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「本当に、こじろちゃんなんだ」

 芹は感心したように息を吐き出しながら言った。

 こじろについての説明は、すでに健から聞いていた。

「あの梅の木がこじろちゃんだったなんて……」

「ずっとあそこから、健や芹を見ていたのじゃ」

 ソファで隣に座っているこじろがニコッと笑いかけてくる。こじろは着物に着替えていた。

 自然と、芹の頬も緩む。

「なんだか嬉しいな。こじろちゃんにずっと会いたいって思ってたから」

「わしもじゃ。芹は大きくなったな」

 こじろは芹と同じように、深くソファに座っている。脚が床についていない。こうしていると、芹との身長差がハッキリと目に見える。

「芹も驚かないのか」

「うん? なにが?」

「わしが、庭の梅の木に宿っていること」

 こじろが少し怪訝な顔をした。

 芹は頭を振った。

「不思議なことだけど……全然驚いてないよ」

 本当なら、すぐには信じられることではないはずだった。

 だが、ここ最近の芹の周りでは現実離れした存在ばかりが明らかになっている。

 触手の生える転校生、触人種との折衝役をする生徒会長、人間そっくりの触手メイド……。

 今さら梅の木の妖精に出てこられても、もう驚きもしない。芹の感覚は半ば麻痺していたのだ。

「お待たせ」

 身支度を終えて、健がリビングに戻ってきた。

「行こうか」

「うん」

 健と芹は揃って家を出ようとする。

 二人を見送りに、マナとこじろが廊下まで出てくる。

「健!」

 靴を履くために、上がり框に腰かけていた健の背に、こじろが抱き付いていった。

「早く帰ってくるのじゃぞ! 話したいことがたくさんあるんだからな!」

「あぁ、そうだな。いい子で留守番しててくれよ」

 健が背中のこじろの頭を撫でる。

 それを、先に靴を履いて立っていた芹は固まったまま見ていた。大事なことに気づいたからだ。

(こじろちゃんも女の子だ!)

 健の周りに女の子が増えていく。芹にとっては脅威以外の何物でもない。

 観憂、マナと来て、今度はこじろ。

(あっ! でも、こじろちゃんは外見が子どもっぽいから、たけちゃんの恋愛対象には入らないよね……大丈夫だよね!)

 芹はぐっと手を握りしめた。

「ね、たけちゃん!」

「……ん、なんのこと?」

 こじろの頭を撫でながら、健は首を傾げる。

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