12話
『白河かすみ様 楽屋』と書かれたドアの横に白のブラウス、赤いスカートに黒いタイツと動きやすい服装の茅花が立ち、周囲を警戒している。
「お… お疲れ様です。」
撮影スタッフの男性が鋭い目付きをした小柄な茅花におののきながら廊下を通り過ぎていく。
「お疲れ様です。」
茅花はニコっと笑みを浮かべ返事をする。
ガチャ
雑誌の撮影を終え、ブラウンのカーディガンにデニムのショートパンツ、黒のショートブーツというラフな服装に着替えた白河が楽屋から出てくる。
長い金髪に、出ているところが出ていて、細いところは細い白河のルックスはモデルという言葉を体現している。
「はぁ… 」
白河は茅花に冷たい視線を向けたあと、溜め息をつく。
ガチャ
上下共に黒のジャケットとチノパンというセミフォーマルな服を纏った若い女性が白河の次に出てきた。
白銀の長髪が特徴的な若い女性の背丈は白河と大差は無いが白河とは対照的にスレンダーな容姿をしている。
「車、待たせているから出るわよ。」
若い女性の凛とした一声の後、撮影現場を後にする2人の背中を追う茅花。
…
…
しばらく、3人を乗せて夜の街を走った防弾仕様の黒いセンチュリーが、あるバーの前で停車する。
バタン
白河と若い女性に続いて車を降りる茅花。
「アンタ、ここまでで構わないからご苦労さま!」
白河が茅花に一方的に言い放つ。
「しかし、この一帯の治安は悪いですしお客様に危険が及ぶ可能性が高い為、任務を続行させて頂きたいと思います。」
白河から何も情報を得られていない茅花は食い下がる。
「クライアントが良いって言ってんっの! 分かんないの? 」
言葉を強めた白河はカーディガンを捲り腰のホルスターに納めている【HK 45】を茅花にアピールする。
「かすみ、言い過ぎよ。」
「でも、ナギ… ! 」
ナギが何かを諭すように視線をかすみに向ける。
「榛原さん、依頼主自ら断った後に被害を受けたとしてもそれは自業自得なだけで、あなたに非は無いと思うのだけれどどうかしら?」
ナギは理屈立った言葉の後にさらに続ける。
「諜報機関の榛原家が何を探っているのかは分からないけれど、これ以上、私達を詮索しないほうが身のためよ。それじゃあ、お疲れ様。」
ナギは茅花に忠告すると、バーの入り口に立つバーテンに護身用として持ち歩いてる.357マグナムを6発装填してある4インチのリボルバー【S&W M686】と銃の免許を提示し、店に入っていく。
「ふっ! ご苦労さま。」
茅花に挨拶をした後、ナギと同じ手順を踏み入店する白河。
「… 」
3人を乗せてきた車も走り去り、茅花だけが店先に取り残されている。




