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こじろの下着を買うという本来の目的は果たした。
その後、またショッピングモールの中を思い思いに巡っているうちに、時刻はすっかり夕方になってしまった。
家路につく。
が、その途中で、こじろが足を止めた。
「どうした?」
健が振り返って尋ねると、こじろが小さな指をすっと持ち上げる。その先には、こじんまりとした公園があった。そこそこの種類の遊具が置かれているのが見える。
「あれは……公園じゃな?」
「ん? あぁ、そうだよ」
「よ、寄っていかんか?」
こじろが目を輝かせていた。
(公園が好きなのかな? そういえば、幼稚園時代にこじろと遊ぶときは、いつも僕の家だったっけ)
腕時計をチラッと確認した。夕食までは、まだ時間に余裕がある。
「うん、いいよ。観憂と芹は?」
「あたしも賛成!」
「わたしも……うん」
満場一致で、公園に入った。
「よーし、まずはなにで遊ぶ?」
「そうじゃなぁ……!」
観憂とこじろが俄然、元気になる。
「僕はここで見てるから、みんな遊んできなよ」
健はベンチに腰かけた。すると、すぐ隣に芹も座る。
「わたしも、ちょっと疲れちゃったから。ここで休んでるよ」
「そうなのか? 残念じゃ……では、観憂と遊んでくるぞ! 行こう、観憂!」
「おうとも!」
こじろと観憂の二人はブランコの方へ走り出した。
その背中を、健はしみじみと見た。
(元気だなぁ、あの二人……)
お昼時からずっと、ショッピングモールを歩き回っていた。健の体力は、ほぼ空っぽな状態だ。健と同じインドア派の芹も、かなり消耗したに違いなかった。
「大丈夫か、芹」
「たけちゃんこそ……ずっと付き合ってくれて、ありがとう。疲れちゃったでしょ?」
「――少しね」
遠くで、ブランコに座ったこじろの背中を、観憂が押していた。
「彼女たちが楽しんでるなら、それでいいよ」
「たけちゃん……」
膝の上の買い物袋をポンポンと叩く。
長い時間、芹との間には沈黙が降りていた。
観憂とこじろがブランコを離れ、滑り台に遊び場を移したときだった。
「たけちゃん、探し物は見つかりそう?」
探し物――自分のフェチ。
「どうだろう。まだ、それらしいものは見つかってないね」
フェチに目覚めさせてくれそうな次なる作品も、まだ植松からは借りていない。そもそも、どんなものに手を出そうか、目星さえまだ付いていない。
目下のところ、植松になにを貸してもらうか、決めることが健のするべきことだった。
「本当に、僕にもあるのかな……フェチなんて」
弱音のような言葉が口をついて出てくる。
らしくもない。
健は唇をぎゅっと結んだ。
「そんなに必要なものなの、フェチって?」
「……生活していく上では不要だろうね。でも、僕は知りたいんだ。クラスの男子たちが持ってるのに、僕だけが持ってないもの。芹にもあるんだろ、フェチ」
「わ、わたし!? わたしのフェチ……」
芹が目をぐるぐる回した。
「ちょっとわからないかな、そういうの……」
「? ああ、そうか。芹は女子だもんな。男とは違ってて当然か」
「違うっていうか……特殊っていうか……」
芹の口がごにょごにょとうごめく。
健はそれも気にせず、一人で納得し、うんうんと頷いていた。




