062話 『夏の始まり…それぞれの日常(後編)』
後編になります。
そして帰り道、テスト期間も近いため部活はなく真紅達は一緒に帰っていた。
その折、翔は苦しんでいた。
「ぐぐぅ…夏休みの前に期末テストが残ってんのをすっかり忘れてたぜ!」
「嘘ッ!? じゃもしかして勉強は一切手につけていないの!?」
鈴架が信じられないという表情になる。
「…あぁ、そうだよ」
「じゃ翔って普段から成績悪いからもしかしたら補習になっちゃうかもね?」
「ぐあっ! 痛いとこ、ついてくるじゃねぇか鈴架!」
「本当のことでしょ~?」
「くっ…! どうする!? テスト範囲なんざ一切勉強してねーしよ…」
「それならみんなで勉強会なんてどうかしら?」
突然真紅はそんなことを言いだした。
「勉強会ですか? いいですね」
「はい。実はわたくしも少し心配なところがありましたので…」
真面目組の真紅の発言に海斗とクリスが反応する。
「クリスさんにも苦手な科目ってあるんですか?」
「はい。少し古典ができなくて…」
「古典ですか。でしたら僕がわからないところ教えますよ。これでも小さい頃はかなりの量の書物を読みあさっていましたから」
「まぁ、助かります! 海斗さん」
「よかったわね、クリス」
「はい」
「…しかしぶっちゃけここにいるメンバー、後ここには今いないが秦兄、瑪瑙と…全員学校では俺以外成績がトップクラスの集まりだよなぁ…?…なんつぅか俺あんまり立場ねぇよな?」
そういうと翔はぐったりと肩をおろした。
「翔くん、大丈夫よ! 私たちがみっちりと試験の対策のお手伝いをしてあげるから! ね? みんな!」
「…まったく世話が焼けるんだから。でも了解だよお姉ちゃん」
「はい。英語などは任せてください!」
「僕もいいですよ」
「真紅、みんな…」
翔はがらにもなく感動の顔をしていた、が…
「ただし! ね?」
「あ…?」
真紅が翔に近寄りにっこりと笑顔を浮かべると他の面々もなんのことかわかったらしく、
「あ、そうだね! お姉ちゃん!」
「なるほど…それならより一層真剣に勉強ができますね」
「さすがですわね! 真紅さん!」
「な、なんだよ!? おい真紅!」
翔以外がなにか分かったのかそれぞれ反応を返す。
「だから…私たちがこの一週間翔くんに対策を教えたにもかかわらず一つでも赤点をとっちゃったら罰ゲーム…受けてもらうの」
「はぁ!? なんでだ!?」
「これも翔くんのためなの…私だってこんなことしたくないわ。でも今から赤点を何個もとってもし進級できなかったら翔くん…可哀相だから、ね?」
「くうぅ…確かにそれだけは避けてぇが…だかなぁ?」
「罰ゲームのこと~? 翔ぅ…?」
「大丈夫ですよ翔くん。ようは赤点をとらなければいいだけのことですから」
「気楽にいうなよな…?」
一同はそんな他愛もない話をしながら帰り道を歩いていった。
◆◇―――――――――◇◆
一方、真紅達と行動をともにしていなかった秦と瑪瑙はどうしているのかというと、いつものごとく縁に会いに速水邸に向かっていた。
「…秦様」
「ん? なんだ瑪瑙?」
「前にご主人さまに言われたこと、覚えていますですか?」
「無幻慈殿にか…? そうだな…居合いの事だろう?」
「はいです」
「やはりか…むっ!」
シュアッ!
