表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラドゥガ王室恋愛譚  作者: ばいおれんじ
百合は魔術師の元で咲う
10/10

庭師で魔術師な私の愛しい旦那様

 そして来たる決闘の日。

 私としてはいつもと変わらず白衣姿で見物する予定だったのだが、今の私はドレス姿で特別席に座っていた。

 というのも闘技場に向かう途中、アマンダ様……ニコの決闘相手の母に捕まって。この通り、飾り立てられたのだ。

 彼女曰く「古今東西、姫君を巡っての決闘となれば、主役は姫君と決まっております(個人調べ)決して華美な格好を拒むリリエンタリア様を着飾れる、めったにない機会を逃したくないという私個人の欲望ではないですよ、ええ、はい」とのことだった。もの凄い早口だったが、たぶんそう言っていたと思う。

 なんにせよ、その理屈はよくわからない。私のこと気にしてる場合か? 貴方の息子が戦うんだが……?


 ドレスなんて幼い頃ならまだしも、ここ数年は片手で数えられる程度にか身に付けてない。

 私はビアンカ姉様達と違って、基本的に社交の場に出ないし。研究に関する祭典は礼服に白衣を纏えばいいからだ。

 なので今、慣れないドレスのせいで、とてつもない居心地が悪い。集める肉がないからとコルセットはだいぶ緩めにしてくれたが、それでも窮屈で。あと研究の邪魔になる為、普段ならまったく嗅ぐことのない化粧の香りが落ち着かない。

 なにより私がこういった格好をしているのが物珍しいからだろう、一番目立つ席なのもあって他の観客達の視線を強く感じるのがとてつもなく嫌だ。私じゃなくてアリーナを見ろ、アリーナを。あっちが主役だぞ、まだ試合始まってないけど。


 様々な不快感から意識を逸らしてアリーナを見下ろす。

 緊張に喉が渇き、脈が速まる。セラ姉様の決闘の時はここまで怖くなかった。ラオ義兄様が姉様を好いていたのは知っていたから、怪我をさせるような真似はしないとわかっていたから。

 ニコのことを信じてる。でも今回の決闘に関しては下手すれば命に関わるからこそ不安だった。アイツは多少慢心しているが、だからといって手加減をするタイプじゃないし。

 私が見ているのに気付いたニコがこちらに向かって手を振ってくる。呑気か? 死闘になるかもしれないんだぞ、緊張感を持ってくれ。おかげでお前の目の前の対戦相手、すごい顔してるぞ。その距離で敵意というか殺意ビシビシ浴びてるのになんでそんな堪えてないんだ。


「レディース&ジェントルマン! 今日はこの通り、たいへん良い決闘日和ですね! 今回司会を務めさせていただきますはわたくし……」


 定刻になったところで司会が開催の口上を読み上げる。なんだ良い決闘日和って、そんな物騒な天気がそうそうあってたまるか。

 気にしなければいいのはわかってるが、私、今朝からずっとツッコミ入れっぱなしだな……。

 おそらくそのせいで私が戦うわけではないが、既にドッと疲れている。なんだか頭痛してきた上に胃も痛い。


「今回は我が国が誇る『百花綻ぶ賢姫』ことリリエンタリア様を巡って熱い戦いを繰り広げますは――」


 ニコから聞いた時はスルーしてしまったが、よく考えたら『百花綻ぶ賢姫』ってなんだ。

 緑の手を持つ母上ならともかく、私ほど花に対して優しくない女はいないぞ。むしろ研究でしょっちゅう花や薬草摘みまくってる植物の天敵だぞ。

 また変に引っかかった部分に思いを馳せてるうちに、二人の紹介やルール説明が終わっていた。まあ商品という形だが私は関係者なので、どちらも知ってるから聞いてなくても問題はないのだけども。

 ニコから事前に聞いている限り、攻撃手段は魔法のみ。魔法を介さない攻撃は反則と見なされるらしい。

 その上でどちらかが降参するか、戦闘不能になるまで続けるとのこと。変に根性があってプライドが異常に高いあの男が大人しく降参するとは思わない。

 だとするとニコが狙っているのは戦闘不能だろう。でも攻撃魔法なしもどうやってその結末に持ち込むのか。

 私ならば反射魔法で対応するだろうが……ニコはそもそも傷つけること自体を嫌がってるようなので、その線は薄い。おかげでニコの作戦はまったくわからずにいる。

 とうとう司会は全ての口上を終えたらしい。審判の合図が響き、試合が始まる――


「せめてもの慈悲だ! 一撃で片付けてやろう!」


 あの男の背に無数の魔方陣が浮かぶ。アイツが一番得意とする炎の魔法だ。火は最も攻撃的な属性だけあって総じて威力が高い、ましてやあれだけの量をまともに食らってはひとたまりもないだろう。

