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「これが似合いそうね」

「うーん……わたしはこっちも捨てがたいけど……」

 カーテンで閉ざされた試着室からは、観憂と芹の相談する声が聞こえてくる。健は所在なくカーテンの前に立つしかない。

 休日のショッピングモールは、どの店も盛況していた。健が今いる店は、子ども向けの服を専門に取り扱っている店舗だ。適当に周りを見回せば、親子連れの客ばかりが目につく。

 観憂の提案通り、健は観憂、芹、こじろの三人を連れて買い物に訪れていた。マナはいない。

『私には買いたいものはございません。それに、バッテリーの問題もありますので』

 ――ということで、マナは自宅で留守番をしている。

 人間、触人種、梅の木の妖精……。種族はバラバラだが、女三人であることに変わりはない。一店ごとを見て回る時間が長い。

 特に、この手の商業施設に来たことのない観憂とこじろは通りかかる店全てに興味を示した。この子供服の店に来るまでに、予想以上の時間がかかった。

(いいんだけどね)

 健はぼんやりと待つことにしていた。

 やがて、試着室のカーテンがサッと開く。

「じゃーん!」

 観憂が効果音を口で言いながら、こじろを手の平で扇ぐ。

 こじろはさっきまでの着物姿ではない。ティーシャツとデニムのミニスカートという、どこにでもいる女児のような服装だ。これが観憂と芹の行き着いたコーディネイトらしい。

「どうじゃ、健? 似合っておるか?」

 照れたようにこじろが訊いてくる。

「こういうのを着るのは、初めてなのじゃが……」

 健はこじろの頭頂部からつま先を観察した。

「可愛いと思うよ」

「ほっ、ほんとか!」

「嘘を言ってもしかたないよ」

 こじろが頬を綻ばせる。

 その横で、観憂が胸を張った。

「あたしと芹のチョイスは間違いじゃなかったわね! ね、芹!」

 芹の肩に、観憂の手が添えられる。

 芹は固い笑顔を浮かべていた。

「う、うん……」

「これ一式を買って、そのまま着ていったらどうかしら?」

 観憂の言葉に、健は疑問を挟んだ。

「こじろはまだ下着が無いんだろ? そんなミニスカで大丈夫?」

「……あ」

 芹が慌てた。

「そ、そんなのダメだよ!」

「そうね。幼女のノーパンチラリズムはいろいろと問題があるわ。ただでさえ、最近は風当たりが厳しいらしいし」

「観憂はなんの話をしてるんだ?」

 こじろの服を買うことに変わりはないものの、着物に着替えてからレジへと向かった。

 その後、様々な店に寄り道しつつも、ようやく目的の店へ到着した。女性ものの下着店だ。ピンク色の内装が男を拒んでいるように見える。

「健も一緒に入る?」

 ニヤニヤしながら観憂が訊いてきた。

 健は静かに首を振る。

「いや、僕は外で待ってるよ」

「なーんだ、残念。あたしのも選んでもらおうと思ってたのになー」

「み、観憂さん……」

 芹が顔を赤らめていた。

「冗談よ、冗談。さ、入りましょ」

「……ごめんね、たけちゃん。ちょっと待ってて」

「行ってくるぞー」

 健は下着店に入っていく女子三人に手を振った。

「ゆっくり見てきたらいいよ」

 下着店の前に、一人残される。

(さて……どうしたものかな)

 健は壁にもたれた。腕組みをして俯く。そうすれば、頭の中は、すぐにここ数日の悩みに満たされた。

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