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『……以上の伏線は、全て彼女のルートのクライマックスにて回収され、これがプレイヤーにカタルシスを抱かせることに一役買っている。しかし個人的には、彼女の抱える問題の解決に、主人公がやや傍観者のスタンスを取っていた点については明らかな減点箇所と判断した。』
そこまでワープロソフトに打ち込み終えたとき、家のインターホンが鳴らされた。健の集中力はそれで途切れた。
パソコンの液晶の片隅を見る。いつの間にか、時刻は正午になろうとしていた。レポートを書き始めて、すでに数時間。
(休憩するか)
急かすように、インターホンが再度鳴らされる。
健はパソコンのディスプレイの電源を落として、寝室を出た。階段を下りて、玄関までやって来る。
玄関のドアを開けた。
「北川さんですね?」
ドアの前に立っていたのは、緑色の作業着を着た男性だった。軒先の路肩には黒猫の描かれたトラックが停まっている。宅配業者だった。
「こんちわ、お届け物です」
「はぁ、どうも……」
健は視線をやや下へ向ける。
業者の男性は徒手空拳だった。
「いまお持ちしますので」
そう言うと、業者の男性はトラックへと戻っていった。
空は一面まっ青。晴れ間の広がる、日曜日のお昼時だ。こんな天気のいい日には外を出歩くのもいいだろう。健はそう思ったものの、今日は家でやるべきことがあった。
「お待たせしました……!」
宅配業者がトラックから戻ってくる。さっきの男性に加えて、トラックで待機していたらしい男性までやって来る。二人がかりで運んでくるのは、長方形の段ボール箱だった。
かなり重いのか、業者の男が二人ともひぃひぃ声をあげている。
健は玄関のドアを目一杯あけた。
段ボールが廊下に置かれる。
「はぁ、はぁ……では、こちらにサインお願いします……」
男性が肩で息をしながら、伝票とペンを差し出してくる。
健は伝票に書かれている差出人を確認した。健の母親と、母の勤め先である研究所の名前が書かれていた。
伝票にサインをし、業者に返す。
業者は軽く頭を下げた。
「じゃ、失礼します」
「お疲れ様です」
健の労いを聞いて、宅配業者がトラックへ戻っていく。
ドアを閉めると、トラックの動き出す音が聞こえた。
(母さんから……? なんだろう?)
送られてきた荷物を見下ろしながら、健は首を傾げた。
長方形の段ボール。普通の宅配物にしては大きい。標準的な体型の高校生なら、すっぽり中に入ることもできるだろう。
(棺桶ってこれぐらいの大きさなのかな)
あれこれ思案しても、荷物の中身はわからない。
健は段ボールを塞いでいるガムテープを剥がした。観音開きになっているフタを左右に開けた。
「ん?」
段ボールの中身は、緩衝材をベッドにして目を閉じている少女だった。それだけならまだしも、なぜかその少女はメイド服に身を包んでいた。長袖と丈の長いスカートの、清潔感のあるメイド服だ。
「これは……」
健はそっとメイド少女の顔に手を伸ばす。頬に触れると、無機質な冷たさが指先に感じられた。息をしている気配もない。
「死体……? いや、さすがにそれは無いか……」
健がぶつぶつと推測を立て始めたときだった。
メイド少女がカッと目を見開いた。その瞳を健の顔へと向ける。精巧なガラス細工のように、曇りのない眼。角膜の向こう側で、黒目がわずかに縮小した。
「きみ、大丈夫か?」
健はとりあえず声をかけた。
しかし、少女は無表情のまま、じっと健を見つめ返すだけで返事をしない。その代わりに、一言だけ尋ねてくる。
「あなたが、北川健ですか?」
あまり抑揚のない声だった。
あぁ、と健は頷く。
「そうだけど……きみは?」
健が聞き返すと、少女は上半身をゆっくりと起こした。段ボールの外へ、自らの足で立ち上がる。そして丁寧にも、お腹のあたりで手を組んで、深々とお辞儀をしてきた。
「初めまして、お兄様。私はマナと申します。本日より、お兄様の身の回りの世話をさせていただきます」
「世話? ……お兄様?」
「はい。私はお兄様の、お父様とお母様によって作られたました。ですから、お兄様から見れば、私は妹ということになります。ですから、お兄様も私のことはマナとお呼びください」
やや間があって、健は頷いた。いきなり「お兄様」と呼ばれた理由に、納得してしまったからだった。
