040話 『募る恐怖心』
真紅がさらにひどくなります。
5/24(月)
恒例の昼休みの中庭で、
「それでその後、どうしたんですか? 秦先輩?」
「どうと言われてもな…目を覚ましたら自分の部屋だったのでな…」
鈴架が秦に話しかけていた。
…どうやら一同は昨日の事を昼食後に話し合っているようだ。
「雫さんの話によると縁と秦兄は同時に呼び方を変えて呼びあった瞬間、速攻で同時にぶっ倒れちまったって話だぜ?」
「なっ!? 翔、どうしてそれを知っている!?…というよりいつの間にお前も縁を呼び捨てにするようになった!?」
秦が少し怒るが翔はしれっとした顔で、
「なんでって…そりゃ秦兄を取りに…もとい迎えに行った時に直接雫さん本人から聞いたんだよ。それと先に起きていた縁が呼び捨てでいいと言ったから俺はそれに従ったまでだぜ?」
「そ、そうか…それで縁は何か言っていたか?」
「そうだな…伝言なら聞いてるぜ? なんでも…、
『…お返事はいつでも…、構いません。…ですが私は…、…いつまでも秦様の事をお慕いして…、います…』
…ってな。聞いてて俺には関係ねぇ事なのについつい照れちまったぜ?」
「そ、そうか…」
「縁ちゃん…一途だね」
秦は翔からの縁の伝言を聞いて顔を赤くしていて鈴架が縁の一途さを褒めていた。
「大丈夫ですか、秦先輩? お顔が真っ赤ですわよ?」
「だ、大丈夫だ…それよりもうこの話題から離れてくれないか? 調子が狂って仕方がない…」
「そうですかぁ…」
「でも秦様、今朝の鍛練の時はそんな素振りはしていませんでしたです?」
「あぁ、たとえなにがあろうと鍛練中だけはきっちり気持ちを入れ替えなければな!」
「さすがですね! そうは思いませんか、真紅さん?」
「………」
真紅は海斗が話し掛けてもただまだ食べ終わっていないお弁当をゆっくりと口に運ぶばかりであった。
「?…、真紅さん?」
「…――えっ? なに、海斗くん?」
「あ、いえ…その、大丈夫ですか…?」
「あ、うん! ごめんね、ちょっとボーッとしてただけみたいだから。あ、そ…それじゃ私はもう先に教室に戻ってるわね? それじゃ…」
そういって真紅はまだ中身が残っているお弁当を包んでさっさと校内に戻っていってしまった…。
『………』
一同はそれを見送るしかできないでいた。
「…なぁ、鈴架、クリスくん、海斗くん? 真紅はまだあの調子なのか? あれからもう五日は経っているが…」
「はい…最近いつもボーッとしていて心ここにあらずって感じで私もお母さんも心配しているんです。
部活でももう少しで県大会があるのにお姉ちゃんがあの調子でそれが影響しちゃって天見部長や他の部員も士気が下がっちゃって練習にならないんです…」
「そうですか。わたくし達のクラスでもいつも皆さんを元気づけてくれる真紅さんがあの調子で最近授業中の空気がとても重く、話によりますとそれのせいで先生達も相当落ち込んでいるそうですわ…」
「そうか。たしかに真紅はこの学園では人気のまとだからな。そうなっておかしくねぇよな?」
「やっぱり…まだあの時の事が真紅さんの心に大きな傷を与えてしまっていまだにそれを引きずってしまっているのかもしれませんね…?」
それで全員は沈痛な表情になる。
「………どうにか立ち直れねぇもんか?」
「難しいよ、翔…みんな知ってるでしょ? 昔からお姉ちゃん…落ち込む事なんて滅多になかったから…」
「確かに。まして今回はかなり特殊なケースだからな」
「どうにかならないでしょうか…?」
「ショック療法なんてどうだ? もう一度影と戦ってみるとかな…?…あ、だが悪い方向に向かっちまうと今度こそ完全に立ち直れなくなっちまうな…」
「分かり切ったこといわないでよね!」
その時、
「あ、やっぱりここにいましたか! 鈴架さん、大変です!」
鈴架と翔のクラスの者だろう女子生徒が血相を変えてやってきた。
「どうしたんですか? そんな慌てて…?」
「廊下で突然鈴架さんのお姉さんの辰宮先輩が倒れてしまってさっき保健室に運ばれてしまったそうです!」
『えっ!?』
「お姉ちゃんが!?」
それで全員はすぐに保健室へと向かった。
ガラッ!
