059話 『神速の氷笑、覚醒の時…だが…』
雫がようやく覚醒+αします。
地下、排水トンネルで輝羽がやられてそれを笑みを浮かべながら眺めている氷月だったが、
「…ん? この気は…!」
次の瞬間、雫の前に青い玉が出現し、雫と輝羽を包み込んだ。
そして精神世界へと誘われて、
『これは…もしかして…』
『…そうよ。雫…ここはあなたの心の世界よ…。私は…氷牙…』
『氷牙さん…』
『…あなたには私と同じ悲しみを味わってほしくない…だから、輝羽さんを助けます…』
ボゥッ…
すると輝羽が現れた…。
『すみません氷牙さん…お助けするどころかまた助けられてしまって…』
『…いいのよ輝羽さん。でも、輝羽さんの体は…』
『…はい。この世界が消えたらわたくしは光となって消えてしまうでしょう…』
『そんな! 氷牙さん、どうにかならないんですか!?』
『…一つだけ方法があるわ。それは…』
『わたくしが氷牙さん、いや雫さんの【蒼鋼脚】に融合することです』
『…そう。そうすれば輝羽さんは武器として、またもとの姿としても生きることができるわ…でも…いいの? 輝羽さん…』
『覚悟は決まっています! わたくしは一生…いや何度でも氷牙さん達を守っていきますよ!』
『『…ありがとう輝羽さん…』』
と、同時に二人は言葉がはもりお互いに笑った。
『…ふふっ。…それじゃ後は頼むわね。いざという時には助けるから…』
『えぇ!』
『…輝羽さん? 雫を頼むね?』
『任せてください!』
『それじゃ、また…』
そして意識は現実に戻り、光が晴れて…
「…やっと戻ってきましたか?」
「………」
そこには雫だけが立ち尽くしていた。
「…おや? 輝羽は死にましたか…呆気ないものでしたね」
「…いえ、輝羽さんは死んでいないわ!」
「なに…?」
「いくわよ、輝羽さん!」
『(はい、雫さん!)』
すると大気が雫のまわりに集まりだした…!
「なんだ…?」
「いくわ!! 精霊・輝羽の契約者、『速水 雫』が命ずる! 早々たるその姿を変化させ我が武器、『蒼鋼脚』に宿りて力を解放せよ! 神速武装! “蒼輝鋼舞脚”!!」
カッ!
次の瞬間、雫の両足に輝羽の魂が刻まれ『蒼鋼脚』が生まれ変わった姿、『蒼輝鋼舞脚』へと姿を変えた。
「はっ!」
そして雫は蒼輝鋼舞脚を装備し、新たに構えを取った。
「…やれやれ、わたくしもどうやらまだまだ詰めが甘いようですね。覚醒するだけならまだしも更に相手を強くしてしまう間を与えてしまうとは…」
「な、なんだ奴は!? 氷獅子! 早く奴を倒すんだ!! 報酬はいくらでも出す! だから…」
ズシャッ!
「グヴェ…!?」
「あっ!!」
なんと壕蔵は氷月により服にしがみついていた腕を切り落とされていた…!
「…いちいちうるさいですね。ただの傲慢で意地汚い人間ごときがわたくしに何度も同じことをほざかないでください…?」
「ま、待て! 金なら、金ならいくらでも出す! だから殺さないでくれ!!」
「……、ほんとうにうるさい御方ですね。あなたの声を聞いていると苛立ちを越えて怒りすらも感じる…もういい、死になさい!」
「ひぃっ! や、やめウブァ…!!」
「ひっ!」
壕蔵は最後の言葉を言い切る前に氷月により首をかっきられ首と胴体の接続部からすごい量の血が吹き出しそのまま下水の底に沈んだ。
「ひどい…あなたは本当に人間…はっ!」
『そうです雫さん! こいつは人間でも、ましてや精霊ですらない悪魔です!』
「いい誉め言葉をどうもありがとうございます…くくくっ…」
「っ! 許せないわ! 行きましょう輝羽さん!」
『はい!!』
ダッ!
ザザザザザッ!
雫は目にも止まらぬスピードで氷月に蹴りを放った!
もともと『神速の氷笑』と呼ばれるだけあって足の速さは尋常ではない。
前に一度鈴架のリュックを持ち去っていったバイクに乗った男にも簡単に追い付いたこともあり、自己記録では高速道を通る車さえも追い越せるかもしれないスピードとスタミナを持っている。
さらにビルからビルへと飛び移るという跳躍力も持っており人間としてはすごい領域に達している雫だ。
“その彼女”が生前の氷牙の力さえも手に入れて武器も生まれ変わってしまったとなればとんでもない!
何故かは知らないが力の激減した氷月にはもはや雫の姿は見えているのだろうか…?
「くっ…ぐっ!(なんだ奴の動きは!? 氷牙のものとは比べものにならないスピードを出していますね!)」
「はっ!」
ガンッ!
「ぐぅっ!」
「まだまだよ!」
『雫さん!』
「えぇ、氷牙疾風脚!」
ズガズガズガズガッ!
「その技はお見通しですよ! はぁっ!」
ガキンッ!
氷月は雫の氷牙疾風脚を放ってくる位置を正確に剣で弾いて打ち返した。
そして間を取る二人。
「(輝羽さん、奴はこの技を知っているの?)」
『(えぇ、奴は過去に何度もその技でやられていますからね…)』
「…そう。なら、連続攻撃で蹴散らすわよ!」
『はい!』
「切り裂け! 蹴氷閃!!」
雫が足を体を後ろまで捻って思い切り回転させながら振った瞬間、氷の刄が飛び出し氷月を襲った。
「こんなもの! はぁっ!」
ガキンッ!