「きみは作られたって言ったね。ということは、きみはロボットか何か?」
「はい。家事手伝いのためのロボット……私はその試験機です」
答えながら、マナはさっきまで寝床にしていた緩衝材の中から、A4サイズの分厚い冊子を取り出した。
「詳しくはこちらに全て書かれています」
健はマナから冊子を受け取った。モノクロ印刷の表紙には『YT―1取扱説明書』とプリントされていた。
「メイドの姿をしたロボットなんてSFみたいだ」
「今でもすでに、掃除機が自動化されています。私のような、掃除以外の家事も代行するロボットが開発されても、決しておかしい事例ではないのではないでしょうか?」
「それもそうだね」
健はマナの立ち姿を素早く観察した。
パッと見ただけでは機械とは思えないほど、人間に似せて精巧に作られている。声はやや抑揚が無いものの、普通の人間のものと遜色ない。
これが健の両親の研究所で作られた。
一つだけ疑問が出てくる。
「でも、そんなロボットがどうして僕の家に? 試験機っていうぐらいだから、実用化はまだ先なんだろ。そういうのって研究所でテストを重ねるものじゃないのか?」
「お兄様のおっしゃるとおりです。私はまだ生産されていない試験機です。ですが、研究所での性能評価試験は全て終え、調整も済みました。お兄様の家に来たのは最終段階の、フィールドトライアルのためです」
「フィールドトライアル……実地試験?」
コクンと機械的に、マナが頷いた。
「製品化するには、実生活の中で稼働することによって得られるデータ……浮かび上がってくる様々な問題点を収集することが不可欠です。そのため、開発チームのメンバーのうち、どなたかの家庭に送られることとなりました」
「その誰かが、僕の父さんと母さんだった?」
「はい」
メイドロボが無表情のままで頷いた。
こんな子が送られてくるなんて、健は両親から一言も聞かされていなかった。しかし、もともと無精な二人のことだ。ただでさえ電話で声を聞くことさえ稀なのだから、なにも連絡がなくても不思議ではない。
「事情はわかったよ。それで、僕はなにをすればいいの?」
「お兄様に何かしていただくことはございません。身の回りのお世話を私にさせてもらえれば、それで充分です。それから」
マナはやはり表情の無いまま続ける。
「して欲しいことがございましたら、なんなりとお申し付けください。お兄様の命令には従うよう、プログラムにも書き込まれておりますので」
「して欲しいこと、ね……」
どんな命令でも聞いてくれるメイドの妹。
突然家にやってきた都合の良すぎる少女にも、健は心を乱されなかった。命令と言われて思いつく一番体を接触させるものは、肩もみぐらいのものだった。
それさえも容易には頼めそうにない。
「なんだかお願いするのは悪い気がするね」
「なぜです?」
「きみの見た目が人間にそっくりだから、かな。気が引けちゃうんだね」
思ったところを正直に伝える。
マナは小さく首を左右に振った。
「お兄様が遠慮することはございません。そのために、私はここへ送られてきたのです。むしろ、要求をたくさん出されたほうがデータも得られ、私や開発グループの皆様も助かります」
「そういうものなの?」
「はい、そういうものです」
起伏に乏しい口調なので、断定型で言われると妙な説得力があった。
「ではお兄様。何か命令してくださいませんか?」
「いきなりだね……」
「早く慣れていただくためです。さ、お兄様。私にできることなら、なんでもさせていただきます」
ずいっと一歩、近づかれる。マナのショートカットの髪が揺れた。
健は適当な命令を考えた。
「それじゃあ……昼食を作ってくれるかな?」
「お食事の準備ですね。かしこまりました」
そう言うと、マナはすぐそばのドアを開けた。リビングダイニングへと続くドアだ。その動作には迷いがない。
「キッチンの場所を知ってるの?」
「はい。この家の間取り図はあらかじめインプットされています。ですが、どこに何があるのかまでは、把握できていません。のちのち教えていただけますか?」
「あぁ、もちろん」
マナとともに、キッチンまでやって来た。
「お兄様は席に座って待っていてください」
そう言われて、健はテーブル席に腰を下ろした。
(冷蔵庫の中身の確認とかから始まるのかな?)