 なのにニコは結界を張る気配もない。眼鏡の代わりに飲まされた視力回復役の効果によって、あの男の自信に満ちあふれた表情がありありとわかる。

 そして男の魔法が発動する正にその瞬間、魔方陣が全て跡形もなく消えた。


「……は?」


 何が起こったのか、わからなかった。それはあの男も同じだったらしい。

 予想だにもしない展開に困惑しながらもあの男は手を緩めなかった。改めて別属性で新たな魔方陣を構築するが、やはりかき消える。何度もくり返しても結果は同じだった。


「なんだ、何が起きている!? 貴様、何をした!!」


 ニコは一見ただ突っ立っているようにしか見えない。男のように声を張り上げたり、大ぶりな仕草もしてなかった。

 それに顔を歪めて男が叫ぶ。さっきまでの余裕はどこへやら苦しげな男の顔に私はニコの作戦を悟った。


「ねえリリー。あれ、どういうことかわかる?」


 ただの不発ではないことはわかっても何が起きているかまでは把握できないのだろう、観客席にも動揺が広がっている。

 そんな中、隣に座っていたビアンカ姉様が耳打ちしてくる。

 何度も目にしたから見抜けたが、おそらくアリーナの状況をわかっているのは私含め数人程度だろう。というかわかっても頭が理解を拒むと思う。だってあんまりにもムチャクチャ過ぎる。


「……魔方陣の所有権を書き換えて破却してます」

「それってすごいの?」

「相手が振りかざした剣を真正面からぶんどったあげく折ってるようなものだと考えていただければ……」

「わあ」


 しかもそれを攻撃魔法相手に行っているというのが異常なのだ。

 もし構築された魔方陣の所有権を奪おうと思ったら、構築に使われた魔力の五倍は必要で。

 更に相手から奪ったところで大抵暴走し制御不能になる。何より攻撃魔法はその性質上、軒並みに発動までの感覚が短い。

 だから攻撃魔法の対抗策といえば有利属性の魔法をぶつけて押し切るか、あるいは結界を張って凌ぐのが定石であり常識だ。


 これでニコがどれだけ異端なことをしでかしてるか、わかるだろう。

 確かにたとえ相手が殺意を持っていたとしても、相手を傷つけたくないという一点を叶えるなら、これが最適解だろうな。

 だからってこんな狂気の沙汰、思いついたところで実行するか普通!? 力業とは聞いていたけども……それにしたって限度があるだろ!

 膨大な魔力を有してると証明した上、瞬時に相手の魔方陣を解析して完全に支配下に置くなんて高等技術をいとも容易く見せつけるな!!


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなああ!!」


 あの男とて魔力量は少なくない。だがあれだけの魔法を唱えれば、さすがに限界がくるだろう。

 明らかに男は消耗していた。一応ニコはその五倍消費しているはずだがケロッとしている。

 私は離れていたからこそニコの行いに気付けたが……。戦っている男にはこの発想に至る余裕はないだろう。ニコがまったく堪えてないのもあって余計に。

 男の背に一際大きな魔方陣が浮かぶ。あれが放たれれば会場の人間も無事では済まないだろう。

 だがもう私は何も心配していなかった。男の死に物狂いの一撃すらニコにとっては脅威ではないからだ。そうして一切男は魔法を発動できぬまま地に伏した。

 審判が倒れた男に近づいて脈を確かめる。死んでない死んでいない。ニコの狙い通り、ただの魔力切れだ。一晩寝れば治る。

 何が何だかわからぬまま静かに終結した試合に観客達は最初こそ戸惑っていたが、母が拍手したのをきっかけに観客席から歓声が上がり始める。

 ともあれ勝ちは勝ちだ。勝利を祝おうとニコの元へ向かうとしたその時、新たな人影がアリーナへと現われた。

 反射的にバッと横を見る。特別席の一番端、母の隣がぽっかりと空いていた。見間違いじゃなかった。おそらく魔法で瞬間移動しただろう父がニコと対峙していた。


「いやはや素晴らしい試合だった。だが、それが全力ではないだろう? ツォ「お初にお目にかかります、ラドゥガ王。私かねてよりリリエンタリア様と交際させていただいておりますツォバラ家現当主ヴェレテンニコフ・オクト=ラグル・ツォバラと申します。リリーを僕のお嫁さんにさせてください!!!!!」

「断る!!!!!」


 いかにもミステリアスな強敵感を醸し出して登場した父だったが、ニコに早口捲し立てられた結果、威厳を投げ捨てる羽目になっていた。

 ニコもニコだ。さっきまでの死闘のせいでハイテンションになっているのはわかるけど、大声でいきなり何を叫んでいるんだお前は。


 ……ってあれ? ツォバラ……?