そう言い返すと秦は衝覇武神刀の『鞘』を宝玉から出現させた。
カシッ…
「居合い…無幻慈殿のおかげでやり方は理解しているつもりだがまだ俺には鍛練が必要だと思う。たとえ出せたとしても完璧でなければ威力は完全に引き出せないからな…」
「はいです。ですから今後の鍛練に居合いの修業も盛り込みたいと思いますです!」
「あぁ、わかった」
そして二人が話が終わる頃には速水邸の門の前に着いていた。
秦は門にある呼び鈴のブザーを鳴らした。
するとインターフォンからリアの声が聞こえてきたため秦はすぐに受け答えをして用件と話が済むと門が開きリアがお出迎えしてきてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、雲隠様、影紫様。さぁどうぞお入りください」
「いつもすみませんリアさん」
「はいです」
「いえ、これが私めの役目ですからお気になさらないでください。それより縁お嬢様がお待ちです」
「き…、スピネスくんは今どこにいるですか?」
「それでしたらいつものところにいると思われます」
「わかりましたです。では秦さま、また帰りに声をかけてくださいです」
「あぁ」
そして瑪瑙はスピネス(輝羽)がいるだろう場所に向かっていった。
ここで一つ、なぜ瑪瑙はいつもこの時だけは秦のそばから離れるのかというと、瑪瑙と輝羽はお互いに近況の情報を交換し合っているからだ。
ちなみに秦と雫、二人ともこの事に関しては聞いていないらしい。
―――速水邸、縁の部屋。
そこには早朝前に帰ってきていた雫が縁とともに部屋にいた。
「秦くん来たみたいね?」
「…うん…でも雫お姉さま…?」
「ん?なに縁…?」
「どうして…私、秦様のことだけ、…予知できないのかな…?」
「…それはあたしにはわからないわ。でもいづれその理由がわかる時が来るわ。だから今は気にしないようにしましょ! ね?」
「…うん」
コンコンッ!
そこで扉が誰かによってノックされた。
「リア?」
「はい、雫お嬢様。雲隠様をお連れしました」
「わかったわ。ありがと、それじゃ入ってもらって」
「わかりました。さ、雲隠様」
「あ、はい」
「いらっしゃい秦くん」
「ようこそいらっしゃいました…秦さま…」
「お邪魔します速水先輩、それに縁」
「それでは私は仕事に戻ります」
「わかったわ」
「それでは失礼いたします」
そうしてリアはいつも通り部屋を出ていった。
「…でも秦くん?」
「なんですか? 速水先輩?」
「あたしの記憶が間違ってなきゃ確かもう少しで学園では期末テストがあるはずなんじゃないかしら? ここに来ていて大丈夫なの…?」
「あぁ…そのことですか。確かにそうですが、その分勉強すれば大丈夫ですよ」
「…秦さま、私…迷惑…かけてますか…?」
縁が不安そうな表情になる。
それに対して秦は、
「そんなことはないさ、縁。それに俺は縁の顔が見れるだけで今日も元気でよかったと安心できるんだ。だから気にしないでいい」
「し、秦さま…はい」
縁は一気に顔を赤くした。なにせ秦は真面目な顔で平気でこのような恥ずかしい台詞を言うのだから相乗作用が起こり効果は絶大だからだ。
「(相変わらずくさい台詞をさらっと言うのね、秦くんは…でも裏表がない素直な気持ちだからなにより縁はうれしいのよね。…少しからかっちゃおうかな)」
雫がそんな事を考え出す。
「はぁ~…妬けちゃうなぁ。あたしも秦くんのことを好きになっちゃおうかな?」
「「!!」」
それに秦と縁が一気に目を見開く。
「し、雫お姉さま!!」
「じょ、冗談よ縁…だから落ち着いてね?」
雫は縁の普段出さない大きな声に圧倒されて一瞬で遊び心をかき消されてしまった…。
「…雫お姉さま…そんな冗談…嫌い…」
「ごめん! ごめんね縁! もうこんなこと言わないから許して…」
「本当…?」
「うんうん!」
「縁…これだけ言っているのだから速水先輩をもう許してやろう」
「はい…秦さまが…そう仰られるなら…」
「ありがと秦くん…」
「いえ…ですが自分もかなり驚きましたので今後は…」
「わ、わかってるわ。…あ、それより秦くん!」
「あ、はい。なんですか?」
「縁、あの話をするんでしょう?」
「…え?…あ、うん…」
「?」
「あの…秦さま…」
「な、なんだ縁…?」