マナの後ろ姿を見守る。
しかし、マナはキッチンの中央あたりで、ピタッと立ち止まってしまう。
早くも分からないことがあるのだろうか。
そう思い、声をかけようとした矢先だった。
マナが流し台のあたりに向かって、両手を尽きだした。大きく開いた袖口が大きく垂れる。そこから、にゅっと銀色のものが顔を出した。
銀色の触手――。
ストローの曲げる部分が繋がったような、全長にわたって蛇腹の構造をした触手だった。それは一本だけではなく、両手の指の数ほども一気に袖口から伸びてくる。
「マナ、それって触手だよな」
「触手?」
マナはくるっと健のほうを振り返る。大したことに、マナの体の向きが変わっても、中空に伸ばされた触手はビクとも動かなかった。
「カタログでは、これは補助作業アームという名称になっています。研究所では、マルチサブマニュピレーターと呼ばれていました」
冷静に解説しながら、マナは機械触手をキッチンの隅々に伸ばす。
冷蔵庫、食器棚、調味料入れ……。
それらの中身を改めるように、数本ずつの触手が冷蔵庫や棚を開けていく。観憂の赤い触手と違い、マナの銀色の触手は動きに無駄がない。
「ミートソースのスパゲッティでもいいですか?」
「なんでもいいよ」
残っている食材を全て確認し終えたらしい。
マナは調理に取りかかった。やはりマナは動かず、その場から触手を動かすだけで調理を進めようとする。
パスタの麺の袋を開けるときなど、細かい作業をする際には、触手の先端がくぱっと開き、その内側からさらに細い触手が何本か出てくる。
(精密作業のための触手もあるのか……)
健は感心した。
マナが触手で、水の入った鍋をコンロの火にかける。
水が沸騰するのを待っている間に、家のインターホンが鳴らされた。
「マナはそのまま続けてていいよ」
リビングのドアへ歩き出そうとしたマナを制して、健は玄関に向かう。今日二度目の来訪者。玄関のドアを開ければ、今度はそこに、私服姿の観憂が立っていた。
「やっほー、健! 遊びにきちゃった」
「観憂か。いらっしゃい」
健は観憂を家の中にすんなり入れた。
「今日はどうしたの? 休日に来るのは珍しいね」
「菊華のところ、遊ぶものが何もなくてつまらないんだもの。健と一緒にいたほうが楽しいわ」
上がり框に腰かけていた観憂は、靴を脱いで振り返る。
「ね、なにか一緒に遊び――れ?」
観憂の視線は健を通り越した、さらに後ろには向けられた。
健も振り返ってみる。
リビングのドアから、マナが出てきていた。
「お兄様、こちらの方は?」
「あぁ、同級生の外世観憂。友達だよ」
むっ、と観憂が不満そうに声を漏らした。
「友達ってのは引っかかるけど……それよりも、お兄様? 健って、妹がいたの? しかもメイド服を着せてるなんて、なかなかマニアックな趣味ね」
「いや、そういうわけじゃないよ。彼女はマナっていう、家事手伝いのロボットだよ。僕を兄扱いしているのは、僕の父さんと母さんが開発に関わっているからさ」
「あ、そうなんだ。てっきりホントの人間かと思ったわ……ふぅーん」
観憂はマナに近づいていった。
かと思えば、マナの胸をメイド服の上から両手で掴んだ。感触を確かめるように五指を動かす。
「わっ、柔らかい! ここまで人間っぽいなんて! ……あ、でも大きさではわたしの勝ちね!」
フフンと観憂が鼻を鳴らす。
胸を鷲掴みにされても、マナは無表情のままだ。
観憂はひとしきりマナの胸を触ると、ふいに健を振り返った。なぜかニヤッと笑っていた。
「健も触ったら? あ、わたしのおっぱいのほうがいい?」
