混沌たる訪問者
夜が明け、お天道様が昇り、看護婦は僕に気づくことはなく時間だけが過ぎていく。母さんを連れてくる、と言った僕の生き別れた双子の弟(嘘)は、一向に来る気配をさせない。このままでは、本当に点滴だけ打たれてずっとここに放置されるんじゃないかと不安になって来た。
途方にくれている僕についにご来客。
扉が開いて何やら誰かと話しながら部屋へと入ってくる。その声の主は、昔からよく聞いた声で、今の僕にとって寒気しか感じさせない声だった。
「繰也!起きたんだって!?おめでとぉ!」
にっこりと笑顔を作りながら黒い髪の女の子は、こちらに向かって短い髪をロックンロールでもするかのように揺さぶり無拍子でみかんが投げつけていた。
だがしかし、予想済み。声が聞こえた瞬間から悪寒を感じすでに別の場所に逃げ込んでいた。
ふかふかの布団にはずっぽりと後を残してみかんがめり込んでいる。みかんの有様を見ると、中身がチラリズムして威力の如何を示している。普通布団にめり込んだだけではみかんの皮は捲れたりしない。
「ふむ、目覚めたてと言えど腕は落ちてないようね」
ふふふ、と武者震いをさせて楽しそうにしている彼女の後ろにはよく見ると、噂の生き別れの弟(嘘)が居た。
「うおぉりゃあぁあ!とりゃああ!」
ぶんぶんと、少女はみかんを縦横無尽に投げつけて僕を探す。
頼むから病室が汚れるから勘弁してくれ。その掃除を誰がすると思っているんだ‥‥‥‥看護婦さんです。
「んじゃ、クルス。最後の一発は頼んだわ」
そう言って、少女は赤い球体をクルスに手渡す。
「はい、母さん」
クルスは、さも当たり前のように赤い球体を受け取ると僕の方を目掛けて剛速球を投げつけてきた。
ガコン!
病院外にまで聞こえそうな金属音が鳴り響き僕の隠れていた着替え用ロッカーは無残に凹んだ。ついでに、赤い球体は白い実をぶちまけて散った。
今までみかんを投げていて十分騒々しかったのか、二人の真後ろには看護婦が駆けつけていた。しばし、直立不動でその状況を理解しようとするが追いついている様子は無い。
ドアから一直線上に置かれている着替え用ロッカーが凹む様は、ひどく暴れたように移るだろう。そんな中凹んだロッカーの戸は嫌な金属音を鳴らして扉が開く。
「お、おはよう皆さん」
声は引きつりもともと弱弱しい僕の声は、腰が引けさらに弱弱しくなっていた。
クルス以外が久しぶりに見る、僕の起きている様。それは、周りにみかんの残骸とリンゴの残骸が散らかっていて僕という生態系をひどい印象付ける状況だった。
あれから30分
僕はみっちりと、看護婦さんの折檻を受けて当のぶちまけた本人は入院棟のテレビの置いてある広間で紅茶を置いて運動後の休憩のご様子。
そんなみっちり折檻する時間があるのだったら、僕はどれだけの時間意識不明だったのか、なぜ病院に搬送されているのかを教えて欲しかった。
「よりにもよって、お見舞いにもって来てくれたみかんを投げ散らかすなんてどういった神経をしてるんですか!!」
「い、いや、だから、さっきから言ってるんですが僕が投げたんじゃな‥‥」
「そんな言い訳は聞きたくありません」
いや、聞いてくださいよ。弁明の余地ぐらいくれてもいいじゃないか看護婦さん。
「もう、いいです。反省する気配もないですし今度やったら掃除するのにみかん一個100円分とりますから!」
次がみかんじゃなかったらそれはいくら取られるのでしょうか。
「トマトだったらいくら取られるのでしょうか」
「トマトは一個につき千円払ってもらいます」
高くなった‥‥‥‥
10分後
みかんの皮にあるリモネンの成分によってからか、部屋は掃除された前より断然きれいになっていた。と、思い込んでおく。
入院中、意識不明なのをいいことに掃除をしていなかった、などと思いたくはない。顔が妙に埃っぽいのはきっと寝ている間顔を洗わなかったからで埃が溜まったからではないんだきっと。
そんな訳でやっと僕はベッドに戻り、二人のお見舞いに来た客人(っぽいの)が横に来て、至ってノーマルなお見舞い形態へと移行した。
「疲れた。散瑚みかん一個くれ」
みかんを縦横無尽に使いこなす使い手は幼馴染の岩道 散瑚。
「ごめん、全部投げた」
何のためにみかん買ってきたんだよ。
「あ、僕が最後の一つもってますよ」
そう言って、クルスはフルーツバスケットからラスト一個のみかんを取り出した。
「さすが生き別れの弟!僕と同様用意周到だねぇ」
「あら、じゃぁ頂くわ」
「はい、では皮は剥いておきますね」
どうやら、散瑚の命令は絶対だそうだ。しかも完璧に執事かなんかか、もしくは下僕かなんかだ。
「っておい!僕は無視かよ!」
「いいじゃないみかん一個ぐらい。繰也の分は冷蔵庫に入ってるから」
口を尖らせて剥かれたみかんを受け取る散瑚。
「冷蔵庫?そんなものどこにあるんだよ。この部屋にあるのはこのチェストぐらいしか‥‥」
そのチェストを開くとびっくり。中は冷蔵庫になっていた。
木造でただの物入れにしか見えなくなっており、無意味に分かり図らいつくりになっていた。
さらにびっくりすることは
「なぜ、大量のドラゴンフルーツ」
冷蔵庫の中いっぱいに敷き詰められていたのはドラゴンフルーツ。しばし、戸を開いたまま硬直する僕。
「繰也が起きて、お腹すいた時のために昨日の朝補充しといたものだから別に腐ってないわよ、んむんむ」
そう言ってみかんをほうばる散瑚。
こんなに分かり図らい冷蔵庫用意されたら用意されていることすら気づけない。
「別に腐ってるかどうかなんて気になってるわけじゃないんだよ。なんでドラゴンフルーツなんだよ」
「お父さんが無駄に大人買いして余ってたからお裾分け」
「そっか‥‥‥‥散瑚の父さんも結構なネジの抜けっぷりだもんな」
「何よそれ私もネジが抜けてるようないいっぷりじゃない。三年間もずっと病室で居眠りしてた奴に言われたくはないわ」
「え?」
それは、僕の両親もネジが吹っ飛んでるんだと言う意味だ、と反論する言葉すらも遠くへと消え去る言葉だった。
三年間もずっと居眠りをしてた奴
それは僕に向けられている言葉であるのだろうか‥‥‥
ドラゴンフルーツを書いたついでに、ドラゴンフルーツがどれだけ日持ちするのか調べたところ冷蔵庫に保存して一週間程度だそうです。
まぁ、そんなことは別にいいのですが。
ドラゴンフルーツを丸ごと剥いた画像が僕にはおにぎりにしか見えませんでした。
・・・・・はい、それだけです・・・
今回でクルスの話に入れなかったのはちょっと自分で痛いミスをしたなと思ってます。
ギャグを入れるためにクルスがおざなりになってしまい読み心地が悪かったかもです。




