14話
チーン♪
ハイバラ珈琲東京本店のバックヤードに設置されているエレベーターの扉が開く。
「ん? この部屋は書斎? 」
梓の目の前には赤を基調にしたペルシャ絨毯が敷かれ、部屋の壁に沿うようにして設置している巨大な本棚にはぎっしりと本が詰まっている。
「書斎ではないわ。」
梓と一緒にエレベーターに乗っていた玲香は正面の本棚に足を進める。
ガチャ… ギィィ〜 ♪
玲香が、本棚に収納されている本のなかのある1冊を押し込むと全ての本棚が回転し始める。
ガチャン!
「す… 凄い量だね… 」
梓は全ての本棚が180度回転し書斎が武器庫に様変わりする光景に驚きを隠せない。
現れた壁には、アサルトライフルやらサブマシンガン等様々な銃が壁一面に掛けられている。
「この中から、アサルトライフルを1丁選んで頂戴。」
梓に銃を選ぶように伝えた玲香は黒い【SCAR-H】を手に取り、自身の体格に合うように銃床の長さを調整している。
「うん、 じゃあこれで。」
梓は黒い【TAR-21】を手に取る。
「今回の潜入先は神奈川県の海に面したコンビナート群に隣接しているPSCビスマルクの拠点よ。」
玲香は依頼内容についての説明を始める。
「えっ、 PSCがドラックをバラ撒いてるの?」
「ええ、コンビナートとその近海の警備を一手に担っていることを良いことに各地への荷物に紛れ込まさせて流しているみたいなのよ。」
ガチャ♪
書斎の奥に続くドアから、 黒のブラウス、紺のスカートに黒いタイツを纏った茅花が入ってくる。
「ビスマルクはドイツに本社があって、暗殺や拷問とかダーティーな仕事もガンガン引き受けている恐ろしい組織なんだよね。」
茅花は手にしている【ワルサーP99】の銃口にサイレンサーを取り付けている。
「… 」
いつもの明るい声色とは違い淡々と話す茅花の様子を見て、言葉を失う梓。
「茅花、無駄に恐怖心を煽らないの。伊賀さんはバックアップだし、私もいるから大丈夫よ。」
「玲香ちゃんは少し離れている所から見ているだけだしね。」
茅花が皮肉を返す。
「私と伊賀さんじゃあ、茅花の俊敏さに追いつけなくて、あなたの長所を妨げてしまうからこの役回りにしたんじゃない。」
「ふふん、まぁね♪ 」
玲香にドヤ顔を返す茅花。
「全く緊張感があるんだか、無いんだか… そろそろ出発するわよ。伊賀さん、これ着てくれるかしら。」
「うん、ありがとう。」
梓は軽量のプレートキャリアを受けとり、服の上から装着する。
…
チーン♪
武装した3人を乗せたエレベーターはガレージに止まり扉を開ける。
玲香は停車している防弾仕様のセルシオの運転席に座り、助手席に【SCAR-H】を置くとエンジンを掛ける。
梓と茅花が後部座席に座ると、ガレージの自動ドアが開き、セルシオが発進する。
…
…
3人を乗せたセルシオは車が疎らな首都高湾岸線を走っている。
車窓からは、コンビナート群を照らしている様々な色の水銀灯が水面に反射している幻想的な景色が見える。
…
目的地の最寄りのインターチェンジを通過しようと玲香がスピードを落し、ゲートに差し掛かる。
「すいません、こちらの地域は一般の方は進入禁止です。本線に乗り直して下さい。」
車の窓が完全に開く前にゲートを警備している警察官が注意する。
「私達が一般人に見えるかしら? 」
「チッ、どこのPSCだ? 」
闇夜で目立ちにくく、尚且つ動きやすく武装した3人を視認した警察官が玲香に社名を聞く。
「宮之城民間警備ホールディングス、依頼内容は要人警護です。確認できましたか?」
玲香は冷静に応える。
「ああ、通っていいぞ。」
ゲート内に設置されている情報端末機で依頼内容を照合した警察官は許可する。
「ありがとうございます。」
玲香はアクセルを踏み、走り出す。
「ふふん。あの警官、まんまと偽情報に騙されてたね。」
茅花がほくそ笑む。
「えっ? 」
「私の会社が国土交通省と契約して、首都高の監視システムを管理しているから出来る芸当なのよ。」
玲香が状況を掴めていない梓に説明する。
…
「そろそろ、着くから準備して。」
「了解。」
「うん。」
ジャキン!
梓と茅花は各々の銃の薬室に初弾を装填する。




