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神の声を聞く少年

作者: 嘘河真白

 ようちえんのじゆうじかん、ぼくはいつもかたすみでそらをみている。


 ぼくにはほかにすることがないからだ。


 ほんとうはそらなんてみていたくないけど、こうしてじかんがすぎるのをまっている。


 ほかのみんなはともだちとあそんでる。ぼくだけがひとり。


 しばらくみんなをみていると、ひとりでいるこをみつけた。


 「ねえ」


 ぼくがこえをかけると、そのこはぼくをみた。


 「僕に何か用かい?」


 そのこはぼくをみてとてもうれしそうなかおをするとぼくにはなしかけてきた。


 「ぼくと、ともだちになって」


 ぼくは、きづいたらそんなことばをくちにしていた。ひとりがさみしかったのかもしれない。


 でも、このおとこのこならぼくでもともだちになれるという、よくわからないじしんがあった。


 ぼくはおとこのことじかんがすぎるのをわすれて、いっぱいいっぱいあそんだ。


 きづいたら、ひがくれていた。


 ぼくはいえにかえることにした。


 「家に帰るの?」


 「うん」


 「もっと遊ぼうよ」


 「でも、おかあさんがしんぱいするから」


 ぼくはおとこのことばいばいして、いえにかえった。


 おかあさんはこんなにおそくまでなにしてたの?ときいてきたけど、


 ぼくにもそのりゆうがわからなかった。




 「はあ……」


 なんてこった、死にたい。


 なんとなく先輩と二人きりになって、なんとなくいい雰囲気になったから、これは行ける!と思って告白したら、


 「ご、ごめんなさい……」


 だもんなあ……


 やっぱり告白するのが早かったかなあ、もうちょっと親しくなってからなら、望みがあったかもしれないのに……


 あー、あんな告白しておいて、部活に行けるはずがない。


 どっか遠くにでも行きたいくらいだ……


 ふと、視界の隅に少年が見えた。


 なぜか笑顔で手を振っている。


 「俺に何か用か?」


 「うん!一緒に遊ぼう!」


 はあ、高校生が小学生ぐらいの少年と遊ぶとか、恥ずかしいってレベルの話じゃないが……


 まあ、いっか。たまには


 俺はその少年と遊んでやることにした。


 「あはは、こっちこっちー」


 「はあ、はあ、ま、待てー……ちょっと、ほんとに、待って……」


 全身がエネルギーに満ち溢れている少年と、楽をすることを覚えて、体力ゼロの文化系高校生。


 どう考えても俺の方がバテるのが早い。


 ちっくしょー、俺だってなあ、今では文芸部に所属する灰色の高校生活を送る学生だが、昔は結構活発だったんだぞー!


 「いやあ、君くらいの年齢の時だったら、俺ももっと遊べていたんだけどね……寄る年波には勝てないなあ」


 「嘘ばっかり、前だって結局僕に追いつけなかったじゃないか」


 ……前?まあいいか。


 「ははは……まあ、次は体力を使わない遊びにしよう。パズルとか」


 パズルなら考えてるフリをして休めるし


 「んー、じゃあ、オハナシをしてあげようか」


 少年がそんな提案をしてきた。


 うん、お話、いいね。俺はただ頷いてればいいだけだし


 「えーっとね、じゃあ、世界のはじまりについてのオハナシをするね」


 え?なにその頭の痛くなりそうなタイトル。この年頃の少年にしてはそんな壮大なことを考えるのには早すぎやしないか?




