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ラドゥガ王室恋愛譚  作者: ばいおれんじ
花盗人の愛は茉莉花に遂げられるか
3/9

王妃様は陛下に恋してる

番外編:大国の王様(しゃれにならねえ口下手)×小国の王女

王女様達の親世代の話

旧題:不器用陛下の両片思い

 さてさて末姫様に続き、一の姫について語らせていただきましたが、次は少し寄り道にお付き合いくださいませ。

 今回の主役は王女様達のご両親である王様と王妃様。今でこそ理想の夫婦として扱われているお二人ですが、実のところ彼らの結婚は王様が王妃様の祖国に対して弱みにつけ込んだものなのです!

 となると胸躍る展開が始まりそうなものですが、あいにくこちらは古今東西ではびこる、ごくごくありふれた物語でございます。では早速始めるといたしましょう!



「子を産め。それ以外、貴方に望む気はない」


 陛下と過ごす初めての夜、彼は寝台で身を縮めていた私へそう告げました。


 私の祖国はこのラドゥガとは比べものにならぬ小国であります。この国を潤す財は当然ながら、礎となる人脈も、富に化けかねない土地や誇れる名物すら持ちあわせぬ、価値がない故に生き残った弱い国なのです。そんな国の姫である私とて同じこと。

 かろうじて私に価値があるとするならば、彼の望みを叶えられる可能性が高いことでしょうか。私の両親は共に多産の家系で、私自身は成人を迎えたばかりの健やかな娘でしたから。だとしてもその程度の条件ならば陛下に見合うご令嬢の中でも存在していたはずです。

 それに祖国は私が陛下に見初められるその時まで窮地に立っておりました、今はラドゥガの支援により立て直すことができましたが……。この通り私との婚姻はラドゥガにとって益どころか損害を負うだけでした。


 だというのに陛下は何故私を選んだのでしょうか。

 私には陛下のお心がわかりません。きっと知り得る日は訪れないのでしょう、私にはそのような資格はありません。ですから私はただ陛下に与えられた命に応えるべく彼の唇を受け入れました。



 月日が経つのは何と早いことでしょうか。私がラドゥガに嫁いで一年、私と陛下の間に女の子が生まれました。陛下によく似たとても美しい王女です。今から将来が楽しみで楽しみで……思わず頬が緩んでしまいます。

 でも喜ぶと同時に申し訳なさにも駆られました。陛下はきっと早く世継ぎが欲しかったのでしょう、何せ夜ごと私を抱いていらっしゃった位ですから。

 だけども私が産んだのは王女。けして法で禁じられているわけではないのですが、ラドゥガで女性が王位を継いだ前例は殆どありません。この国でも世継ぎとなれば男児が一般的なのでしょう。私は彼の期待に応えられなかった、陛下は私達を救ってくださったのに……。


 私の祖国は花卉栽培を中心とした農業が盛んな小国ですが、先述の通りつい最近まで滅国の危機にありました。凶作続きで財政難に陥り、身分問わず節制に励みましたが、健闘及ばず破綻寸前まで追い込まれていたのです。

 もはやこれまでと覚悟したその時でした。兄から一通の手紙を渡されたのです。差出人はラドゥガ王、つまりこの大陸一の勢力を誇る大国の主からでした。そこには姫を貰い受ける代わりに援助すると……祖国における姫は私だけでした。

 祖国にとってこれ以上の救いの手はないでしょう、わかっていたからこそ父と母は青ざめておりました。民を思えば断ることはできません、ですが娘を犠牲にしなければならぬことを嘆いたのでしょう。

 両国の力関係からすれば、私がどのような扱いを受けても非難することは叶いません。娘がいかなる非道を強いられるのか、弱者故の恐怖に駆られたのでしょう。

 だとしても私はこの申し出を蹴るつもりなど端からありませんでした。私の身一つで国が救えるのならば安いものですから。と言いつつも返信し終わった後、兄に「ちなみにそれ正妃としてだぞ」と言われた時には卒倒しそうになりましたが。

 ラドゥガ王は兄の古い友人です。ですが私は彼にお会いするどころか、目にしたことすらありません。兄は国力に差はあれど彼と同じ王という立場を持っておりますが、私にはあまりにも遠い存在でしたから。もし関わってしまえば政に役立つ者でもないのに友人の妹という立場上、邪険に扱えない……などと気遣わせてしまうでしょう。

 また世間知らずも手伝って私はラドゥガの名こそ知っていても内状については殆ど知りませんでした。

 なので陛下が妃に恵まれぬ器量でないことも、後宮が無いことも存じておりませんでした。てっきり数ある妾の一人になるのだろうと思っていた私には正妃としてなど俄には信じられず。

 ですが明らかに力不足の正妃にも関わらず、周囲の方々の協力あって……今どうにか私はラドゥガの王妃として努めております。


 結婚が決まった後、兄より聞かされておりましたが、陛下は想像だけでは到底追いつかぬほど美しい方でした。あまりにも整った顔立ちはぞくりと寒気を感じるほど、またとても背が高いこともあって威圧感を覚えずにはいられません。くわえて祖国では周囲が饒舌な者ばかりだったこともあり、その寡黙さにも苦手意識を抱いてしまいました。極めつけはあの命令が下されたことです、歩み寄る気は無いのだと知って尚更陛下を恐れていたのです。

