9
やはり、植松には怪訝な顔をされた。
「新しいゲームを借りたい?」
「はい」
放課後のサブカル研の部室で、健は植松と向き合っていた。
「いま貸しているPCゲームはどうした?」
「……まだ、全てをクリアしてはいません」
健は植松に、別のゲームを借りられないかと頼んでいるところだ。
しかし話したとおり、現在借りている幼女なヒロインばかりが出てくる美少女ゲームは終えていない。それなのに別の物に手を出そうとしている。その非を、健は充分に自覚していた。
「同士北川にしては、珍しいじゃないか。どうした。考えが変わったか?」
会議用の長机を挟んでパイプ椅子に座ったまま、植松は切れ長の眼で見上げてくる。健は背筋を伸ばしたまま「はい」と返事をした。
「ふむ……それで? どんなゲームを所望してるんだ? 幼女がダメだったのなら、今度は熟女系か?」
「いえ」
健はハッキリと植松に伝えた。
「触手が出てくるゲームを」
「触手? これは驚いた。まさか、北川が触手ゲーを借りたいなんて。しかし、触手の出てくるゲームとなると、陵辱ものしか無いぞ? 陵辱ゲーは候補から除外する、と北川は最初に言っていなかったか?」
植松の言うとおりだ。
自分のフェチを探すにあたり、健は真っ先に、女性を踏みにじるような内容のものは考えないようにしていた。そうすることに疑問を抱くこともなかった。
でも、今はもう違う。触手の出てくる物語に触れたいと、強く思う。それはいくつもの実体験を通して、辿り着いた結論だった。
初めて観憂と出会ったとき、赤い触手に絡みつかれている生徒会長の姿に心臓が早鐘を打った。
こじろの体を洗うため、その幼児体型に伸ばされたマナの機械触手にもドキドキした。
風呂でアルコールに酔い、こじろの木の枝のような触手に全身を巻き付かれている裸の芹には胸の高鳴りを覚えた。
そして、自らの触手に宙づりにされ、四肢の自由を奪われた観憂には、これまでにない昂ぶりを覚えた。
これらの経験で共通しているのは、全て、そこに触手が存在しているということ。それはつまり、北川健が触手に感ずるところがあるかもしれない、ということでもある。間違いかもしれない。それでも、今はこの触手というフェチにチャレンジしてみなければ、気が済まない。
「お願いします、植松先輩」
健は長机に両手を着いて、頭を下げた。
パイプ椅子が軋みをあげた。
「そこまで言うのなら、いいだろう。明日には持ってこよう」
「あ――ありがとうございます!」
健は一度上げた顔を、今度はもっと深く下げる。