そのドアまさにヌリタテ
結局はこうなることは分かっていた。
逃げ回っているだけではいつか僕の知らない校舎に行って道も分からず行き止まりに行き着く。
「ふんっ、てこずらせやがって。大人しく捕まっていればいいものを」
何処の下っ端悪党の言葉だくそ野郎ども。疲れ果てて死にそうだよ。
数は7人。
中でもリーダーらしき人物の緑の髪をした長身ノッポできれいな顔立ちをした男はいい声で下っ端台詞を吐いていた。
「んで、僕はなんで追われているんだ?」
「とぼけてもらっちゃ困るな、生徒会長さんの日課だろう?」
どんな日常を過ごせば学校の人に追い掛け回される日課ができるのでしょう。クルスを屋上の旗をつるす棒に引っ掛けて問い詰めたいものだ。
そんなことを考えていえると
「生徒会長さん、お前は毎日我が主、宇佐 桐嵯様の手下に追われているではないか」
「あぁ?」
誰だそいつ。と言いたかったが中身がすり替わっているとばれてしまうし、それは出来ない。
じりじりと、こちらに近づいて来る軍団ども。後ずさりするにもすでに後ろは壁。
ふと、先頭のいい声の兄ちゃんは立ち止まった。
「ふむ、やはり今日の人員増加は正しかったか‥‥」
人員増加?いつもはもっと少ないのか、どうでもいいけど。
だが、その後僕はいい声の兄ちゃんからとんでもない事を聞くことになった。
「噂によれば今日の本井は生理の日だとか」
「は?」
周りがざわついている。いや僕もざわつきたい。
「なんで僕が生理になるんだよ!僕は男だ!」
「いやはや、今日の動きの悪さを見れば桐嵯様が生理の日と同じような雰囲気がするのだよ。半信半疑ではあったがここまで行動で表されると信じざるを得ないというか」
「待て待て待て待て!僕の何処をどうみたら女に見えるんだって!」
激しくあたふたして僕はその場で焦りを隠しきれなかった。
耳を傾けてみるとざわつきの中から声が聞こえてくる。
「やっぱりねぇ」「男にしておくにはもったいないと思っていたがそうだったのか」「あれだけ、可愛かったらしょうがないよね」「リア充は死すべし!」「いつもトイレで見かけなかったのはその所為か」
確かに僕は三年前も可愛いといわれ続けたが、それはいわゆる子供が可愛いという奴だと思っていたがどうやら違っていたらしい。昔から、自分の顔は端麗な顔立ちではあるとは少し自覚していたがこうも追い回されるほどだとは‥‥
「って、まてこの野郎ども!僕は女じゃない!お前ら後で死刑だ!」
どすを聞かせて指を刺すと、奥の喧騒たちはビクッと怯えて身構えた。皆の反応を見るとクルスという人物がどういった人物なのか少しだけ分かった気がする。少なくとも弱者ではない。この立場は有用に使えるかもしれない。
といってもこの状況を打破する案なんてものはそうそうに浮かばないもので、意味なんてなかった。
「そろそろ、昼食を食べる時間がなくなってしまうのでね。今日こそ観念して桐嵯様の元に供物としてささげられなさい!」
目の前の長身ノッポは腕を振り下ろして部下らしき後ろの群れに進軍の指示をだした。
まずは一人、敵がやってきた。
「くそっ、めんどくせぇ!」
「やはり桐嵯様と同様、生理の日と言うだけあって口がわるいですね」
思い返してみるとクルスの言動は僕に対しても敬語で礼儀ただしかった。といっても、僕だってあれくらいの礼儀作法を身構えることも可能だがこうも攻撃的に来られては、無理ってものだ。
「うるせぇ!」
もうやけくそだ。
生理って訳でなんだか言い訳できてるし、クルスの存在がばれていないのなら好都合。このまま、暴れても生理の所為ですと言い切れるかもしれない。
まずは集団の先頭にいた一人が切り込み隊長を努めてきた。
どうやら、集団どもの動きからすると喧嘩なれしてそうな奴はいなかった。むしろ、消毒液ではなく餡子に弱そうなバイキン野郎のような感じだ。つまりはやられ役。
「ったく、こんなところで使いたくはなかったけど」
僕は内ポケットを探り卓球の玉ほどの球体を取り出した。そのまま玉を、集団の足元周辺に投げつける。
ボフン
「な、なんだ!ゲホゲホ」
風船が破裂するような軽い爆発音とともに球体は爆発して周りに煙を撒き散らした
「ちょいと理科室から忍びこんであれとあれを調合してっと、これ以上は企業秘密だ。それじゃぁなー!」
そのまま煙幕に紛れて僕は走り去っていくことにしようとした。
「ふふふ、手間をかけさせてくれるわね」
走り去ろうとしたその直後だった。烏合の衆を通り越して煙幕のまだ範囲内でのこと、僕は壁に押し倒されて倒れていた。
煙幕で全く回りの気配に気づくことも出来ずにその壁は僕に押し寄せてきて何が起きたのかわからなかった。
「いっつつ、なんなんだよこれ」
倒れている間に、理科室から頂戴してきた簡易煙幕の煙は既に消えて集団にも気づかれる。
これ最悪と言った風景なり。
「まったく私の手をわずらわせないで頂たいわね」
「す、すいません桐嵯様!今日も今日とてやはり手強いもので」
「弁明なんて聞きたくないわ」
宇佐 桐嵯。
さっき、長身ノッポが言っていた雇い主らしき人物か。そいつが、直々にお出ましになったと言うことは危険な状態?なのだろうか。
煙も晴れてその姿がこちらにゆっくりと向かって来るのが見えてきた。そこに見えてきたのはいつぞやに見た、金髪のメイドさん(今は制服Ver.)だった。
「うへへ、ついに追い詰めたわよ。今日こそ私と一緒にご飯を食べましょう?」
「は?」
ご飯を一緒に食べる?