 「ある時、世界の始まるずっとずっと前、何もかもがなかった時のことでした」


 「世界は無でした」


 「無はなにもしないので無でした。無は無であり続けるはずでした。」


 「しかし、無はある時退屈を覚えました。時間の誕生です。」


 「無は退屈しのぎに空間を作りました。けれど無の作る空間にはなにもありません。無は寂しくなりました。」


 「無は空間に物質を作りました。物質は他の物質と結びつき、様々なカタチを作りましたが、それでも無の寂しさを晴らすことはできません。」


 「無は考えました。どうしてこんなに寂しいのだろう、と」


 「無は思いつきました。それなら、無の持つ寂しさを他の物に分けてあげよう。物に寂しいことが理解できれば、無の寂しさを分かってもらえると」


 「そうして、無の寂しさを分け与えられた物は、生物になりました。」


 「生物はその寂しさを他の生物と理解しあい、愛を覚えました。」


 「けれど、無の寂しさがなくなることはありません。なぜなら、無の寂しさはあまりにも大きくて、生物には理解できなかったのです」




 「……へ、へー。なかなか壮大な話だね」


 あまりに壮大すぎて、何も感想が言えなかった。


 「僕が君に話したのは、君に知ってほしかったからなんだ」


 突然何を言い出すんだこの子は、こんなおとぎ話を俺に話して、どうするつもりなんだ。


 「僕はね、その無の寂しさを受け取ることができるんだ」


 そのカミングアウトはあまりにも突然すぎて、一瞬思考が停止した。


 「神様と対話してるんだ」


 一応返事はしておくべきだろう、でも特に何も浮かばなくて、少年が言ったことを反芻しただけだった。


 「ううん、違うよ。無という神様が一方的に嘆いているのを僕が聞いているだけ。神様は大きな声で寂しいよ、寂しいよと僕の頭を揺さぶるけど、僕の声は小さすぎて、いくら叫んでも届かないんだ」