 観客席の下の方が騒がしい。なんとなしにそちらへと視線を向ければ、アリーナとの境界になる塀から身を乗り出して指差す彼女の姿が見えた。

 業務以外では極力外出しないが、魔法専門の決闘ということで興味を惹かれたのだろう。魔術棟のメンバーが勢揃いしていた。

 肝心の彼女だがバルバストル様に羽交い締めされてなお、いつもは死んでる紫の瞳をキラキラとかつてないほど輝かせている。


 あ、あ゛っーーー!!!

 これまで抱いていた数々の既視感が繋がった。気付く機会はたくさんあったのになんで今まで気付かなかったのか。

 気付きのきっかけとなった目の色もそうだけど、何より性差による多少の違いはあれど二人とも顔メチャクチャそっくりだというのに。


「お願いします!」

「嫌だ!」

「チャンスをください、お義父さん!!」

「誰がお義父さんだ!!!」


 アリーナの方もうるさい。どうやら父とニコの押し問答は私が真相に気付いて呆然としている間に終わらなかったようだ。

 やりとりこそ子供の言い争いのようだが、やっているのがこの会場にいる者の中でも一、二を争う戦闘能力の保持者達である。おかげで誰も仲介に入れずにいた。どうするんだ、これ。

 だが「アル」と母がそう一言呟いた瞬間、空気が変わった。ぎぎぎとまるで錆びたオモチャのような動きで父が母の方へ振り向く。首を横に振る父に対し、母はただ笑顔を見せるだけ。でも無言の圧力に父はそのうち肩を落とした。

 今日だけで父の情けない姿が次々と更新されていってるな……。


「……俺に一撃食らわせてみろ。俺は魔法で防ぎはするが、この場から動かないし、攻撃もしない。そしたら認め」

「ファイア」


 母には敗北したがニコに負けるつもりはないらしい。父の悪あがきは続いた。

 折衷案を提示し始めた父にニコが呪文を唱える。超至近距離からのノータイム不意打ちだが父はギリギリ防いだようだった。


「まだ話の途中なんだが!?」

「もし当たっていたとしても陛下であれば、かすり傷にもならないかと……」

「だとしても判断が速すぎる!」


 父がクレームを入れている間もニコは次々と攻撃魔法を浴びせていた。

 バカスカバカスカ、呪文に、魔方陣に、杖振りに、様々な方法で発動させている。

 私はどうやら大きな勘違いをしていたらしい。ニコは別に戦えないわけじゃないのだ。本人だって『人間相手には躊躇する』としか言ってない。魔獣退治はスピード勝負とも力説してたっけ……。そこで気付けよ、自分。

 そして彼が人を相手にするのをためらうのは、手加減できずに相手を殺めてしまう可能性があるからなんだろう。父に対しては全力で立ち向かうニコの姿にそう悟らずにはいられなかった。


 ただニコとしてはさっきの不意打ちが唯一の勝算だったのだろう。

 あれだけ放っておいてなお、ニコの魔力が尽きる気配はない。攻撃の手を緩めないようにしつつ、なんとか勝ち筋を考えているようだが、父との実力差は歴然だ。だからこのまま打ち続けたところであの男の二の舞になるだけだろう。

 観客達はアリーナで繰り広げられる魔法の数々に目を奪われ翻弄されっぱなしだ。そして戦ってる父もおそらくニコの一挙一動しか見えてないはず。


「少し動きがにぶってきたな。それでおしま゛ぁ゛ッ゛」

「あ」


 だから私は父の後頭部に向かって、自身の魔力を固めた玉を思いっきりを投げつけた。

 狙い通り直撃したそれはコーンと澄んだ音を立てて地に落ちる。魔法に強い耐性を持つ父のことだ、あれがぶつかったとて衝撃だけで痛みは感じなかっただろう。

 弾道から闇討ちしてきた相手を計算したのか、私の方へと視線を向けた父は信じられないものを見る目をしていた。

 残念ながら私は父やウィーニのように移動の魔法は使えない。二人と違って外出を嫌うからだろう、適性がなかったのだ。なので歩いてアリーナへと向かう。

 まさかの展開に頭が追いついていないのか、ニコは未だぽかんとしていた。そんな彼の隣へと辿り着いたところで父と対峙する。


「当てましたよ、父上」

「え、いや、あれは」

「当 て ま し た よ」


 ――別に攻撃対象者をニコに限定してませんでしたよね?

