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「生徒会だ。これより持ち物検査をする。全員、鞄を机の上に置きなさい」
朝のホームルームの最後に、教室に入ってきた菊華が声高に言った。抜き打ちの持ち物検査だった。これまでにも、何度か行なわれていた。
(よりにもよって、今日実施されるなんて)
健は観憂を見た。するとちょうど、観憂も健のほうを振り返った。
目が合う。
観憂の笑顔はやや引きつっていた。
生徒会の持ち物検査はかなり厳しい。漫画、雑誌や携帯ゲーム機などを持ってきただけでも、厳重に注意される。それが官能小説だったとしたら、どうなるかは火を見るよりも明らかだった。
さらに観憂は運が無かった。
持ち物検査は、教室内の座席二列ごとに生徒会役員が一名ずつ対応することになっていた。観憂の列の担当になったのが、菊華だったのだ。笑って見逃してくれる相手ではない。
そしてやはり、健の想像は現実のものとなった。
「な、なんだこれはっ!?」
観憂の鞄の中身をチェックしていた菊華が大声を上げた。
「お前はなんてものを持ってきてるんだ!」
「なにって、ただの小説じゃない」
「小説だと? これは明らかに、その、アレだろうが!」
教室内がざわつき始める。
「会長? なにがあったんです?」
別の生徒会役員が、菊華のもとへ駆け寄ろうとする。
一瞬のうちに、菊華は観憂の鞄から有害図書を抜き取り、自分のポケットにしまい込んだ。表紙に描かれた、触手に絡まれている女性騎士のイラストも、周りの生徒たちの目にはその残像さえ見えなかったはずだ。
「観憂、お前は昼休みに生徒会室まで来なさい」
「えーっ、お昼ごはんを食べる時間が無くなっちゃうわ」
健と観憂の席との間には、座席数個分の距離があった。それでも健の耳には、菊華の頭で何かが切れる音がハッキリ届いた。
「い、い、な!」
「……はーい」
渋々といったふうに、観憂が返事をした。
菊華は鼻をフンと鳴らす。次いで、健をキッと睨んでくる。菊華がなにを考えているのかは容易に想像できた。
お目付役の責任を果たせていないことを、菊華は視線だけで非難してきたのだ。
(これは僕もタダじゃ済まないかもな……)