「いや、僕はどっちも遠慮しておくよ。ありがとう」
「――ちぇっ、ちっとも恥ずかしがらないのね。本当にこのメイドと兄弟みたい。冷めてるところが似てるわ」
冗談をかわされた観憂は残念そうに言った。しかし、マナのメイド服の袖――正確には、そこから伸びている銀色の触手を見た途端、声のトーンを上げた。
「あっ、これって触手じゃない! なによ、あなたって触手メイドなの?」
「いえ、触手ではありませんが」
「えー、でもこれはどう見ても触手よ! これも人間が作ったの? へぇー……銀色の触手ってカッコイイわね」
観憂は眼を輝かせて、マナの機械触手を珍しそうに見る。触手はマナの袖口から伸び、キッチンまで続いていた。
「いま、スパゲッティを作ってもらってるところなんだ。観憂は昼食は?」
「もう食べてきたわ」
三人とも、リビングへ入る。
マナはキッチンに立ち、触手で調理を続ける。いつの間にか、コンロに置かれている鍋が二つに増えていた。さっき廊下まで出てきたときも、触手だけはキッチンで作業を続けていたようだ。
「人間ってすごいわね。触手を持ったロボット作っちゃうんだもの。しかも、人間そっくり」
テーブル席で、健の反対側に座った観憂が言った。
「あの触手メイド、作ったのは健のお父さんとお母さんなんだよね? どんな仕事してるの?」
「二人とも、工学系の研究所に勤めてるんだ。よっぽど研究が楽しいみたいで、あまり家には帰ってこなくてね。電話がかかってくることも滅多に無い」
「そうなんだ?」
健と観憂が話していると、マナが二つのコップをプレートに載せて運んできた。プレートは触手ではなく、マナの手によって支えられていた。
「どうぞ」
健と観憂の前に、それぞれコップが置かれる。中身は緑茶だ。
「ありがと!」
観憂はマナに元気よく礼を言った。
マナは無表情のまま軽くお辞儀をすると、プレートを胸に抱いてキッチンへ戻っていった。
観憂は緑茶を一口飲んだ。
「触手メイド、全然笑わなくて冷たい感じだけど、煎れてくれたお茶は温かいわね」
健と観憂が緑茶を飲みきらないうちに、マナの料理は終わったようだった。スパゲッティーの料理がプレートに載って運ばれてくる。
スパゲッティにかかっているのはミートソースだ。
「いただきます」
健はマナの作ってくれたスパゲッティを食べた。
「美味しいよ、マナ。すごいね、あの短時間でここまで作れるなんて。……でも、トマトなんて野菜室に入ってたか?」
「ソースは私が作ったものではありません。湯煎するだけのものが残っていたので、それを使わせていただきました」
マナが冷静に答えた。
スパゲッティをすすりながら、健はキッチンの方を見た。
どうりで、片手鍋が二つ置かれていたのは、そういう理由があってのことだった。一つは麺を茹でるためのもの、もう一つはソースを湯煎するためのもの。
「触手メイドって、料理はどれぐらいできるの?」
観憂が訊いた。
すると、マナはハッキリと答えた。
「料理はインスタントやレトルトのものしか作れません」
「それは……料理、なの?」
なんとも形容しがたい顔をして、観憂は健を見た。
健はパスタを頬張りながら、そばに立つマナを見上げた。
マナはやはり表情をピクリとも変えない。
「一通りのレシピならプリセットされています。しかし料理は他の家事よりも、感覚が必要になるそうですね。レシピ通りに作っても、それが美味しいものかどうかはまた別物。研究所の方々からは、そう教わりました」
さらにマナは淡々と続ける。
「残念ながら、私には人の五感のうち、味覚が欠落しています。温度やペーハー値などのデータは測定できますが、それではおいしい食事は作れません」