氷月は氷の刄を砕いたと同時に目前をみた。すると雫の姿がなくなっていた。そして気付いた時には氷月の真下に入り込んで、
「氷昇蹴!!」
ズガァッ!
氷を足に纏って顎に食い込むように下段からの垂直蹴りをかまし氷月はそのまま空中へと飛んだ。
そして雫はさらに氷月より上に跳躍し地面に向けて必殺の一撃をたたき込んだ。
「雪月華!!」
ズンッ!
「…!!」
シュウゥ…ズガンッ!
カッ!
氷月が地面に落ちた瞬間、そこらの水蒸気が固まり氷の花となってそのまま閉じ込めた。
そしてまだ上にいる雫は空中に一時的な氷の足場を作りそれを踏んでもう一度空に飛ぶと地面で凍っている氷月に最後の一撃を放った。
「これで粉々に砕けなさい! 氷・蹴・壊!!」
ズドン!ズガガガ!バキィンッ!!
「ぐああぁぁあっ!!」
そして氷月は粉々に砕け散った。
「やったわ!」
『さぁ今のうちに緑の欠片を!』
「えぇ!」
雫は少し気が引けながらも死んだ壕蔵からクリスタルを取った。
「それじゃ…この人はもうどうしようもないから早く行きましょう!」
『はい!』
その時、
「させませんよ!」
ズワッ!
「えっ!?」
『なに!?』
突如腕が伸びてきて雫のクリスタルを持っている腕を叩き、その拍子にクリスタルは地面に転がった。
「あ、しまった!」
そしてもう片方の手が伸びてきてクリスタルを掴まれてしまった。
「ふふふっ…取りましたよ!」
『再生が速い…!』
「さて…目的のものは手に入りました。わたくしはこれで失礼させてもらいますよ!」
そして氷月は消えようとした瞬間、
「…それは、渡さん!!」
ズバッ!
『!?』
三人が気付いたときには氷月の腕は切られ地面に落ちクリスタルは切ったものの手に握られていた。
「貴様は…!漆黒の風!!」
「…また虚数空間に飛ばされたくなければ去れ…」
「くっ…またあそこに飛ばされるわけにはいきませんね!…わかりました。今はそれは預けておきますよ…いずれは!」
シュンッ!
氷月は捨て台詞を吐きながら姿を消した。
「…お前らも早くここを去るんだ」
「………」
『あなたは…誰、なんですか?』
「…漆黒の風だ。それ以外は知らん。ではな…」
シュンッ!
漆黒の風も姿を消した。
『(あなたは…いったい?)』
輝羽はそう心の中で呟くのだった。
「…で…でも助かったわね。」
『えぇ…』
「…ところで、輝羽さんはもとに戻れるのかしら?」
『はい。実質わたくしの本体は蒼輝鋼舞脚ですから…いうところ瑪瑙さんと同じ存在になっただけです』
「え?あ、あぁ! 瑪瑙ちゃんね」
『はい。では戻ります』
輝羽は蒼輝鋼舞脚からもとの狼の姿に戻った。
「それより今はニーグさんが心配です。早く戻りましょう」
「えぇ」
二人はニーグが戦っていただろう場所へと向かった。
そして、
「ここね…?」
「はい。ですが…」
「あ!? あ、ぁぁ…そんな! ニーグさん!!」
「!?」
雫と輝羽が向いた方には確かにニーグの姿は確認がとれた。
だが妙に違和感があった…ニーグの体が地面の上に浮いていた。
よく目を懲らしてみるとニーグの下には黒い十体の影がニーグに武器を突き刺していたのだ。
「あ、あいつらは…!そんな馬鹿なことが!」
「…奴は奮闘した。だから敬意を評して我の力を見せてやった」
声がする方に向くとそこには滅が立っていた。
「どういうことです! 奴らは…十字暗殺部隊は完全に消滅したはずです!!」
なんとニーグを突き刺しているのはかつて倒されたはずの十字暗殺部隊だった…。
「…あぁ、肉体は、な。だが魂までは、そして武器は消滅を免れた…それがあれだ」
パチンッ!
ズドンッ…
滅が指を鳴らすと十体の影は姿を消しニーグはそのまま力なく地面に落ちた。
「…しかしお前達がここにいるということは任務は失敗のようだな。ならば我ももう去る…さらばだ」
滅が消えた瞬間、雫と輝羽はニーグのもとへと走った。
「「ニーグさん!!」」
「………」
だがニーグはもうすでに絶命して静かに目をつぶっていた…
「そんな…そんなことって!」
「ニーグさん…。くっ…!」
◆◇―――――――――◇◆
…その後、雫と輝羽は海斗・久刻・睦月を呼びニーグを丁重に埋葬してあげた…。
「……」
「雫さん…」
「…えぇ。わかっているわ、輝羽さん! ニーグさん…かならず、必ずかたきは取ります!」
「だから静かにお眠りください…ニーグおじさん。うっぐ…」
「いつか必ずこの戦いは終わらす…その時にはまた会いに来ますよ」
「……(また犠牲者が…ニーグさん…)…安らかに…」
そして五人はニーグに永遠の別れを告げ、その場を静かに立ち去った…。
――to be continued.
ニーグが死んでしまいました。