秦は突然いつも以上にしおらしく話をし始めた縁にたいして少ながらず動揺をしていた。
「あの…その…夏休みに…、なられましたら…真紅さんや…鈴架さん…、それに他のみなさん、と…旅行にいきませんで…、しょうか…?」
「旅行…?」
「そう! 旅行よ! 実はもう行き先は決まっているのよね! なんとうちの別荘でね、海が間近に見えて観光客も来ない完全貸し切りスペースなのよ!」
「い、いやしかし…自分達がついていってもいいんですか?」
「もうわかってないな、秦くんは? 縁!」
「は、はい…その…お恥ずかしいのですが…最初は秦さまと一日一緒にいられたらと…、思ったから…」
「え、縁…」
「思った、ら…はぅう…」
縁はもう秦と顔を合わすこともできず雫の胸に顔を埋めていた…
「よしよし頑張ったわね縁…、さて…あたしの可愛い妹の頼みでもまだ反論するのかしら? 秦くん…?」
「!?」
突如秦は雫のあまりの冷たく且つ美しい眼差しに見つめられ秦曰く『大蛇に睨まれるとはまさにこのことか?』という思いを膨らませ同時に体が固まってしまった…
…そして、
「い、行かせていただきます…」
「うん、それでよしよ!」
秦はあっさりと落ちた…いや、落ちざるえなかった…
「それで日時のことなんだけれど…みんな大会やら合宿やら予定がまばらでしょ? だからみんなの都合が合う日でいいわ! 期限は夏休みの間全部でいいからね!」
「わかりました。みんなに伝えときますよ」
「秦さま…行ける日を…楽しみに、しています…」
「あぁ、わかったよ縁」
そういって秦は縁の頭を撫でてやった。…だがそれが思わぬ引き金となってしまった。
「ふぁっ…秦さま…」
「ん? はっ!? お、俺は今…」
「秦くん…まさか無意識でやったのかしら?」
「そ、それは…!」
「………」
縁は無言で真っ赤になっていた。
「いい加減白状しなさい! お姉さんは許すから!」
「な、なにをですか!?」
バタンッ!
『!?』
一同が騒いでいる中、突如扉が開かれメイが入ってきた。
「し、雫様! お飲物をお持ちしました…」
「あ、ありがとメイ…でもなんでそんなに息が荒いのかしら…? また走ってきたの…?」
「い、いえ…そんなことは…はぁ、はぁ…ないですよぉ?(ついつい縁様が可愛すぎて興奮していたなんて言えませんですぅ…)」
そんなことを考えているメイのふところのポケットの中にはデジカメが収納されているということはあえて伏せておこう…
そしてそんなことは気にせずメイが加わったことによりさらに騒ぎはヒートアップしていき納まるまでかなりの時間を有した…
…そして帰り、
「…どうしましたですか? 秦さま?」
「なにがだ…?」
秦は見て分かるかぎりぐったりしている。
「ごっめんね秦くん! ついまた調子に乗っちゃったわ」
「もう…そのことはいいですよ。それより失礼しますね速水先輩、縁」
「また来ますです!」
「えぇ」
「秦さま…また、頭…撫でてください、ね…」
縁はそういって優しく手を振っていた。
「あ、あぁ…」
そして秦達は家の門の前で別れ家へと帰った。
それから二人は真っ直ぐに家へと帰路した。だが秦は帰る間はほぼうわの空に近い状態だった。
「(いかんいかん! ぼうっとしていては勘が鈍ってしまう…! 普段どおり行かなければな)」
冷静を取り戻し家へと入った秦はなぜか驚いていた。普段より靴が多いからだ。
「なんだ? 真紅達が来ているのか…?」
「こんな遅いのになんででしょう?」
「さぁな…?」
そうして居間まで足を伸ばすとなんと翔がみんなとともに勉強していた。
「翔が…勉強をしているのか?」
「…なんだよ秦兄? その顔は…?」
「いや、正直に驚いただけだ。いつもおまえはテスト前日に勉強をしていたからな…」
「やっぱりだったんですか。はぁ~…」
鈴架がそれを聞いてため息をつく。
「べ、別にいいだろう? 一夜漬けでも勉強はしてんだからよ!」
「しかしどうしたんだ? その気の変わりようは…?」
「秦先輩。実はこういうことがありまして…」
海斗は秦に帰りの話を伝えた。
「…なるほどな。それなら確かに赤点はとれないな」
「秦兄もあっさり納得しないでくれ…命にかかわる問題なんだからよ」
「まぁそうあせるな。一夜漬けとは違い十分勉強する時間があるのだからな。
…む、そうだな。ちょうどみんないることだし伝えておくとするか。翔にもさらにいい薬になるだろうしな」
