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緋き死神と亡国の英雄  作者: 水瀬紫苑
第二章 定住
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急変

昨日の更新が誤って違う作品に投稿されておりました!!

前回もどうやら一日誤って投稿されていた模様・・・

毎回こんなので申し訳御座いません!!

アルと何かを話した気がするが、何を話したのか覚えてはいない。


――ついに、この時が来たのだ。


分かって いた。


いつかはこの時が訪れる事が。


分かっていた 筈だった



――なのに


涙が溢れて止まらない。


胸が締め付けられて、息が出来ない。


覚悟をしていたはずなのに、結局はなんにも分かっていなかったのだ。



ぐすぐすと泣きながら家路へ着く。


こんなに泣き腫らしていては、ピトが心配をする。――早く泣きやまなくては。


そう思い無理やり涙を抑え込み顔を上げると、妙に村が騒がしい事に気がついた。


――どうか したのだろうか?


先日流れ着いた青年は、もう村を出たのだと聞いた。


彼が 戻ってきたのだろうか?


嫌な予感に胸を締め付けられながらも、パノは足早に喧噪へと近づいていく。


――涙はもう 止まっていた。




走って村の中心へ向かい、パノは愕然とした。


そこに見慣れた長閑な風景はなく、見覚えのある光景が広がっていた。


立ち昇る煙、漂う血臭、倒れ伏す村人達。近くで確認するまでもなく、彼らが息絶えている事が分かる。


――何が あったのだろうか。


状況を把握したいのに、彼らは皆話すことが出来ないのだ。


――アルに 知らせるべきなのだろう。


しかし、弟の安否も気になる。


先にアルに知らせて、ピトのもとへ向かえばいい。


――だが、もしその間にピトに何かあれば――?


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」


突如聞こえてきた悲鳴に、パノの肩がびくりと揺れた。


そして飛び散る紅。


見なれた男が倒れ伏し、見慣れぬ男が嗤いながら出てくる。


反射的に身を隠し、そしてはじかれたように走り出す。


(――ピト!!)


弟は 無事なのだろうか。


途中で何度も聞こえてくる悲鳴や嗤い声に耳を塞ぎ、それでも家まで走り続けた。


「――ピト!!」


家のドアを開けるなり、弟の名を呼ぶ。


「――ピト!!居るの!?ピト!!お願い!!返事をして!!」


パノの心からの叫びに、小さく応える声がした。


「……おねぇちゃん……?」


「ピト!!」


怪我をした様子もない弟の姿を見つけ、パノは思い切り抱きしめた。


「……良かった……無事で……っ!!」


「……おねぇちゃんっ!!」


ぼろぼろと泣きじゃくる弟をなだめつつ、パノは慌てて問いかける。


「ねぇ、ピト。何があったの?」


「わ……わかんない……。なんか……いきなり悲鳴が……。」


ピトが泣きながら説明をしていると、ばぁんと大きな音がして、ピトの言葉を遮った。


「なぁんかこっから声がしたようなぁ~?」


聞き覚えの無い声に、パノは慌ててピトを棚の中へと押し込んだ。


「お……おねぇちゃんっ!?」


戸惑うピトを無視して、棚に鍵をかけた。


「おねぇちゃん?おねぇちゃんっ!?」


バンバンと棚を内側から叩く音が聞こえるが、構わずパノは話しかける。


「……ピト……絶対に声を出しちゃ駄目。お姉ちゃんも直ぐに隠れるから。」


その言葉にピトは大人しくなった。


パノが隠れ場所を探そうと室内へ視線を滑らせた時――


「獲物……みぃつけたぁ~……。」


歪んだ笑みを浮かべる男と目があった。


その瞬間、パノは慌てて窓から飛び出した。


(――アルっ!!)


パノの足は自然とアルの住む小屋へと向いていた。


(アル!!アルっ!!アルっ!!)


ぼろぼろと涙を流しながらも懸命に走るパノ。涙で視界が歪み、前が見えない。


それでもひたすら走り続けた。――しかし。


足音は急速に近づいて来る。


――そして



背中を灼熱が襲い、血臭が広がった。



ゆっくりと地面が近づいて来る。


ぼやける視界。遠のく意識。


その中で唯一はっきりと見えたのは、何よりも愛おしい人。


「……アル……。」



それはパノがずっとずっと求め続けた人だった。



 ※ ※ ※


パノの気配が遠ざかって行った事を確認すると、アルは緩慢な動きで落とした髪を拾い上げる。そして上着を羽織ると、そっと目を伏せた。


目論見は 成功した。


着替えに見せかけ、パノに偽りの真実を見せつけた。


嘘は言っていない。――だが、真実も語っていない。いうなれば、作り上げた真実、といったところか。


パノと自分は住む世界が違う。それを見せつけ、反論を封じた。


団長や村長は最初から理解していた。――自分が、いつかこの村を出て行くことを。


村長夫人やピトは納得しないかもしれない。だがそれも、パノさえ納得すれば大人しく引き下がる。


準備は整った。今日は休んで、明日荷物を整理しよう。――とはいったものの、整理するほどの荷物など持ってはいない。

この身と、剣さえあればそれでいいのだ。


金は必要かもしれないが、また稼げばいい。


剣を抱き込み腰を下ろすと、そっと目を伏せた。


心が 凪いでいる。


あれだけ躊躇っていたのが、嘘のようだ。


ひょっとしたら、自分は疲れていたのかもしれない。


当て所無く彷徨い続け、目的も 意味も 何1つ見出せず。


そうして永遠に歩き続ける事に、疲れ果てていたのかもしれない。


――だが、それももう 終わり。


充分過ぎるほどに休息はとった。ならばもう、この村に居る必要はないのだ。



小屋を静寂が支配する。


誰の声も聞こえず、何の音もせず。只暗闇だけがアルを包み込む。


――しかし。


アルはそっと目を開くと、虚空を見つめた。


「――何だ……?」


妙に落ち着かない。


何故だろう。胸がざわめく感じがする。


この感じには覚えがある。虫の知らせとでもいうのだろうか?


そしてこの手の勘は、困ったことに外れることが無いのだ。


一瞬の逡巡の末、アルは緩やかに立ち上がる。


少しだけ、様子を見て来よう。何事も無ければ、また戻ってくればいい。


扉を潜ると、小屋を背にして走り出す。




――それが終わりの始まりだった。



前回とは打って変わって・・・


此処から急速に(?)動き出します

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