山門の前で
喜多方から洞窟に戻った僕は、今日集めた素材を広げた。
薬草、山菜、乾かした茸、それから――天蚕。量は少ないけど、鷺沢さんが「これは本物」と目を輝かせたやつだ。
「持ってくるようになったな、少しは」
その言葉を思い出して、苦笑する。
全部まとめて、洞窟に置いた葛籠の中に仕舞い込む。戻ってきたら、分別はやればいい。
荷物を整理して旅の支度を整えると、瀬戸と合流するために、庵へ向かった。ただ庵を覗いてみると、彼女は不在だった。
「麓の神社か、……慧日寺、かな?」
思い当たる場所はそのくらい。というか、他に行き先が思い当たらない。
まず、麓の神社へ向かった。境内にいた宮司に尋ねると、「さっき、慧日寺へ行かれましたよ」と、あっさり教えてくれた。
……やっぱり。
ただ、慧日寺は、正直、気まずい。
山での一件。修験者を倒して、封印を壊して、大暴れした記憶は、まだ生々しい。だから、慧日寺に着いても門をくぐるのはやめた。山門の前で待つことにする。
風が抜ける。春とはいえ、山の気はまだ冷たい。
「……待ち合わせって柄じゃないな」
そう思ったとき、足音がした。
振り返ると、三人連れがこちらへ歩いてくる。平安時代にそぐわぬ着流しの侍に、空色の狩衣の男、――いや女性っぽい。そこに、荷物をたくさん抱えた臙脂色の水干姿の男が続いていた。
「……あ」
先に声を上げたのは、着流しの侍、榊原だった。
「満足、だよな?」
「うん。久しぶり……でもないか」
相原は、すぐに状況を把握した顔で軽く会釈し、室田は、僕と寺を見比べてから、のんびりと手を振った。
「へえ、知り合いだったの」
相原が、少し驚いたように言う。
「まあ、序盤とか軍団で一緒だったし、話したことくらいはあるよ」
「うん、軍団の仕事サボりまくってた印象があるね」
言われてみれば、確かにそうだ。
しかし、僕の方にはほとんどその記憶がない。面影だけがかろうじてくらいか。初めてログインしたとき、少しだけ彼らがいたような、そんな記憶の欠片があるような、ないような感じ。
とにかく、ここ数日の出来事が濃すぎて、彼らの存在は、記憶とともに圧縮されていた。それが解凍された感じだ。
「船の手配を頼みに来たんだ」
榊原が言う。
「慧日寺経由だと、阿賀野川を下れるって聞いてさ」
相原が、淡々と補足する。
「飽海嶽周辺の調査。陸奥国鎮守府名義」
室田は、よく分かっていない顔で頷いている。
「……ああ、なるほど」
そういうことか。
「中に入るよね」
僕が聞くと、相原がすぐに答えた。
「そりゃね」
「じゃあ、中に瀬戸さんがいると思うから伝えてもらえる? ここで満足が待ってるって」
「了解」
相原は、迷いなく中へ入っていった。
しばらくして、門の内側が少し騒がしくなった。
そして瀬戸が、出てきた。
その後ろに、榊原、相原、室田。四人、揃って。
「……なんで一緒?」
思わず、口に出た。
瀬戸は、少し困ったように笑ってから言う。
「船の行き先が、同じで」
「調査指令、受けたんだよ」
榊原が、軽い調子で続ける。
「どうせ一緒なんだし、な?」
相原は何も言わず、状況を記録する目をしている。室田は、相変わらず成り行き任せの顔だ。
僕は、四人を見て、空を仰いだ。
――どうなるやら。
でも、不思議と、悪い予感はしなかった。
「……じゃあ、行きますか」
日本海へ。




