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寝室のドアがノックされた。
「お兄様、起きていますか?」
ドアの向こうから、マナの声が聞こえてきた。
パソコンの前に座っていた健は、椅子の座面を回転させて、ドアの方を向いた。
「どうした?」
「私はそろそろ充電に入ります。リビングに待機していますので、なにかご用でしたら、お声をかけてください」
「あぁ、わかった。おやすみ」
ドアの向こうから「おやすみなさいませ」との返事が返ってくる。それで、マナは階段を下りていったようだった。
健はパソコンに向き直った。液晶ディスプレイにはワープロソフトが表示されている。今朝書いていたレポートの続きを書いているのだ。
学校の教師に提出する宿題ではない。このレポートは、サブカル研の植松部長に渡すためのものだ。
植松から借りた恋愛ゲームはすでに一通りクリアしている。
フェチを見つける一助として貸してもらうゲームソフト。
健はゲームクリア後の感想と考察を丁寧に文章にして、ゲームソフトごと植松に渡すようにしていた。レポートを書き上げるのは手間がかかるが、これも自分のフェチを見つけるための大切な作業だった。
(冷静に観察することで、自分がそれを好きかどうか、判別できるはずなんだ……)
健はキーボードを叩き続ける。
ディスプレイを見つめる瞳は、どこか冷めていた。