「どうなされたのですか?」
「いやな話ならもういいぜ?」
「いや、その逆だ。な、瑪瑙?」
「はいです!」
「何かいいことがあったんですか、秦さん?」
「なに…ただ速水先輩と縁に今日、夏休みになったら皆を海がすぐ間近にある所有の別荘に招待するという話を持ち出されてな」
「うぇ!? マジか秦兄!」
翔がそれに大きく反応する。
「嘘をいってどうするんだ…? それと先輩達はみなの都合が合う日ならいつでもいいと言っていた。この意味が…翔、わかるな…?」
「………」
翔は黙り込んでいた。代わりと言わんばかりに腕が震えていて目はまさに熱血のかぎりを示していた。
「…翔?」
「翔くん…?」
「翔兄さん…?」
みなが黙り込んでいる翔を心配してか話し掛けると翔はゆっくりと口を開いた。
「……やるぜ。俺は期末なんざ楽勝にクリアしてやるぜ!! 海にいくためにな!!」
「ふっ…やはりな」
「翔ってば海だけにはめがなかったからね」
「おぅよ! なんせ海は修行と遊びがどちらもできて一石二鳥だからな!」
「確かに…」
「だからな、皆早めにこれからの予定を立てといてくれ。大会、合宿などやることがあるだろうからな」
『わかりました』
それで全員は返事を返す。
「では話も済んだことで…翔、覚悟はできているだろうな?」
「おう! 男に二言はないぜ! だから勉強頼むぜ秦兄!」
「うむ、範囲を隅々まで徹底的に刻み込んでやるからな」
「…秦さまがいうと迫力がありますです」
「はい…」
◆◇―――――――――◇◆
…そして、それから一同は試験勉強(翔は特に)に力を入れ、期末試験の二日間はあっという間に過ぎ去り…14日、15日にすべての試験の結果が帰ってきて、一学期最終日の16日に通知表が配られた。
7/16(金)
帰り道のことに、
「よっしゃあぁっ!!」
開口一発目から翔が大声をあげ叫んだ。
「やったわね翔くん!」
「すごいですわ!」
「おうよ!」
翔がこんなに喜んでいる理由はテストの結果と通知表の内容が今までとは比較にならないほどランクアップしていたからだ。当然赤点、補習なんてものはない。
「ま、翔にしては中々よかったんだと思うわよ?」
「言ってろ。今の俺には誉め言葉にしか聞こえないからな!」
「…しっかり誉めているつもりなんだけどな…」
鈴架は小声で呟いた。
「ん…? なにかいったか鈴架?」
「なんでもないわよ!」
バシッ!
「いってぇ! なにしやがる!?」
「もう知らないから…」
そういい鈴架は先を歩いていってしまった。
「なんだ? 張り合いねぇな…」
「…翔くん、謝りに言ったほうがいいんじゃないですか?」
「なんで…?」
「そうだな。なんだかんだで鈴架が一番おまえの勉強を見てやっていたからな」
「そうよね…それにさっきの鈴架の言葉、あれは決して皮肉じゃないと思うわ」
「そうですわ。今ならまだ間に合います翔さん。鈴架ちゃんにお礼の意味も込めて謝罪をしにいっていただけませんか?」
「………」
一同にそう言われて翔は少し黙っていたが、
「…わかったよ。確かに俺の比は認めるし感謝もしているからな。ちょっくら追い掛けてくるわ」
「ありがと翔くん」
それで先に歩いて行った鈴架はというと、
「(…もう、なによ! 翔のバカバカッ!…、でも私も素直に誉めてあげなかったのが…悪いんだもんね…はぁ~…)」
鈴架がため息をついていると後ろから翔の声が聞こえてきた。
「…翔?」
「あ、鈴架…さっきはすまなかったな。おまえには一番感謝しなけりゃいけねえのに…」
「翔…、いいわよ。そんなこと気にしてないか――……」
「……(…鈴架…)」
「…、ら…? え、…なに…? 誰…!?」
突如鈴架の頭に直に何者かの声が響いてきた。
「?…鈴架…?」
「い、いや…この、声…誰なの…!?」
「おい鈴架!」
「耳が…頭が、痛い…!!」
翔の声が聞こえていないのか鈴架は両手で頭を抱えてそのまま倒れこんで気絶してしまった。
「お、おい! 鈴架! しっかりしろ!! おい!!」
翔は必死に鈴架に呼びかけていた。
そしてどこかの謎の場所では、
「くくくっ…いい光景だな…」
謎の黒い影は鈴架の姿を見て密かに闇で笑うのだった…。
――to be continued.
最後に謎の影が出てきました。