そして鈴架は勢いよく扉を開く。
「お姉ちゃん!」
「しっ!…今やっと落ち着いて眠りについたばかりだから静かにね?」
「はい…、…え? ガリウスさん、落ち着いたって一体…?」
「…先程まで真紅さん、すごいうなされていたんですよ…まるで何かから逃げるような感じでしたね」
「やっぱり…そうでしたか」
「相当疲れがたまっていたみたいね…。皆さん、ここは私に任せて教室に戻っていてください。それまで私がなんとかしますから…」
『はい…』
そして一同はそれぞれ教室に戻っていった。
「…でも、確かにかなり危険な状態ね。実際生気がかなり減っていてこのままだとどんどん真紅さんは体を悪くしてしまうわ…」
「…、…うっ!」
そこで真紅が目を覚ました。
「あ、起きたのね? 真紅さん…」
「…あれ、私…? どうして…?」
「廊下で倒れていたそうよ…」
「そう、ですか…」
「大丈夫…? 私でよければ相談にのりますよ?」
「………」
「ね…?」
「…、怖くなったんです…あの時、影に本気で殺されそうになった時の事が何度も頭をよぎって…今日は夢にまで影の群れが出てきて逃げる私をどこまでも追ってくるんです…」
「……」
「心ではわかっているんです!…あれは私の不注意で起きた事だって…、でも影の事を考えるとどうしても体が震えちゃって…震え、ちゃって…う、うぅ…これじゃ私、もうみんなと一緒に戦う事ができません…」
真紅は涙を流してシーツを濡らす。
「…事情は海斗くんから聞いています。そして真紅さんの本心も聞いて今私なりに理解しました。…ですが、真紅さん?」
「…、はい?」
「いつまで逃げているおつもりですか? 他の皆さんも…、いえこの学園の殆どの者があなたの事を心配していますよ?」
「で、でも…」
「あるお話をします。真紅さんの前世の御方…、つまり赤竜さんのお話です。彼は――……」
そしてガリウスは赤竜の事を語りだした…。
「彼は十二支の皆さんや他大勢の里の民から頼りにされるとてもよい御方でした。…そんな彼ですが一時期、自分を見失いそうになったのです」
「なんでですか…?」
「…彼には兄がいました。名を『黒竜』…その兄は里を裏切り二人の部下を連れて幾度にも渡って私達に戦いを挑んできました。
そしてついに精霊界で禁忌とされていた十字暗殺部隊の封印を次々と解き始めていってしまわれたのです…。
もちろん赤竜さん達はその行いを阻止せんと頑張りました。
ですがそのさなかで兄だけではなく実の父親の『凰仙』さんまでもが封印を解く手助けするという事態が起きてしまいました。
里を代表して守っていくという義務と裏切った兄に代わって里や傷つけられた者に対して謝罪しようという気持ちが赤竜さんの中にはありました。
それで、もともと精神的に疲労が蓄積されていた赤竜さんの心にさらに『実の親の裏切り』という重荷が降り掛かり赤竜さんはほんの一時ですが笑顔を見せなくなってしまわれたのです…。
そう、今の真紅さんのように…」
「………」
真紅はなにも言わずうつむき加減になりながらなんとか話を聞いていた…。
「ですが、赤竜さんはすぐに立ち直れることができたのです」
「…あの、赤竜さんはどうして…立ち直れることができたんですか…?」
「それは…、お仲間の支えがあったからですよ。
赤竜さんは問題ごとは一人で抱え込んでしまう御方でした、ですから日々想い悩む事が絶えなかったのです。ですがそんな時は決まって十二支の皆さんが声を揃えるかのように、
『一人で抱え込んで苦しまないでください…』
『私達にもその苦しみを分けてください…』
『私達は、強い絆で結ばれた仲間じゃないですか!』
…と、言うのです」
「赤竜さんは…、とても恵まれていたんですね」
真紅はその絆を羨ましがった。
「えぇ…ですが今のあなたもそうよ?」
「えっ? そんな…私なんて」
「深く悩まないで…皆さんはきっとあなたの気持ちを、悲しみを理解したいと思っているはずです? よく考えてみて、ね…?」
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン…
その時、授業の終わりのチャイムがなった。
「あ…長話しになっちゃったわね、もう下校時刻だわ」
「あの…ガリウスさん…、私…」
「…駄目よ? 先に謝らなきゃいけない人達がいるでしょ?」
「…、はい」
「うん、少しは元気が出たみたいね?」
「ありがとうございます、ガリウスさん。私…頑張ってみます!」
「えぇ」
真紅はガリウスにお礼をいって保健室から出ていった。
「(…真紅さん、これでもうたぶん大丈夫ね。でも……いえ、こればかりは後は真紅さんが解決しなきゃいけない事、真紅さんの気持ち次第ね…頑張って!)」
ガリウスは真紅の心の強さに賭けるのだった。立ち直ることを。
――to be continued.
次回で克服する予定です。




