲット達は、山中にあるヘリポートに向かうはずだから、私が待ち伏せて対処するわ。」
「なるほどね… 私達で捕まえるんだね。」
ピリッとしている空気に明るい声が混じる。
「私達?… なんで、梓がここに居るの?! 」
驚きを隠せない玲香に微笑む梓。
「茅花ちゃんから今回のことを聞いて、新幹線に乗って来たよ。」
「今回の依頼はコンビナートの時よりも危険なのよ! だから… 」
「だから、私や茅花ちゃんを捲き込みたくないって? 」
梓は玲香の言葉を続けるように訪ねる。
「ええ、そうよ。これ以上、2人に迷惑はかけられない。」
「玲香ちゃんの気持ちも分かるけど、私の手伝いたいっていう気持ちも分かってほしいな。」
梓は玲香の手にそっと自身の手を重ねる。
「えっと… ありがとう。でも、無茶はしないでよ。」
玲香はいつもの歯に衣着せぬ物言いとは異なり、言葉が詰まる。
「もう、素直に喜んでよ玲香ちゃん。」
「御嬢様にもようやく友達が出来たみたいですね良かった、良かった。」
スミスが玲香をからかう。
「ちょ、友達… とにかく、作戦の開始時刻は二二:零零よ。」
「了解! 」
請負人達が覇気のある返事をする。
「梓、4人を紹介するわ。左からジョン、スミス、レイモンド、ケニーよ。」
玲香は気を取り直して紹介する。
「伊賀梓です、よろしくお願いします。」
「よろしく〜 」
請負人達は梓に対してラフな挨拶を返す。
「ジョンとスミスは元シールズで、レイモンドとケニーは元デルタよ。」
「そんな人達を集められる玲香ちゃんって本当に社長令嬢なんだね。」
「今更、何を言ってるのだか… と言ってもそう見えにくいのは誰かさんのせいでもあるのだけれども… 」
玲香は自虐的になりつつも、皮肉を言う。
「きっと、誰かさんはそう見せたくないからわざとやっているんじゃないかな。」
「梓、なに笑っているのよ!? 宮之城家の沽券に関わる大事なことなのよ! 」
請負人達は各々の銃を手入れしつつ、梓とのやりとりでムキになっている玲香の姿を微笑ましく見つめている。