 そう内心で開き直りながら母に倣って笑顔で威嚇すれば、父はしどろもどろになっていた。

 だが最終的には「そうだな……」と折れてくれた。そんなしょぼくれた父の姿に少しばかり良心が痛むけれど、元は父の大人げのなさが原因なので容赦はしない。

 こっちの処理は終わった。ならば次は。さっきとは違い、魔法で拘束されている彼女に向かって私は叫んだ。


「おいレイニー! ちょっとこっち来い!」



「まさか家督争いがこんな平和に終わるなんて……試合の時といい、リリーには感謝しても感謝しきれないなあ」


 決闘からしばらく経ったある日。

 東の庭で行われる最後のお茶会でニコは頬を指でかきながら笑顔を見せていた。


 あの後、会場を去った私は城の貴賓室へとニコとレイニーを連れていった。

 これまで二人からの話を聞く限り、この異母姉弟は一度顔をつきあわせて話し合うべきだと思ったのだ。

 私のこの判断は間違っていなかったようで。ニコは妾腹の身で家督継ぐことや父に対するわだかまりが溶けたし、レイニーもある意味気になってたおもしれー男に会えて喜んでいたし、良い結果になったと思う。


「……もう手放す気もないくせ、こんなこと聞くのは卑怯だろうけど、本当に良かったの? 魔術棟やめちゃって」

「くどい。別に魔術は学ぼうと思えばどこでも学べる。それに屋敷の庭はニコが整えてるんだろう? そのニコが学んだ成果を見れるのが今から楽しみだよ」


 明日、私はニコと共に国を出て彼の本邸へと向かう。

 またしても娘が他国へ行ってしまうことに父は落ち込んでいたが、母や姉は笑顔で祝福してくれた。外見とは裏腹に意外と母の方がドライだったりする。


「なにより私はニコと一緒にいたいんだ……ニコがいない間、寂しくてしょうがなかった」

「僕もリリーのいない日々は耐えられないなあ」


 ニコが素直だからなんだろう。私も普段のように回りくどい言い回しじゃなくて、思ったままの気持ちを口にできた。

 それだけじゃない。いつもカリカリしていた頃が信じられないくらい、今は穏やかに過ごしている。ニコの傍は息がしやすい。自然と笑みが浮かぶ。

 ニコが立ち上がる。ティーカップが空になっていたから、おかわりを注ぐのかと思えば私の頬へと口付けた。


「……なにするんだ」

「リリーが可愛くて、つい……嫌だった?」

「聞かなくてもわかってるくせに……」


 いきなり頬とはいえ人にキスをかましておいて、何事もなかったように着席したのだ。文句の一つも言ったって許されるだろう。

 でも私が苦情を上げたところでニコは彼の名前を連続して並べた音が聞こえる感じの笑みから表情を崩さない。

 ちょっとは動揺すればいい。眼鏡を外して、テーブルの上に置く。薬を飲んでないからぼんやりとしか見えないが、彼の顔はさっきよりも赤らんでいるようだった。


「好きだよ、リリー」

「知ってる」

「大好き」

「それも知ってる」

「リリーは物知りだなあ……愛してるよ」

「……私も」


 ニコがはにかんだのを見て瞼を閉じる。そして花々の甘い香りの中、今度は唇を重ねたのだった。



 昔々、賢姫と名高い四の王女様は庭師の青年と恋に落ちました。

 複雑な出生に思い悩んでいた彼でしたが、王女様の手助けによって憂いを取り除き、彼女に相応しき魔術師へと変貌を遂げて。

 そして王女様は彼がいかに変わろうとも愛しぬいたことで、二人の仲は生涯途切れることなく続いたとのこと。


 また二人はその素晴らしい才を生かし、数えきれぬほどの花を育て上げ、魔術の発展に大いに貢献いたしました。

 彼女達の可愛い子供達も二人によく似て賢く、後世へとあらゆる分野に功績を残したのでした。

 ではこれにてこの二人のお話はおしまいといたしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