帰郷
突然の旧友の死を知り、故郷へと帰る。
―即死だったそうよ。
古森の葬儀に参列するため、俺は実家のある田上へ向かっていた。
古森とは中学に入学してすぐに仲良くなり、よく遊んでいた。クラスでも目立っていて、いつも中心にいるような奴だった。
その古森が交通事故で死んだ。
正直なところ俺はそこまでショックを受けていない。仲は良かったものの、お互い別の高校に進学し、そのあとはろくに連絡も取っていなかったからだろうか。
それでもきちんと見送りに行っているあたり、心のどこかでは彼の死を悲しんでいるのだろう。
今住んでいるアパートから田上までは電車に1時間ほど乗り、バスに乗り変え20分ほどの距離だ。宮野は俺に葬式の日程を伝えるとすぐに田上に向かったが、俺は数日分の着替えをまとめたり、バイト先に連絡を入れたりしていたので出発は1日遅れることになった。
平日の昼前だからか、車内にはほとんど人がおらず、どこか寂しい雰囲気を出している。
駅を出、バスに乗り込む。
駅からも遠く、人が集まるような施設もほとんどない田上だからか、バスでもあまり人は見かけなかった。
バスを降りる。正月に来て以来の田上は目に見える変化もなく俺を迎え入れた。
式は明日だし、荷物を持ったままなのも疲れるだけなので俺は実家へ向かった。バス停から5分ほど歩いたところに俺の実家はある。
インターフォンの前に立ち少し考えたが、結局押さずに玄関に手をかける。今日帰ってくることは昨日のうちに連絡しているし、鍵は開いているだろうから。
案の定玄関には鍵がかかっておらず、俺は中に入り、「ただいま」と中へ声をかけた。
「おかえりなさい」出てきたのは母さんだった。
「古森君ってよく一緒に遊んでた子でしょ?びっくりしたわ」
「うん、昨日電話で話したけど告別式は明日だから。そういえば、喪服ってどうすればいいんだ?」
「あんたの部屋に置いといたわよ。お父さんのものだけど、背も同じくらいだし、着れるでしょ」
「わかった。今日はゆっくりしておくよ」
そう言うと俺は自室へ足を運んだ。2階の6畳の部屋。家を出た時のまま、取り残されたような感じのする部屋に見慣れないものがあった。
喪服。着る機会なんてまずなかったそれは、否応なしに旧友の死を現実のことだと俺に突き付けてきているようだ。
「あんたご飯まだでしょ?今から食べる?」母さんが階下から声をかけてくる。
「もう少ししたら降りて行くよ」と返し、俺は腰を下ろした。
おそらく次回あたりから物語は動きだすと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
またお会いできることを祈っております。