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芹が健の家に入ると、リビングではすでに朝食が用意されていた。
「おはようございます、芹様」
食器を運びながら、マナが言った。
「ごめんなさい、マナさん! 今日、ちょっと寝坊しちゃいました!」
「大丈夫ですよ。以前、芹様に教えて頂いたメニューを再現しましたので」
「そ、そうですか。それなら……」
芹はリビングを見回した。
「たけちゃんは、まだ寝てるんですか?」
「ええ」
「わっ、わたしが、起こしに行ってもいいですか!」
思わず、そう訊いていた。
マナは首を傾げた。
「芹様が、ですか?」
「遅れちゃいましたから、それぐらいしたいなぁ、と」
「……そういうことでしたら構いませんよ」
やや難色を示したものの、マナからの許可は下りた。
「ありがとうございます! じゃあ、行ってきますね!」
芹は興奮気味に鞄をソファに置くと、リビングを飛び出した。
遅れてしまったお詫び、というのは単なる方便に過ぎない。本当のところは、寝ている健を起こしたいという動機しかなかった。
「グッドモ~ニング~♪ USA~♪」
鼻歌とともにスキップしながら健の部屋の前までやってくる。
ドアを開け、そっと体を滑り込ませる。
健はベッドで布団にくるまって寝ていた。
「はぁ……たけちゃん……」
健の寝顔を見て、ついため息が漏れた。
起こしてしまうのがもったいなくなる。
できればずっと眺めていたいが、それもできない。
(ど、どうやって起こしてあげたらいいんだろう……)
健の寝ているベッドのすぐ横で、芹は頬に手を当てる。
朝、幼馴染みの北川健を目覚めさせる。
その方法に芹は思いを馳せる。
(普通に肩を揺するだけじゃ面白くないよね! ちょっと元気に布団を剥いじゃう? それとも、ちょっとしっとりめに、耳元で囁いちゃう? そ、それとも……)
芹が妄想を膨らませて悦に入り始めた。
その時、健のかぶっている布団がうごめいた。
「……?」
芹は布団を目を凝らして見る。それで初めて、布団の真ん中部分が不自然に隆起していることに気づいた。
「お、大きい……って、そんなわけ、ないよね」
顔を赤らめた芹は、そっと布団をめくることにした。
ベッドに仰向けに寝ている健。その腹部に、幼女が横たわっていた。幼女は男物のカッターシャツしか着ていないようで、臀部があらわになっていた。
「……ん」
健が目を覚ました。瞼を擦りながら、芹を見上げる。
「芹か。おはよう」
健の呑気な挨拶に、芹は反応することができない。
顔が引きつり、叫びが喉を駆け上がってくる。
「ど……どこから拾ってきたの、その幼女は―!!」




