063話 『誘う亡霊の声』
鈴架がピンチです。
「…最近の首尾はどうなっていますか?」
「…問題、ない…ひぇひぇひぇ…」
氷月は暗闇のなか、闇に潜むなにかに向かって話し掛けていた。それに対して謎の闇に潜むものは不気味な薄笑いをしながら返した。
「頼みましたよ。しかしもしもの不手際がありましたら…わかっていますね?」
「…わかっている…この『魂狩り』の『イビル』に任せていただこうか…ひひひ…、もっとも今は『氷の囚人』だかな…」
氷の囚人、とは氷月の『禁呪法・凍氷魂縛り』により体・魂を氷にされ氷月の体の一部にされてしまった者を示す言葉である。
つまりイビルは過去に氷月に殺された、あるいは死体をただ吸収されてしまったのであろう…。
「ふっ…しっかりとやってもらえればあなたを解放いたしますよ」
「その言葉…信じても、いいんだな…?」
「えぇ…ちゃんとしていただければ、ですがね…?」
「…わかった。任された依頼…継続してくる…ひひひ…」
イビルは闇の中その言葉を残し気配を消した。
「(さて…うまくいくものか? 見物ですね…くくくっ!)」
◆◇―――――――――◇◆
7/16(金)
突如なにかに怯え気絶してしまった鈴架を運ぶためにその場にいた全員は辰宮家に向かい、鈴架をリビングのソファーに寝かせて話を展開していた。
「…それで、翔くん。鈴架は…どうして突然気絶してしまったの?」
「わかんねぇ…だが倒れる少し前にうわ言のように『誰…?』や『誰の声?』とか呟いていたぜ…」
「声…?」
「とにかく…今のところは鈴架はただ眠っているだけだから大丈夫だろう…真紅、なにかあったらすぐに連絡をしてくれ」
「わかりました」
「俺は鈴架が起きるまで残ってるぜ…?」
「…僕もです。少し気になることがありますから」
翔と海斗は残るという。
それで秦は、
「……、そうか。わかった。では先に帰ろう瑪瑙、クリスくん」
「はいです」
「はい。真紅さん、鈴架ちゃんによろしくお願いしますね」
「えぇ」
そうして三人は先に帰っていった。
「…なぁ、海斗? その気になることってなんだ?」
「いえ、少し前からなんですが鈴架さんになにかよからぬ気が付きまとっていたんですよ。それで標的を一人ずつ絞って消していく作戦だと僕は思い常に警戒していたんです」
「えっ!?」
「な、なんでいわなかったんだよ!?」
海斗の思わぬ告白に真紅と翔は驚く。
「何度も言おうとはしたんですが…妙な違和感があり言わなかった、いえ…言えなかったんです」
「どうして…?」
「それが…妙なんです。
人間、いや万物すべてにおいて必ず陰と陽の相反する心があると言われています。
たとえば善い行いをしている人の気は陰の気は小さく陽の気が大きいんです。逆にいいますと悪い行いをしている人の気は陽の気が小さく陰の気が大きい…」
「陰と陽…」
「聞いてると頭がいたくなってくるぜ…」
翔はそれで頭をガシガシと掻く。
「後、特例として陰と陽のどちらかしか持ち合わせていない者も存在しますね。
今現在僕達が知っている人物で表すならば氷月や闇の王が当てはまります。彼らには陽の気が一切ありませんからね」
「あ、それならなんとなくわかるぜ!」
簡単な事であったので今度は翔はすぐにわかった。
「それじゃその鈴架に付きまとっている持ち主の気はどちらなの?」
「そこが重要なんですよ。その人物の気は先程話したように陰と陽の片方しかありません…ですが、定期的に入れ替わるんです。陰から陽へ、陽から陰へと」
「あー…なんだ? つまりある時は完全無欠の悪い奴でまたある時はまったくの善人ってことか…?」
「まぁ大体そうでしょう。だから妙なんです」
「不思議ね…でも、じゃ今日鈴架が感じ取ったのは悪い陰の心の持ち主だったからかしら?」
「きっとそうでしょう」
「でもよぉ…なんならさっさととっ捕まえて聞き出せばいいんじゃねぇか?」
「出来るものならとうの昔にやっていました。今までも真紅さん達に近寄る陰の気の奴らはすべてそうしてきましたから。特に影達をですが」
「え…? それじゃ最近あんまり影を見なかったのは海斗くんがやってくれていたからなの…?」
「えぇ、そうです」
しれっと海斗は答えるがそれだけで真紅は嬉しい半面気づいてあげられなかったことで申し訳ない気持ちになっていた。
「そうなの…ごめんね、気付かなくて」
「いいですよ。それが僕の役目ですから」
「海斗くん…うん、ありがと」
「…で? それじゃなんでできねぇんだ?」
「…僕も信じたくはないんですがその人物には実体、つまり身体というものがないんです」
「体が…!?」
「ないだって!?」
