15話
敷地面積10haの長方形の形をしたビスマルクの拠点から東に100m程離れた倉庫が建ち並ぶ道路に停車するセルシオ。
「これでよし。」
茅花の手により組み立てられ、飛び立った翼幅1m程の黒い小型UAVレイヴンは順調に高度を上げていき闇夜と同化していく。
「映像は問題無く送られてきているわ。」
玲香の手元にあるPCには鉄の不夜城達を見下ろした映像が映っている。
「じゃあ、ちょっくら行ってくるね。」
「ええ、なるべく穏便に頼むわね。」
「了解。」
玲香と茅花は普段通りの調子で言葉を交わす。
「私が言うのもあれだけど、茅花ちゃん気を付けてね。危ないと思ったら無理しなくていいから。」
「梓さんありがとう。2人の援護が必要になることはまず無いと思うから心配しないで… じゃあ! 」
茅花はビスマルクの拠点がある方角に走り去っていく。
…
「壁、高いな… 」
茅花はビスマルクの拠点を囲う4mの壁を見て、別のルートを探す。
「壁沿いに南下すれば、手薄な貨物の搬入口があるわ。」
玲香がレイヴンから送られてくる映像でナビゲートする。
…
「確かに、手薄だね… 」
PDW【FN P90】を装備した1人の警備員が搬入口を監視している。
ドン… ドサ…
茅花は伸縮式の警棒を取りだし、警備員の背後から忍び寄り制圧する。
…
科学薬品のプラントだった施設内にはパイプが血管のように張り巡らされている。
「よっ♪ ほっ、とっ♪ 」
茅花はパイプをハードルのように飛び越えたり、潜り抜け進んでいく。
「茅花、止まって!」
「おっと♪ 」
茅花はインカムからの指示に、即座に反応し貨物コンテナの陰に身を隠す。
「今よ。」
茅花は足音を立てずに警備員の背後を横切り、北の方角に進んでいく。
「玲香ちゃんの言ったとおり、輸送船が見えてきたよ。」
茅花の目の前にはドックがあり、フィーダー輸送船として利用されている全長25mのコンテナ船が停泊している。
そして、荷役を行う為のクレーンがコンテナ船を跨ぐように鎮座している。
…
「うっ?! 」
「1度だけ聞く、あなた達が最近流しているドラックはどこ? 」
ドックを警備している男の背中に【ワルサーP99】の銃口を突きつける。
「なんのことだ… お前はどこの人間だ? 」
「そう… 1度だけって言ったでしょ。」
パシュ、ドボン!
茅花に撃たれた男は海面に浮かんでいる。
「次の人に聞いてみるかな。」
茅花は事務所がある西の方角に進む。
…
「?… 」
異変を感じた茅花はコンテナ越しに身を隠す。
北の方角にある事務所を背にした茅花の瞳には、数人の請負人と女性が映る。
ーーーーーー
「ん? なんで、京橋ナギがこんなところにいるの… 」
レイヴンはビスマルクの正面ゲート付近の施設内で請負人達と京橋が対峙している様子を映している。
「えっ? 」
梓も後部座席から身を乗り出して、PCの映像に食いつく。
ザ、ザザ… ザー…
レイヴンからの映像が急に途絶える。
「撃ち落とされた? 」
玲香は犯罪の温床になっている場所に京橋がいること、レイヴンが撃墜された状況に不穏な空気を感じる。
「伊賀さん、これをタボールに付けてといて… 」
「う、うん。」
梓は単発式のグレネードランチャーと予備弾を受け取ると【TAR-21】のピカニティーレールに装着する。
「出来れば撃ちたくないな… 」
「念のためよ… 」
セルシオのバックミラーに強い光が反射する。
「くっ、なに? 」
「お前達、ここで何をしている! 」
フラッシュライトを装着したアサルトライフルを装備したビスマルクの請負人2人が銃口をセルシオに向けている。




