いつかの桜SS・8
「いいお湯ですねぇ・・」
「いいお湯ねぇ・・」
カポーン・・・なんて音が響くほどではないけど5、6人なら余裕で一緒に入れるほどあたしの家のお風呂は大きい。
「すみません、わたしまでお風呂いただいてしまって」
ちょっと申し訳なさそうにさくらが言う。
「いいのよ。あれだけ汗かいたんだもの。女の子がそのまま帰るわけにはいかないでしょ。」
「そうですね・・・助かります。
あんまり運動してこなかったですから生まれて初めてかもっていうくらい汗かきましたし」
「いいわねぇ女の子って感じで。あたしなんか子供の頃からあれだから筋肉ついちゃうし・・・」
力を入れた自分の腕をつかんでみると、なかなかに硬くて悲しくなる。
「ただひ弱なだけですよ?わたしは澄さんみたいなかっこいい女の人憧れます。」
「いいことないわよ?女の子扱いされないことだって多いし。ま、逆にそれが楽だって言えばそうだけど」
まぁ、こういうのは結局無い物ねだりなのだ。わかっているのだけれど・・・
「羨ましいと思ってた女の子像をここまで体現してる女の子を見ちゃうとねー・・・」
ぽつり、と呟いてしまう。
「・・・わたしは、あなたみたいに強く生まれたかったです」
「え?」
何かーーさくらの声かわからないような、聞いたことが無いような暗い声で、さくらが何か呟いた気がした。
「いえ、澄さんみたいに強くなれるかなぁって」
ぱっ、とさくらが笑顔で、いつもの声で言う。
確かにかすかに言葉が聞こえたはずなのに、それが本当かわからなくなるくらいに自然な、いつものさくら。
・・・本当に気のせいだったのかもしれない。
「あれ、澄さんどうしたんです?大丈夫ですか?」
「え、あ、うん、なんでもないの。大丈夫。」
さくらがこちらを覗き込んでいた。
きっと変な顔をしていたのだろう。ばしゃばしゃと顔にお湯を当てて気をとりなおす。
「しっかし本当に肌白いわねーさくら。ほら、おねーさんによく見せなさいっ」
「や、わたしと澄さん同い年、わひゃっ!?」
さくらの細い腕をつかんで引っ張る。
腕だけを引っ張るのはなんだか不安になったので、腰にも手を回して引っ張る。
「ちょ、ま、す澄さんダメですってばっ」
「いいじゃない女同士なんだからー。気付いてたわよー、さっきから何気に見えないように手で隠してたでしょー。うりうり♪」
「だ、だってわたしちっちゃいし澄さんおっきいしっ、わ、そこダメですっわひゃ、あははは、くすぐったあはははははっ」
「いいじゃないそんなの。こんなの肩こるしやらしい目で見られるしいい事ないわよー?」
まぁ、これもきっとお互いのないものねだりなんだけど。
「うー、たびたび子供に見られるつらさは澄さんにはわからないですっ、えい!」
「ひぇ!?ちょ、つかんじゃ、ってわき腹つかまないでくすぐった、あはははっ!」
「あらあら、仲いいわねぇ。
バスタオルここに置いとくからのぼせないうちに上がるんですよ。」
からり、と引き戸が空いておばーちゃんが顔を出す。
「あははは・・はーい。ありがとー」
「あ、は、はい!ありがとうございます!」
あたしはのんびり、さくらは焦って姿勢を正して答える。
「はー・・・笑った笑った。」
「もー、いきなりひどいですよ澄さん。」
「とか言ってさくらも途中からノリノリだったじゃない」
「えへへ・・・」
照れたように笑うさくら。
やっぱり可愛いなぁ。
さくらの頭に手を伸ばして、頭を撫でる。
「ん・・・わっ?」
されるがままになるさくらを、そのまま引き寄せて胸に抱く。
「んー・・・」
変わらずされるがままのさくらの頭をそのまま撫でる。
「・・・澄さん」
「うん?」
しばらく目を閉じて撫でられていたさくらがふと口を開いた。
「わたしは・・・澄さんみたいに強くなれるでしょうか」
「・・・あたしは強くなんかない。
でも、そうね。また気が向いたらおじーちゃんに鍛えられにきたらいいわ。
」
「・・・はい。」
「そしたらまた一緒にお風呂入って・・・繰り返してたらいつか強くなれるわよ。」
その頃にはきっと、どこかで嫉妬しているあたしの心も。
「・・・はい。」
優しい声で答えてくれるさくら。
なんだか離れたくなくて、そのまましばらく2人でそうしていた。
さくらがどう思っていたかはわからないけれど。
・・・あと、2人してのぼせておばーちゃんに怒られたけど。




