3
メッセージを読んでエンターキーを押すだけの、単調な作業。
パソコンのディスプレイには、等身の低いヒロインの立ち絵が表示されている。
ゲームのプレイ画面だ。
このゲームに登場するキャラクタたちは、全員が十八歳以上ということになっているが、そんなのは建前。どう見ても、このゲームのヒロインたちの年齢は十歳前後としか思えない。
まごうことなきロリゲー。
それを見つめる健は、極めて真顔だった。寝る前にもう少しゲームを進めておこうと思って始めたのだが、それは義務感に急かされたゆえの行動だった。
健はこのロリゲーを面白いとは思っていなかった。
(なぜだ……?)
エンターキーを押しながら自問する。
なぜ、自分はこのゲームを楽しめていないのか?
イラスト、音楽、シナリオ、システム……。
ゲームには何も落ち度は見られない。原因が自分自身にあることは明らかだ。それが、解せない。
先日、マナの機械触手に絡まれた裸のこじろに、胸が高鳴った。あの一件で、自分にはロリコンの気があるのではと推測を立てた。それを実証するために、サブカル研の植松部長に頼んで、ヒロインが軒並み小学生にしか見えない恋愛ゲーム――それもパソコンで遊ぶ大人向けのゲーム――を貸してもらったのだ。
なのに、健はまったく昂ぶらない。表示されるメッセージを読んでエンターキーを押すゲームになってしまっている。
(あの時は、あんなに胸が早鐘を打ったのに……?)
健は悩みながらも、とりあえずはメッセージを読み進める。
そうしていると、肩にツンと何かが当たった。
振り向くと、木の枝のような触手が目の前に浮いていた。その触手を辿ると、部屋を入ってすぐのところに立つこじろへと行き着く。植物触手は、こじろのワンピースタイプの寝間着の裾から伸びていた。
健はヘッドホンを外した。
「どうした、こじろ。もう寝る?」
「いや、まだ起きているのじゃが……健……欲しくなったのじゃ」
モジモジとこじろが太ももを擦り合わせる。
「欲しい?」
「……血。健の血を、吸いたくなってしまったのじゃ。少しでいいのじゃ、だから……」
「あぁ、そういうこと。いいよ」
健は椅子を立った。
「どうすればいい?」
「ベッドに横になってくれ」
こじろに言われるまま、ベッドの上で仰向けになる。
ベッドが軋んだ。
こじろは健の顔をまたぎ、寝間着のスカート部分で覆い隠してくる。そうなると自然と、健はこじろのスカートに頭を突っ込んでいる格好になる。こじろのショーツも丸見えだ。
白地に緑色の水玉模様がついたショーツ……。
「では、失礼するぞ」
こじろがそう言うと、彼女の太ももから何本か触手が生え始めた。まだ子どもだからか、こじろの植物触手は観憂やマナのものと比べるとずいぶん小さい。
こじろの触手は全て、健の首筋へ伸びてくる。その鋭い先端が皮膚を突く。注射されるときに似た痛みに、健はわずかに表情を歪めた。
思考がわずかに鈍くなる。血を吸われているためだ。
「くぅ……はぁっ……」
こじろが熱い吐息を漏らす。
血を吸われている間、健はずっとこじろのショーツを見上げていた。
どれぐらいそうしていただろう?
やがて、植物触手は一斉に健の首筋から離れた。そうかと思うと、こじろのショーツが顔面に落ちてくる。こじろが膝から崩れ落ちたためだった。
「こじろ? 大丈夫か?」
鼻先をこじろのショーツに埋めたまま、健が訊く。ショーツからはなにも匂いを感じない。こじろも風呂から上がったばかりだからだろう。
「……す、すまん、健」
声を震わせながら、こじろは尻を上げる。
顔を覆っていたこじろのスカートがどかされ、天井が見えた。
胸元に重みを感じた。
こじろが健の体の上で俯せに横たわっていた。
「あまりの美味さに、足から力が抜けてしまった……」
虚ろな目をしたこじろが、健の首筋に口を寄せる。
「健はすごいの……」
こじろが首筋を舐めてくる。触手の刺さっていたところに浮き出てきた血を、舐め取っているようだった。
「わしはおかしくなってしまいそうじゃ……」
「美味しかったなら、なによりだよ」
健はこじろの頭を撫でる。
しかし、心は依然として凪いでいた。
幼女のパンツに顔を埋めたというのに。




