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 メッセージを読んでエンターキーを押すだけの、単調な作業。

 パソコンのディスプレイには、等身の低いヒロインの立ち絵が表示されている。

 ゲームのプレイ画面だ。

 このゲームに登場するキャラクタたちは、全員が十八歳以上ということになっているが、そんなのは建前。どう見ても、このゲームのヒロインたちの年齢は十歳前後としか思えない。

 まごうことなきロリゲー。

 それを見つめる健は、極めて真顔だった。寝る前にもう少しゲームを進めておこうと思って始めたのだが、それは義務感に急かされたゆえの行動だった。

 健はこのロリゲーを面白いとは思っていなかった。

(なぜだ……?)

 エンターキーを押しながら自問する。

 なぜ、自分はこのゲームを楽しめていないのか?

 イラスト、音楽、シナリオ、システム……。

 ゲームには何も落ち度は見られない。原因が自分自身にあることは明らかだ。それが、解せない。

 先日、マナの機械触手に絡まれた裸のこじろに、胸が高鳴った。あの一件で、自分にはロリコンの気があるのではと推測を立てた。それを実証するために、サブカル研の植松部長に頼んで、ヒロインが軒並み小学生にしか見えない恋愛ゲーム――それもパソコンで遊ぶ大人向けのゲーム――を貸してもらったのだ。

 なのに、健はまったく昂ぶらない。表示されるメッセージを読んでエンターキーを押すゲームになってしまっている。

(あの時は、あんなに胸が早鐘を打ったのに……?)

 健は悩みながらも、とりあえずはメッセージを読み進める。

 そうしていると、肩にツンと何かが当たった。

 振り向くと、木の枝のような触手が目の前に浮いていた。その触手を辿ると、部屋を入ってすぐのところに立つこじろへと行き着く。植物触手は、こじろのワンピースタイプの寝間着の裾から伸びていた。

 健はヘッドホンを外した。

「どうした、こじろ。もう寝る?」

「いや、まだ起きているのじゃが……健……欲しくなったのじゃ」

 モジモジとこじろが太ももを擦り合わせる。

「欲しい?」

「……血。健の血を、吸いたくなってしまったのじゃ。少しでいいのじゃ、だから……」

「あぁ、そういうこと。いいよ」

 健は椅子を立った。

「どうすればいい?」

「ベッドに横になってくれ」

 こじろに言われるまま、ベッドの上で仰向けになる。

 ベッドが軋んだ。

 こじろは健の顔をまたぎ、寝間着のスカート部分で覆い隠してくる。そうなると自然と、健はこじろのスカートに頭を突っ込んでいる格好になる。こじろのショーツも丸見えだ。

 白地に緑色の水玉模様がついたショーツ……。

「では、失礼するぞ」

 こじろがそう言うと、彼女の太ももから何本か触手が生え始めた。まだ子どもだからか、こじろの植物触手は観憂やマナのものと比べるとずいぶん小さい。

 こじろの触手は全て、健の首筋へ伸びてくる。その鋭い先端が皮膚を突く。注射されるときに似た痛みに、健はわずかに表情を歪めた。

 思考がわずかに鈍くなる。血を吸われているためだ。

「くぅ……はぁっ……」

 こじろが熱い吐息を漏らす。

 血を吸われている間、健はずっとこじろのショーツを見上げていた。

 どれぐらいそうしていただろう?

 やがて、植物触手は一斉に健の首筋から離れた。そうかと思うと、こじろのショーツが顔面に落ちてくる。こじろが膝から崩れ落ちたためだった。

「こじろ? 大丈夫か?」

 鼻先をこじろのショーツに埋めたまま、健が訊く。ショーツからはなにも匂いを感じない。こじろも風呂から上がったばかりだからだろう。

「……す、すまん、健」

 声を震わせながら、こじろは尻を上げる。

 顔を覆っていたこじろのスカートがどかされ、天井が見えた。

 胸元に重みを感じた。

 こじろが健の体の上で俯せに横たわっていた。

「あまりの美味さに、足から力が抜けてしまった……」

 虚ろな目をしたこじろが、健の首筋に口を寄せる。

「健はすごいの……」

 こじろが首筋を舐めてくる。触手の刺さっていたところに浮き出てきた血を、舐め取っているようだった。

「わしはおかしくなってしまいそうじゃ……」

「美味しかったなら、なによりだよ」

 健はこじろの頭を撫でる。

 しかし、心は依然として凪いでいた。

 幼女のパンツに顔を埋めたというのに。


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