それがいかほどに無礼なことか分かっていていながら、私は陛下が怖くて仕方なかったのです。ですが今では心より陛下のことをお慕いしているのです。

 陛下は私にあまり話しかけません、名も呼んでくれません。ですがお優しい方だと私は知っています、言葉はなくとも大切にしていただいているとひしひし感じているのです。

 嫁いだ当初、王妃としてやっていけるのか不安に駆られていた私をいつも励ましてくださいました。口下手でつたない私の話にいつも真剣に耳を傾けてくださいます。国を離れた心細さに泣いていた私を見た時も咎めることなくただ抱きしめてくださって。この一年で他にもたくさん陛下の優しさに触れてきました。

 だからなのでしょう、気付けば陛下に惹かれている私がいました。


「……セラフィナール」


 夜、いつもの通り私は陛下が訪れるのを待ちわびておりました。ゆりかごの中の愛らしい寝顔を眺めながら。

 すやすやと眠る娘の丸い頬をそっと撫でます。くすぐったかったのでしょう、陛下と同じ青色のまつげがふるりと震えました。

 まだ赤子ですが、娘が陛下によく似ていることは一目瞭然です。きっと陛下のようにとても美しく成長するのでしょう。年頃となった娘の姿を想像し、期待に胸が弾みます。

 王子ではなかったことで陛下はさぞかし落胆したことでしょう、それでも陛下はセラをとても可愛がってくださっています。侍女長から伺ったのですが、どうやら陛下は子供好きとのこと。娘でこれならもし王子が生まれた時にはどれほど喜んでくださるのでしょうか。


「可愛い……」


 それにしても本当に可愛らしい。我が子ながら世界で一番かわいいのでは……?と、すっかり私も親馬鹿です。それも仕方ないのかもしれません、だってこの子はお慕いしている陛下が授けてくださったのですから。

 小さな手に指を添えればきゅうと握り返されます。これには口元が緩まずにはいられません。胸の内でどんどん膨らんでいくこの気持ちこそ母性なのでしょうか。この子の母になれた私はこれ以上ない幸せ者ですね、でも一度生まれた欲は尽きぬようでして。


「どうせならいっぱい赤ちゃん欲しいなあ」


 思わず願望を口にしたならばゴンッと大きな音が扉から聞こえました。驚きに体が跳ねます、周りを見回しても変化はありません。結構な音量でしたが扉が壊されたわけではないのでひとまず安心していいのでしょうか……。事を確認しようにも侍女達は下がらせておりました。

 ただ扉の向こう側が何やら騒がしいです。へいかーへいかー!と叫ぶ声色は明らかに尋常ではありません。もしや陛下の身に何か……?!

 確かめなければと気持ちはあるのに、臆病者の私の足は縫い付けられたように動きません。無意味だと悟りながら、セラが眠るゆりかごを背に隠すのが精一杯でした。あとはどうするべきか、狼狽えるばかりで。

 硬直してからどれほどの時間が経ったでしょう、扉がゆっくりと開かれました。陛下の姿に安堵すると同時、いつもと違う様子に私は扉へと駆け寄っていました。


「陛下……どうなされたのですか?」

「何がだ」

「こぶになってます……」


 部屋へと入ってきた陛下は態度こそ普段と変わりありません。ですが顔が何となく赤らんでおり、おでこはまた別の赤みを帯びておりました。そのこぶの大きさからしてなかなか強く打ったようで一目で分かるほど膨らんでます。

 身長差から精一杯腕を伸ばし、腫れへと手を添える。少しでも痛くなりますようにと祈りながら、といってもただの気休めでしかないのですが。こんな時、回復魔法が使えたら……己に魔法の才がないことが悔やまれます。


「っへ、陛下……?」


 こぶをさすっていた方の手首を掴まれたかと思えば、強く引かれて。一瞬体が浮いた後に背を柔らかな感触が覆いました。すっかり見慣れた天井から今の私は寝台に横たわっているのだと気付いた時には陛下が覆い被さっていて。

 寝台の周囲が透明の膜に覆われ、さっき以上に静かになりました。呪文を唱えたようには見えませんでしたが、おそらくは陛下が何かの魔法を使ったのでしょう。


「王妃……」


 ゆっくりと陛下の唇が開きます。大事なことを告げていらしたのであれば申し訳ありませんが、今の私にはまともに理解できそうもありません。今にも唇が触れてしまいそうな距離に陛下のご尊顔があるものですから、私は慌てふためくばかりで。


「……貴方は」


 陛下はそれ以上何も仰ることはありませんでした。ただ懐妊が発覚してから長らく見ることのなかった熱を帯びた視線に、私は閨事の予感を覚えて。

 塞がれる唇。後はなだれ込むように陛下との夜は更けていったのでした。

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