脳内回路をフル回転させて考えてみる。ご飯を一緒に食べる。それで、僕が何故追われていたのか。
それ即ち、クルスが桐嵯とか言うのとご飯を食べるのを拒んでいたということ、それ即ち、クルスが逃げたくなる理由があったということ、それ即ち危険。
それ以外思い浮かばない。
「だから、私と一緒にご飯を食べるわよ」
疑問の言葉を返した僕に、もう一度お食事のお誘いの言葉が返ってくる。
しかし、僕はクルスが拒んでいる理由を知らない。もしかすると別にクルスが拒まなければならない理由があっただけかもしれない。
「あぁ、別に飯食うぐらいなら付き合ってもいいけど」
と平然と答えてみたものの、気おされている状況下からか僕の言葉が何故か弱く聞こえる。
「へ?そんなあっさり了承してくれるの?」
桐嵯と言う女は、頓狂な声をして了承の言葉に驚いた顔をしている。
「当たり前だろ。別に僕に拒む理由なんて無い」
「そ、そうよ・・・ね。あははは、まぁいいわじゃぁ食堂でご飯を食べましょ。えへへ、何にしようかしらあっさり了承してもらったから何食べようか迷っちゃうじゃない。やっぱり女の子らしくさっぱり系で攻めた方がいいのかしら。ううん・・・・」
後の方からどんどんと声が小さくなり何を呟いているのかすら分からなくなっていき、一人でお食事の審議をしていた。
とりあず、僕は立ち上がり押し寄せてきた壁を退けてもとあった場所に戻す。
ガコン、カチンカチンカコン
「?」
最初のガコンは僕がドアをはめ込んだ音だがその後の音が何やら不思議な音がした・・・
それは気にしてはいけないのかもしれないと、僕は無視することにした。
「学食に行くんだったら僕もちょうど途中だったから早く行こう桐嵯さん。昼休みももう半分終わりかけてる」
追われていた身であったわけで、少々面倒くさかったので投げやりに僕は学食へとせかすことにした。
「桐嵯さん?おかしいね、本井は男女問わず君付けで呼んでいるはずだが」
と長身ノッポがクルスとの相違点に気が付く。むしろ男女問わず君付けしてるんだったら、最初にクルスから言ってくれればいいものを・・・。今はクルスを恨んでおいて
「あ、あぁ、ちょっと今日は調子が優れないんだ、いつもと違っても気にするな」
「そうそう!繰也君今日はあれの日なんでしょ!大変だけど何か私に出来ることがあったら言ってね!」
「あ、あれって何?」
「もう、生理の日なんでしょ?だから調子悪いんでしょ?」
んなことあるか!
「いや、僕男なんだけど」
そんな訳で、あれこれ言い訳をしてそのまま学食に行くのであった。
烏合の衆どもは、その後散り散りに去って行った。きっと桐嵯さんに雇われた何かだったのだろうと、判断しておく。
そのドアまさにヌリタテ
いいえ、
そのドアまさにヌリカベ
です。
ちょっとした、親父ギャグだと思って聞き流してください。
どんどんと、クルスの存在が謎に包まれる一方ですが、脳内プロットの方がだいぶ完成してきたので、もう何も焦ることなく話を進めていきます。
・・・・ちょっと今回だけ話長かったのは気のせい、ええ気のせいです。