その話題で二人はまた驚いていた。
「…えぇ。つまり典型的に言いますと幽霊、霊魂、悪霊といったこの世ならざる者達のことです」
それを聞いた二人は背筋が寒くなったのを感じた。
「だから正確な位置も特定が出来ませんし術も効果がありません。
そもそも見えない相手にどう戦えかなんて…、不可能です。
そして…その影響でしょうか? 今、鈴架さんの体は少しずつ生気が抜けて衰弱しつつあります…」
「そんな…鈴架…」
「くっ…」
話が終わると言いようの知れない不安からありえないといっていいほどの沈黙が訪れた…
…それから少し時間が経過した時、再び海斗が言葉を発した。
「…ですが一つ、打つ手はあります!」
「えっ…それってなんなの!?」
「それで鈴架が助かるんなら話にのるぜ!」
「僕の知り合い…いえ皆さんの知り合いの中にこういった事を専門にしている人がいますよね…?」
「それってまさか…!?」
「そう…奈義久刻さんです」
「奈義会長が…!」
「はい。彼は式神使いだけが能力ではありません。
式神を使役するにはそれ相応の霊能力が必要になります。
久刻さんは以前、掃除屋としての仕事がない時はいつもお祓いといった依頼も受けていましたからね」
「なるほどな…会長さんならなんとかなるかもだぜ! ならさっそく会長さんの家にいこうぜ!」
「わかりました。…ですが、連絡はしてみたんですが久刻さん…電話には出なかったんですよ。もしかしたらいないかもしれませんがいきますか…?」
「えぇ!? 鈴架の体が衰弱してきているっていうんならもうそんな猶予はないわ! だからいきましょう!」
「おう!」
「…そうですね! ではこんな時間に悪いですが皆さんを集めましょう!」
「はい!」
「わかったぜ!」
そして三人は再びみんなを集めた。今度は衛巳と楓も一緒だ。
翔はなにかしら責任を感じてか自ら鈴架を背中におぶり久刻の家へと向かった。
◆◇―――――――――◇◆
「これで全員ね?」
「いや、まだガリウスさんが来ていないようだ」
「秦兄さん、ガリウスさんはちょっとしたら来るといっていました」
「そうか…、で鈴架は大丈夫なのか?」
「衰弱はしてはいますがまだ大きな変動はないようですわ」
するとそこにガリウスと一緒に知っている人物が共に現れた。
「みなさん、遅れてすみません」
「や! 秦くんにみんな!」
一緒にいたその人物は速水雫だった。もちろん輝羽も一緒にいた。
「!? 速水先輩!? どうしてここに…?」
「これを見れば納得すると思うわよ?」
そういうと雫は『絶氷の宝玉』を一同に見せた。
「それは…!」
「そう…彼女も十二支、氷牙さんの生まれ変わりよ」
「やっと話してくれる気になったんですね、雫さん」
「えぇ。鈴架に危険が迫っているっていうからいてもたってもいられなくて…」
「それじゃ輝羽さんとももう気兼ねなく話せるですね!」
「はい」
「…え? スピネスくんが喋ってる…」
「今まで隠していてごめんね真紅…改めて紹介するわね。この人はあたしのパートナーの狼の精霊の輝羽さんよ」
「輝羽です。よろしくお願いします、皆さん」
「そしてあたしこと速水雫、海斗くんと同じ掃除屋の一人、『神速の氷笑』よ」
『!!』
「でぇー!? 雫さんが!?」
翔が全員の気持ちを代弁するかのように大声を上げる。
「ええ」
「でも…それじゃ今までなんで言ってくれなかったんですか…?」
「………」
雫は一瞬涼しい顔をした後、
「あたしがこんな仕事をしているなんて…知られたくなかったからよ」
「雫さん…」
「…ですがそれには理由があったのでしょう?」
「そうね…理由はやっぱり家柄かな? 我が家はあんなだからちょくちょく組織に狙われることがあるのよ。
それで一度縁が誘拐されてしまったことがあって、あたしはその時自分の無力さを思い知ったわ。
だからあたしは縁を、我が家を守るためにお父様などには内緒で血の滲むような特訓をして縁を狙う悪党を捕まえるためにこの仕事についたのよ」
「…そんなことが、あったのですね…」
「それに氷月と一度戦って踏ん切りがついたからね! ね! 輝羽さん!」
「はい! わたくしはあなたの剣です。だからどこまでもついていきます!」
「ん!…それで鈴架の体はまだ大丈夫なの?」
「それが…」
真紅が答えようとした時だった。
「非常に危険な状態だな」
『!』
一同が声がしたほうを振り向くと久刻が立っていた。
「奈義会長!」
「よく来てくれましたね皆さん…状況は理解している。さぁ家の中に入ってください」
『………』
それで一同は家の中へと入っていった。
――to be continued.
次回、お祓いです。