「じゃあ、触手メイドはこれからどうするの?」
「私自身に味覚はありませんが、その代わり、学習機能が備わっています。私の作った食事に、お兄様がどんな反応をするかで、お兄様の好みの味を覚えていきます」
ふむむ、と観憂が唸った。
「つまり、健にたくさん料理を作って、その積み重ねで腕前を上げていこうっていうこと?」
「その通りです」
「でも、それだと最初のうちはなかなか苦戦しそうね」
観憂は困ったような表情を浮かべた。
しかし、実際に困るのは健とマナだ。
その二人はというと、どちらも平然としていた。
「その点に関しては、お兄様に協力していただくことになります。プログラム部門の総責任者であるお母様からは、『食べさせて死なないものなら作っていい』と許可を取っています」
「母さんらしい言い方だ」
苦笑いしながら、健はフォークを置いた。
皿が空っぽになっていた。
「父さんはマナのどこを担当したの?」
「お父様は設計とプログラムの両方を受け持っておられました。おもに補助作業アーム……さきほどから触手といわれている部分です」
「そう」
健は食後の緑茶を飲みながら、また苦笑した。
(親子二代で触手に縁があるみたいだ)
さっきのマナの触手の動きを見るに、父親はいい仕事をしているようだった。
「料理のことは、もちろん協力するよ」
「ありがとうございます、お兄様。……なにか効率のいい方法があればいいのですが」
「しかたないよ。信頼できるデータを得るには時間がかかるものだって、前に母さんも言ってたからね。地道にやっていこう」
健は席を立った。
「ごちそうさま」
食器を持とうとする。
横からマナの触手が伸びてきて、健の手を遮った。
「片付けも私の仕事です。お兄様は、観憂様と遊んでらしてください」
「……ありがとう」
マナは空になった皿とフォークをプレートに載せて、キッチンへ歩いていく。
観憂も椅子から立ち上がった。
「ねぇ、健。ゲームしましょう、ゲーム!」
「ゲーム? このあいだ見せた恋愛シミュレーション?」
「アレも面白そうだけど、何か別のものがいいわ。わたし、ゲームっていうものをやったことがないの」
目をキラキラさせてせがんでくる。
健は寝室のパソコンのことが気になった。書きかけのレポートがある。今日はずっとそのレポートに取り組む予定だった。
観憂とレポート。
どちらを優先するかは、考えるまでもなかった。
「格闘ゲームでもやってみる?」
「格ゲーっていうやつね! やるやる!」
はしゃぐ観憂とともに、テレビの前に移る。
(レポートは平日の夜にでもやればいいか)
ゲーム機にディスクを入れた。
ソファに座り、隣にいる観憂にコントローラーを渡した。
「御千髪先輩の家にはゲームってあるの?」
なんとなく気になったことを尋ねた。
観憂は唇を尖らせた。
「菊華はこういう遊び道具、なにも持ってないわ。そんなものに時間を割くぐらいなら勉強か一人前の退触師になるための修行をする、とかなんとか言って」
「さすが御千髪先輩」
後ろのキッチンからは、マナが洗い物をする音が聞こえてくる。
「あんな娯楽のない生き方してて、何が楽しいのかしら。今日だってそうよ。外に出かけるっていうから、デートかって訊いたら、参考書を買いに行くためだ……って」
「うーん……休日ぐらい、休んだほうがいいと思うんだけどなぁ」
「ホントよ。菊華って、なにか趣味っていうものを持ってないのかしらね」
頬を膨らませて、観憂はもう一言付け加える。
「勉強と修行以外で」




