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第33話 混乱

 止まった世界は、すぐには壊れなかった。


 だが。


 確実に、歪み始めていた。


「……まだ、保っています」


 文官が言う。


 声は低い。


「予想より、持っています」


「ええ」


 エレノアは頷いた。


 窓の外を見ながら。


 動かない街。


 だが。


 完全に崩れてはいない。


 人は、待っている。


 何かを。


 次を。


「……ですが」


 文官が続ける。


「時間の問題です」


 沈黙。


 それは、分かっている。


 半日。


 それ以上は、持たない。


「……報告」


 別の役人が入ってくる。


「南側、混乱発生。商人同士で衝突が」


「規模は」


「小規模ですが、拡大の可能性があります」


「抑えます」


 エレノアが言う。


 即座に。


「人員を回して」


「はい」


 役人が走る。


 だが。


 それは、対処療法に過ぎない。


「……」


 エレノアは、何も言わない。


 ただ。


 時計を見る。


 時間。


 あと少し。


 そのとき。


「……増えてる」


 サラが呟いた。


 壁際から。


「何が」


「不満」


 短く。


「溜まってる」


 視線を外に向ける。


「爆発するわよ」


 その声は、冷静だった。


 そして。


 正確だった。


「……」


 エレノアは、何も言わなかった。


 ただ。


 理解している。


 これは。


 必要な過程。


 だが。


 限界がある。


「……」


 その頃。


 街の中心。


「ふざけるな!」


 怒声が響く。


「いつまで止める気だ!」


「こっちは商売にならねえんだぞ!」


 人が集まる。


 声が重なる。


 感情がぶつかる。


 そして。


 抑えきれなくなる。


「……落ち着いてください!」


 役人が叫ぶ。


 だが。


 届かない。


「説明しろ!」


「何でこんなことに――」


「俺たちはどうなる!」


 その問いに。


 答えはない。


 そのとき。


「……」


 一人の少女が、群衆の端に立っていた。


 クラリス。


 王都から来ていた。


 状況を確認するために。


「……」


 その光景を見て。


 言葉を失う。


 怒り。


 不安。


 恐怖。


 すべてが、そこにある。


「……これが」


 小さく呟く。


 エレノアのやり方。


 選ぶこと。


 切ること。


 そして――


 その結果。


「……」


 一歩、前に出る。


 止めなければ。


 何かを言わなければ。


「……待ってください!」


 声を上げる。


 だが。


 群衆は、止まらない。


「聞いてください!」


 もう一度。


 だが。


 届かない。


 そのとき。


「――止まりなさい」


 静かな声が、響いた。


 一瞬で。


 空気が変わる。


 群衆が、止まる。


 振り向く。


 そこに。


 エレノアが立っていた。


「……」


 何も言わない。


 ただ。


 見ている。


 その視線だけで。


 場が、静まる。


「……説明を」


 一人の商人が言う。


 震えながら。


「何でこんなことを」


 その問いに。


 エレノアは、答えた。


「必要だからです」


 短く。


 それだけ。


 ざわめきが走る。


「ふざけるな!」


 怒声が上がる。


「こっちは――」


「分かっています」


 遮る。


 その声は、低い。


 だが。


 通る。


「あなた方が困ることも」


 一歩、前に出る。


「損をすることも」


「なら――!」


「それでも」


 言葉を重ねる。


「やらなければ、もっと失います」


 沈黙。


 その一言で。


 空気が、変わる。


「……」


 誰も、すぐには言葉を返せない。


「……」


 クラリスは、その姿を見ていた。


 何も言わない。


 ただ。


 見ている。


 あの人は。


 揺れない。


 迷わない。


 だから――


「……」


 胸が、痛む。


 だが。


 目は、逸らさない。


「……あと、少しです」


 エレノアが言う。


 静かに。


「耐えてください」


 その言葉に。


 確信があった。


 根拠はない。


 だが。


 それでも。


「……」


 群衆は、完全には納得していない。


 だが。


 動かない。


 動けない。


 そして――


 待つしかない。


 その頃。


 高台の屋敷。


「……面白い」


 カティアが、笑っていた。


「完全に止めたのに」


 一歩、歩く。


「崩れてない」


 その声には、驚きがある。


 そして。


 興味がある。


「……ロイド」


「はい」


「どう思う?」


 ロイドは、少しだけ考えた。


 そして。


「……限界は近い」


 と、言った。


「ですが」


 一拍。


「まだ、持っています」


 その言葉に。


 カティアは、笑みを深くする。


「ええ」


 頷く。


「だからこそ」


 視線を外に向ける。


「ここで終わらせる」


 その一言で。


 次の手が、決まる。


 そして。


 混乱は。


 まだ、終わらない。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 “破壊”の次は“混乱”。


 このフェーズは読者にとっても苦しいですが、

 ここを越えると一気にカタルシスが来ます。


 次話はついに――

 反撃の核心「再定義」です。


 この作品で一番気持ちいい回になりますので、

 ぜひブックマークしてお待ちください。

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