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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【二日目】

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8/53

多賀城・境界の街

 二日目のログインは、「本番です」という久世の一言から始まった。

 本日のログイン時間、つまり拘束時間は八時間。現実時間で言えば、11時から19時まで。

 それを、ゲーム内では――10日分として処理する。

 頭では理解している。説明も受けた。それでも、「十日間、あの空間で生きる」という感覚は、ログインしてみないと分からない。


 視界が切り替わる。

 そこは林道だった。幅は結構ある。現代の道路でいえば2車線より広く、4車線より狭いくらいの感じだった。

 林道沿いに、大きな石、道の両側の木の高い位置にはしめ縄が掛けられ、布製の紙垂が垂れ下がっている。そして、すでにログインしたプレイヤーが数人佇んでいた。

 道の少し先には大きな城門。その手前に武装した兵が立っている。

 城門にはこう掲げられている。


「多賀城」


 朝廷における東北支配の中心ともいえる場所で、時代が時代ならば対蝦夷の最前線基地でもある。

 周りを見渡すと、他のプレイヤーがそれぞれの思いを口にしていた。


「なんだここ、京都じゃないの?」


「またマニアックな開始地点だなあ」


「俺、東北出身だから土地勘あるぜ」


「てか、何年の設定よ。平安時代ったって、長いぜ」


 うん。僕もそう思う。まったくごもっともな感想だ。

 ただ、ちょっと悪くないとも思ってしまうマニアックな自分もいる。だって、僕の氏族、蝦夷だしね。――もののけのお姫さまとの楽しいイベントあるかな?

 そんな馬鹿な妄想をしていると、一人の武官が大声を張り上げる。


「今回の『まれびと』は以上か」


 あたりを見回すと、11名、僕を合わせて12名いた。うん揃っている。


「ああ、以上だ」


 自らが代表者とでもいうように、近衛恒一が武官の前に出る。

 近衛が身につけている装備は、明らかにその武官NPCよりも上等なものだった。そのせいだろう、武官の態度が急に物腰柔らかになる。露骨だが、まあわかりやすさも大事だ。

 それにしても、近衛の初期装備は、ほかの人と差つけすぎじゃない? 身分も高そうだし、チートじゃないですか? 僕の初期装備なんて、布と皮製だよ? これぞ初期装備でしょ。


 なんて、僕が心の中でひがんでいるうちに、みんなは門の方へと歩いていくので、僕も置いていかれないように、あとに続く。

 門では一人ずつ順に何やら説明を受ける。どうやら、ここからはそれぞれの個別のスタート地点に振り分けられるようだ。


「今日から、正式に配属だ」


 NPCの兵士が、僕に事務的に告げた。

 僕の配属は、軍団兵。

 多賀城の警備や門の巡回。物資の確認。どれも、無難で、簡単そうな仕事ばかりだ。これをこなせば評価点も、そこそこ入るらしい。

 それから、まず自分の部屋に案内されたが、正直、絶句した。

 藁ぶきの寝床と桶がおかれている。馬房ですかここは?


「個室なだけでもありがたいと思えよ、新人」


 そんな風にNPCに先輩面される。

 評価を上げれば環境も変わるのだろうが、妙にリアルすぎないですかね。もう少し、プレイヤーを過保護にしてもいいと思うよ。辞めちゃうよ?


 それから、軍団兵の待機所に連れていかれる。その脇には、倉庫。

 武具。保存食。護符。粗雑だが用途の分かる道具が並んでいる。


 値札はないが、代わりに、「評価点」と呼ばれる数値が、視界の端に浮かぶ。

 金でも貨幣でもない。評価点で交換できるのだと、直感的に分かった。

 そして、任務をこなす。交易する。探索する。あるいは――狩るというプレイングを積み重ね、この評価点をためていくのだろう。


「任務は明日からだ、それまでに支度しておくように」


 そう告げると、案内役のNPCは去っていく。ここからは、ようやく自由時間のようだ。


 それから、城周辺を歩いてみた。


 まず、城門の内側には家屋や小さな畑、中央には庁舎らしい建物がある。そして道の脇には商店がいくつかある。本来、この時代に常設の商店があるかどうかは怪しい。

 でも――ゲーム内では、ある。それが最初に理解したことだった。


 それから、しばらく城の外を歩いた。多分、明日からの勤務地になるのだろう。

 城門の近くでは露店市も出ていて、人のざわめきや、祈りの声。僧の読経。これらが入り混じて耳には聞こえてくる。一方で、海の香りや、土煙、あと獣の匂いなどを、鼻では感じる。文明と自然、ここはその境界なのだ。


 じゃあ僕は、文明と自然どちらでのロールを求められるのか。

 猟師のスキルツリーが、視界の端に出てくる。


 追跡。罠。解体。


 明らかに、この城内で歓迎される能力ではない。

 獲物を殺す。血を流す。肉と毛皮を得る。

 それは、仏の教えに反し、神道的にも穢れとされ、そして蝦夷の文化とも一括りにされる。

 未開で野蛮。完全には管理できず、リスクもある厄介ものたち。それが蝦夷の俘囚たちだったと聞いたことがある気がする。


「……いいや」


 僕は、城門を離れた。

 どうせ普通にプレイする気はない。

 理由は、単純で、僕に必要で、欲しいスキルが育たなそうだからだ。

 僕には探索能力が必要だった。

 森に入れる力がいる。地形を読む力。痕跡を見つける力。

 それが、このゲームで用意されている以上、使わない理由はない。

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