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放課後になった。
昨日の観憂との約束どおり、健はすぐに待ち合わせ場所に向かう。
人影のない裏通りを歩いていく。
(たしかこの辺りだったよな)
件のビルの隙間に差しかかる。
昨日は、そのビルの合間の暗闇から触手が伸びてきたのだ。そして今日も突然、飛び出してきた。赤い触手ではない。
「健!」
観憂が勢いよく健に飛びついてくる。突然のことに、健には身構える暇もない。観憂を受け止めることに失敗し、健はその場で地面に倒れた。
観憂に押し倒される形になってしまう。
「もぅ、遅いわ! 待ってたんだから!」
地面に背中をつけた健の顔面が、なにか柔らかいものに埋もれる。背中に感じるコンクリートの硬さとは全くの別ものだ。観憂の胸の、二つの膨らみだ。健はちょうどその谷間に鼻をつっこむ格好になっていた。
息苦しくて、健はやや表情を曇らせる。
「ソフトな出会い方をしろっていうから、触手は使わなかったわ! これで合ってる?」
ぎゅむっと胸を押しつけながら、観憂が訊いてくる。
健は眉を寄せた。
「たしかに柔らかいけど……いや、間違ってはいないよ」
「ほんと!? 良かったぁ!」
観憂がホッと息を吐き出しながら笑う。
たしかに触手は使っていない。でも、わざわざ出会い頭に抱きつく必要はあるのだろうか?
健は少し疑問に思った。
もっとも、今はそんなことは些細なことだ。
「息が苦しいから、そろそろどいてもらえると嬉しいんだけど……」
「あっ、そっか」
観憂はパッと体を離した。
二人とも立ち上がり、ようやく落ち着いて話せる。
「学校はもう終わりな? このあと、用事とかある?」
「いや、ないよ」
「じゃあじゃあ、今日はゆっくり話せるわね!」
嬉しそうに観憂が言った。
と同時に、地鳴りのような音が響いた。
「……お腹へっちゃった」
観憂が腹部を手で押さえる。
健は心配になってしまう。
「大丈夫か? どこか店に入る?」
「お金、もうあんまり残ってなくって……」
観憂が首を振って言った。
よく見ると、服が昨日と変わっていない。
(なにか事情がありそうだな)
健はウンと頷くと、観憂に提案してみる。
「じゃあ、僕の家に来る?」




