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 放課後の図書室は静かなものだった。設けられた席に座る生徒たちは、黙々と本を読んだり、勉強したりしている。本の貸し出しにやってくる生徒もまばら。

 受付にいる図書委員は、貸出の手続きをする一人のみ。本の返却は専用のラックに入れるだけ。喋る相手もいないので、受付の担当になった図書委員の中には、暇を持てあます者もいた。

 しかし、霜田芹にとっては本を読む絶好の機会だ。

 誰にも邪魔されず、一人静かに、文庫本のページを繰る。


 後ろ手に縛られた奈津美が呻く。縄は女の腕だけでなく、脚の自由まで奪っていた。拘束から逃れようと、床に横たわったまま身をよじらせる。麻縄が奈津美の柔肌に食い込み、余計に痛みが広がるだけだった。

「お願い……もう許してください……」

 奈津美が瞳に涙を溜めて、男に懇願した。

 男は何も答えず、ただ嗜虐的な目で、奈津美の裸体に模様を作る麻縄を見下ろす。


 官能小説だった。ブックカバーで隠れているが、表紙のカバーは黒く、西洋っぽい名前のレーベル名が印刷されていた。

「はぁっ……」

 官能小説を受付でこっそり読みながら、芹は熱いため息をつく。尾骨のあたりに、マッチ一本ほどの火が点いている気がする。

 芹は官能小説――特に緊縛小説が好きだった。去年、普通の男女の恋愛小説を読んでいた折、主人公の女が恋人の男に縄で縛られる場面があった。そのシーンは、芹に大きな衝撃を与えた。

 あれ以来、芹は進んで緊縛小説を読むようになった。いわゆる官能小説に手を出すようになったのだ。好きすぎるあまり、今ではこうして学校にも持ってくる始末。

 この趣味を、幼馴染みの男は知らない。

(たけちゃんには絶対に言えない。きっと、気持ち悪いって思われちゃうもの……。たけちゃんに嫌われちゃったら、わたしは……)

 自分の好みが特殊であると、芹は自覚していた。

 それでも、官能小説のページを捲る手を止められない。

(この女の人……羨ましいなぁ)

 本の中で緊縛されている主人公に、芹は息を深く吐き出した。

「……あの、すみません」

 不意に、目の前から呼びかけられた。

「ひぇ!?」

 芹は反射的に本を閉じた。

 受付の前に、男子生徒が立っていた。彼は戸惑った顔で、本を差し出してくる。

「あっ、はい。貸し出しですね!」

 芹は慌てて、図書委員の職務に戻る。

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