13話
「は… 早く選びなさいよ!」
メイド服を着た梓がツンデレメイドの常套句を恥じらいながら言う。
「うん、梓さんはツンデレメイドのほうが似合ってる。」
自身の見立てが当り微笑む茅花もメイド服を身に纏っている。
「そ、そうかな… でも、一度着てみたかったんだよね」
ゆっくりと回りロングスカートをはためかせた梓は満更でもない表情を見せる。
「不慣れで恥じらってる姿がまた良いですよ、梓さん。」
「あはは、ありがとう。」
夕日が差し込む、ハイバラ珈琲東京本店の店内には梓と茅花しか居ない。
「なんで、アンタがここに居るのよ! はい、梓さん。」
「な… なんで、アンタがここに居るの… 」
カラン、 カラン♪
「… えっと、これはどういう状況なのかな? 」
喫茶店の入り口前に飄々とした男性が立っている。
「え、梅田さん、久しぶりです。これは、ちょっと遊んでて… それより、何か要ですか?」
茅花は突然の来客にあたふたするが取り繕う。
「茅花ちゃん、久しぶり。仕事を頼みに来たんだけど、楸さんは居ないのかな? 」
梅田は茅花に問い掛けつつ、赤面しながらうつ向く梓に視線を向ける。
「お祖父ちゃんは買い出しに出ていて私だけだよ梅田さん。彼女は伊賀梓さん。」
「へぇ、俺の名前は梅田忍。よろしく、ツンデレメイドさん。」
梓をからかう梅田。
「ちょ… はい、よろしくお願いします。」
「それで、どのようなご用件ですか?」
「ああ、それより伊賀さんは宮之城民警の方なのかな?」
梅田の目はさっきまでとは打って代わり鋭くなる。
「梓さん、ごめんね。」
「うん、じゃあ着替えてくるね。」
梓は席を外し更衣室に向かう。
ガチャン♪
「それで、今回の依頼について話すよ。最近、出回っている危険ドラックをバラ撒いてる組織が特定出来たから、彼らの拠点に潜入し証拠を押さえて欲しいっていうのが依頼内容。頼めるかな?」
「とりあえず、玲香ちゃんに伝えてみますね。当然、依頼主は教えて貰えないですよね?」
「まぁね、詳細はこのなかに。」
梅田は茶封筒を茅花に手渡す。
「梅田さんに聞きたいことがあるのですが、白河かすみと京橋ナギについて何か知ってますか?」
茶封筒を受け取った茅花が京橋や白河について聞く。
「教えてあげたいところなんだけど、俺も何も知らないんだよ。」
「そうですか… 玲香ちゃんが怪しいって思って護衛任務を理由に接触したんだけど何も分からなくて… 詳しくは話せませんが梓さんにはその調査に協力して貰っているんです。」
「へぇ、伊賀さんは請負人なのか… この辺りでおいとまさせてもらうよ。」
「はい、玲香ちゃんから連絡が行くと思いますからよろしくお願いします。」
カラン、カラン♪
…
…
「ふふ、こうかな? 」
メイド姿の梓は更衣室の入り口手前に置かれている全身鏡の前に立ち、次から次へとポーズを決めている。
「えっ、頼んだ物と違う? あんたにはこれで十分よ!」
茅花から教えてもらった台詞を呟く梓。
「頼まれて着ているんだけよ… あんたがメイド服が好きだって今知ったし、かんち… 」
ガチャン♪
「… … … 」
ポーズを決めている梓に玲香が冷ややかな視線を向ける。
「はぁ、更衣室にあなたがいると茅花から聞いて来てみたら何をしているのかしら?」
「… 宮之城さん、こんにちは。」
梓は突然、現れた玲香にたじろぐ。
ガチャン♪
「あれ〜 梓さんまだ着てる。」
茅花の口元が緩む。
「茅花、ごめんなさい。遅れず予定通り着いていたら私が直接、梅田さんから依頼内容を聞けていたのに。」
「ううん、私こそ梅田さんを呼び止めなくてごめんね。」
「依頼内容を確認してみたけれど受けたいと思うわ。偵察任務だし、私と茅花、伊賀さん3人でこなそうかと考えているけど、どうかしら? 」
「私が潜入して玲香ちゃんと梓さんがバックアップだよね?」
茅花が役割を確認する。
「ええ、よろしくね。」
「私も参加して良いの?」
梓は梅田の言葉を思い出し気にする。
「現在、伊賀さんは私達と協力関係にあるから問題ないわ。任務は明後日の深夜1時に開始するからそれまでに準備を万全にしといて。」
玲香は覇気のある声で2人に伝える。




