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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【九日目】

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勝常寺にて

 会津平野に出たとき、空がひらけた感じがした。山の中を歩いてきたせいか、視界が広がるだけで、呼吸が少し楽になる。

 勝常寺は、その平野のほぼ中心にあった。慧日寺が「僧のための寺」だとしたら、ここは明らかに違う。人の気配が濃い。田畑に近く、道に近く、阿賀野川にも近い。祈りというより、生活の延長にある場所だ。


「ここも、徳一様が建てた寺だよ」


 瀬戸が、そう教えてくれた。山の神の話をする声とは、少し違う。土地の人の話をする、柔らかい声だった。


「僧のためじゃなくて、民のための寺。だから、泊まりやすい」


 榊原が言う。なるほど、と思う。境内には旅人も多く、子どもも走り回っていた。

 ここで一泊する。旅の区切りとしては十分だった。

 宿坊に通され、簡単な食事を終えたあと、僕らは一室に集まった。旅の行程確認、という名目だったけれど、実質は雑談に近い。


「改めて、だね」


 相原が帳面を開きながら言う。


「どうせ一緒に動くなら、役割は把握しておきたい」


 さすが記録官、という感じだ。

 まずは榊原だった。


「俺から行くわ」


 少しだけ胸を張る。


「職業は侍。軍団兵から昇格したばっかだけど、一応、前線担当」


 腰の太刀を軽く叩く。


「で、性格は……根っからのゲーマー」


 一瞬、間があった。


「昔はさ、ネトゲ廃人だった。マジで」


 さらっと言う。


「生活リズム壊して、現実どうでもよくなって」


 肩をすくめる。


「白石先生が担当カウンセラーでさ。そこで戻ってこれた」


 なんでもないことのような口調だった。


「だから、これはゲームとしては全力で楽しむけど、沈みすぎない。そこは線引いてる」


……なるほど。軽いノリの裏に、ちゃんと一度沈んだ経験がある奴なんだな。


「美人もいるしな」


 瀬戸の方をちらっと見て、にやっと笑う。

 そして露骨だ。


 次は室田。


「えーと、僕は軍団の雑兵頭って役職。戦うのもできるけど、どっちかっていうと裏方寄り」


 背負っている荷袋を示す。


「物資管理とか、道とか、橋とかは、壊すのも直すのも少しできる。まあ、何でも屋ってことで」


 気負いがない。


 相原は最後だった。


「職業は記録官。戦闘は補助程度」


 淡々としている。


「見たこと、聞いたことを記録するのが役目。評価点にもなるし」


 世界を一歩引いて見ている感じが、言葉の端々にあった。


 そして、瀬戸。


「……瀬戸澄佳です」


 少しだけ姿勢を正す。


「職業は、巫女。山の神の使い、という扱いになっています」


 彼女の装備は、一見すると素朴だった。白を基調とした巫女装束。だが、よく見ると違う。布地は軽く、体の線に自然に沿う。動くたびに、わずかに文様が浮く。腰回りの意匠は控えめだが、歩くと妙に目を引く。

 誰も声に出さないが、空気が少し変わる。


「……普通の装備、だよな?」


 室田が小声で言う。


「普通、のはずなんだけどな」


 榊原が、瀬戸を見て、はっきりと頷いた。


「いや、これは……反則だろ」


 瀬戸は、彼らが言う反則の意味に気づいていないのか、静かに続ける。


「穢れや毒への耐性が上がっていて……薬の効果も、付与されています」


「首のは? すごい貴重そうなアクセサリー装備よね」


 相原が視線を向ける。

 勾玉のついた首飾り。控えめだが、確かになにか力を感じる、気がしなくもない。


「……ステータスを上げてくれる、お守り、です」


 そして――僕。


「……猟師、です」


 その瞬間、視線が集まる。

 鷺沢趣味が全開の装備だ。中二病を煮詰めたようなそれ。

 指ぬきのレザーグローブ。ベスト状の上着に、妙に多いバックル。深めのフード。バックパックは無駄に機能的で、無駄に黒い。


「……それ、実用なの?」


 相原が、率直に聞く。


「一応」


「いや、一応じゃなくてさ」


 榊原が笑う。


「その格好、夜の森で出てきたら普通に中ボスだろ」


 室田も頷く。


「うん、味方でも警戒する」


 瀬戸は、少し困ったように笑っていた。


「……似合っては、います」


 フォローになっているのかは分からない。


「鷺沢さんの趣味だから、ほら多賀城の市にいる行商人の彼女」


 そう言い訳すると、全員が少し考えて、すぐに妙に納得した顔をした。


「なるほど」


「それなら仕方ない」


 まったく、ひどい反応だ。


 翌朝。勝常寺の境内は、朝霧に包まれていた。

 準備をしていると、榊原が声をかけてきた。


「なあ、満足」


「なに?」


「手合わせ、しない?」


 一瞬、意味が分からなかった。


「……手合わせ?」


「練習用のPVP」


 さらっと言う。


「やられてもHP減らないし、痛みも抑制されるモード。そんなのも知らないの?」


 知らなかった。


「へえ……」


「お互いの動き、知っといた方がいいだろ」


 理にかなっている。


「いいよ」


 もちろん、あいつの力は使わない。そのつもりだ。


 開始の合図と同時に、榊原は間合いを詰めてきた。正確で、無駄がない。さすが侍。剣の軌道がきれいだ。

 僕は、正面では受けない。一歩引き、横に流れ、低い位置から動く。

 罠は張らない。だが、動きは狩りのそれだ。

 何度か、榊原の剣が空を切る。


「……変な動きだな」


 そう言いながらも、榊原は笑っていた。

 だが、最後はやはり違った。正攻法。踏み込み。間合い。僕の動きが読まれ、太刀が喉元に来る。


「はい、そこまで」


 システムが告げる。


――榊原の勝ち。


「いやー、楽しかった」


 余裕の声。でも、その目は少し真剣だった。

 一方で、僕は思う。


……力を使わないと、まだ足りない。


 それが、はっきり分かった。


「なあ」


 僕は言った。


「これ、いいな。練習」


「だろ?」


 榊原が頷く。


「またやろうぜ」


「うん。これからも、たまに付き合ってよ」


 正統派と変則派。ぶつかり合う余地は、まだまだありそうだった。


 勝常寺の朝は、静かで、少しだけ清々しかった。

明日は、二本投稿いたします。6時と16時です。

よろしくお願い致します。

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