 「病院に行った方が……」


 幻聴なら俺に話すよりも病院に行った方がいいだろう。


 俺がそう少年に話すと、少年は悲しげに言った。


 「病院に行っても無理だよ、今まで僕のことを見てすらくれなかったんだから」


 「そ、そんな、どうして」


 「僕は神様という大きな存在のせいで、見えづらくなっているんだ。宇宙から地球を見て、僕のことを見えないのと同じ。僕が小さすぎて、神様に覆い隠されているんだ」


 「じゃあ、なんで俺には見えてるんだ?」


 「僕にも分からない、波長があったんじゃないのかな?あの時の君は、今にも消えてしまいそうだったし」


 あの時の君?あの時の君って一体……


 「ねえ、僕と一緒に遊ぼうよ、僕、もっともっと遊びたいんだ、遊び足りないんだ」


 そんなことを言われても、無理だとしか言えない。


 「で、でも、君は小学生だし、俺は高校生だ。きっと合わない」


 「大丈夫だよ」


 その言葉に、なぜか危機感を感じた。


 少年は笑っている。その笑みが、怖い。


 頭の中で警報が鳴っている。このまま彼と接し続けたら、戻れなくなると。


 「ごめん、でも、無理だよ。また明日、また明日遊ぼう!」


 俺は逃げるように少年と別れた。


 なぜか俺は全力で走っている。


 どうしてだろう、早く、早く家族と会いたい。


 家に帰り、玄関で靴を脱ぎ散らかす。かまってる暇はない。早く、早く誰かに会って安心したい。


 テレビを見ている母親を見つけた。


 「かあさん!」


 しかし、俺の言葉に母は反応しなかった。


 「どうして!かあさん!ここだよ!俺はここにいるよ!」


 いくら叫んでも、暴れても、俺の存在に母は気付かなかった。


 俺は結局、その日は部屋の中にひきこもって過ごした。


 次の日も誰も俺に反応を示さなかった。


 次の日も、そもまた次の日も


 僕はそれでも学校に行く。


 「先輩……」


 ある意味、透明人間になったおかげで利点がある。


 あれだけ顔を合わせるのが嫌だった先輩に会うことができるからだ。


 毎日毎日、先輩を見ている。それは俺が一方的に見つめているだけで、彼女は気付いていない。


 そういえば、少年が言っていた神様とやらの悲しみってこういうことなのかなと考えていた。


 「先輩」


 もう一度言ってみる。けれど、先輩は気付かない。


 告白に失敗した時は、消えちゃいたいと思った。どこか遠くに行きたいとも


 けれど、こうして透明人間になった今は、寂しい。


 俺はここにいるのに、誰も俺を見てくれない。


 なんだか、涙が出てきた。


 「……おれ、ずっとこのままなのかな……」


 自然と涙が出てしまう。


 男は涙を人前で流さない物だ、とよくいうけど、今の俺なら別に誰も咎められないだろう。


 「ずっと一人ぼっちは、嫌だよ……」


 「ひとりぼっちじゃ、ないよ」


 ふと、背中に誰かの体温を感じた。


 「ごめんね、ずっとそばにいたんだ」


 少年の声は、一瞬だけ俺に触れて、すぐにその存在感をなくした。 


 誰かに押し出されたらしい。俺は前のめりに転んだ。


 「あいたたた……」


 「大丈夫?」


 後ろを振り返る。誰も、いなかった。


 「あはは、いえいえ、全然平気ですよー!」


 先輩にかっこ悪いところ見せちゃったなあ


 「でも、泣いてるよ?」


 「へ?」


 頬に触れると、涙が、それに、鼻水まで


 「え?あれれ、どうしたのかなー?泣く、ことなんて……」


 なぜか先輩に見つめられてると涙があふれてくる。


 でも、流れてくる涙はさっきの涙とは違う涙だった。




 「……また、会えたね」


 「……こんなおっさんに何の用だ?」


 顔を上げると、少年が立っていた。


 美しい少年だ。肌どころか、髪までもが透き通るように白い。まるで天使のようだ。


 「ねえ、遊ぼうよ」


 「悪いが、私にそんな趣味はない」


 私はくたびれたおっさんだが、こんないたいけな少年を買うような下種ではない。


 ちゃんと場をわきまえて、金の余裕をもって女を買ってる。


 どう見てもこの少年は値が張りそうだ。一度抱いた後に怖いお兄さんが出てきたらと考えると、とてもじゃないが手を出せない。


 「前は僕と遊んでくれたのに、もう遊んでくれないんだ……」


 「……まてまて、私は手を出した覚えはないぞ?」


 「いいから、僕と遊ぼうよ。まずは……」


 それから、私は少年と遊んだ。最初はどんないかがわしいことをするのかと警戒していたが、少年の指す遊びとは子供がする遊びのことだったらしく、大人のする遊びではなかったらしい。


 私としても、このまま家に帰るのは辛いので半ば現実逃避でこの少年と遊ぶことにした。


 「ははっ、楽しいね」


 「……ああ、そうだな」


 具体的に遊ぶといっても、何もない夜の街をただ歩くだけだった。


 この少年はかなり私に気を使っているらしく、私の歩幅に合わせて歩いている。


 「私に気を使ってくれなくてもいいぞ」


 「そんなこと言って、僕のペースで歩いたら怒るくせに」


 たまに、そんな齟齬が起こる。


 私は少年と初対面のはずだが、少年は私と会うのは初めてじゃないらしい。


 ……もしかして、未来からきた俺の子孫だったりして?はは、まさかそんな……


 「未来からきたのか?」


 一応、聞いてみた。


 「違うよ、大ハズレ」


 少年は悲しい顔をして言った。


 他愛のない話をしながら歩いていると、ふと、自分のことを言ってみようと思った。


 どうせ大して親しくない者だ。恥ずかしくない。


 公園に入り、自分用に缶コーヒー、少年には適当にジュースを買い、投げ渡した。


 「うわっ」


 「ナイスキャッチ」


 俺はベンチに座り、コーヒーを一口。少年が隣に座るのを見て、話し始めた。


 「私はね、今日クビになったんだ」


 「そうなんだ……」


 相槌を打っているが、まだ小学生であろう少年に、この辛さは分かるまい。


 「25年務めていた会社でね、まさに青天の霹靂だったよ。リストラになるかもとは思っていたが、まさか私がそうなるとは考えていなかったんだよなあ」


 「悲しいね……」


 「家に帰るのも嫌でね……妻とは高校時代、部活の先輩後輩でね、そりゃあ結婚当初や娘が生まれた時は仲が良かったんだ、けど、今じゃほとんど他の男の家に行ってるよ」


 「娘も昔はお父さんと結婚するーとか言ってたのに、今ではどうしようもない男と今日も外泊さ」


 「どうせ家に誰もいないから、君の誘いに乗ったわけ。はは、笑えるだろ。だから悪いけど私には金がない」


 自嘲気味に笑う。笑わなければやってられない。


 「大丈夫、僕がそばにいるよ」


 気付けば、私の頭は少年の腕に包まれていた。


 ベンチの上に膝立ちになり、私の頭を優しく撫でている。


 いい歳をしたおっさんが、小さな少年に慰められている。


 それは、本来ならどうしようもなく情けなくて、屈辱的だったが……


 私にとって、それはとても心地よいことだった。


 「ねえ、君がよければだけど、僕と一緒に行かないかい?」


 少年がする膝枕に頭を預けて、私はただされるがままに少年に撫でられていた。


 少年の手は、温かい。ついうとうとしてしまう。


 「ああ、いいかもな……」


 半ば夢うつつながらも、その提案に賛成する。


 ……ああ、でも、まだこうしていたいなあ。


 「えへへ、よかったあ。待ったかいがあったよ」


 そうか、待ったかいがあったか、それはよかったなあ


 「これからは、ずっと一緒だからね」


 ああ、ずっと一緒だ……


 俺は多幸感に浸りながら、まぶたを閉じた。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぼくもさらってください(真顔) [一言] 寂しい同士ならば相手の寂しさがわかるかもしれません flowのcallingを思い出しました
[良い点] がんばって書いて偉いと思います [気になる点] 文法の間違い多すぎwww 国語の教科書からやり直した方がいいンゴ ちゃんと推敲しようね♥️ [一言] ……修業しなおせばよいのでは?
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