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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【八日目】

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戻ってきた場所

 目を開けた瞬間、世界は静かだった。静かすぎた。ただ音は、ちゃんと音として聞こえる。風。水。遠くの鳥。喧噪がない世界、いつだったかこんな場所にいた気がする。いつだったっけ……。


……戻ってる。


 最初に浮かんだのは、その感覚だった。

 体が、重くない。胸の奥で暴れていたものが、今はいない。いない、というより奥に押し戻されている感じ。それが、少し気味が悪かった。


「……」


 起き上がろうとして、すぐにやめる。自分の状態が、分からなかった。視線を横にやると、瀬戸がいた。すぐそばで、ただ座っている。見張るでもなく、看病するでもなく。ただ、そこにいる。


「……ここは」


 声が、思ったより普通に出た。それが、ちょっと怖かった。


「今、僕は……?」


 瀬戸は、少しだけ考えてから答えた。


「……戻ってる」


 同じ言葉。でも、彼女の言い方は断定じゃない。


「完全じゃないけど、暴走は、してない」


 僕は、自分の手を見る。震えていない。少し前までの自分が、嘘みたいだ。


「……どうやって」


 聞かなくても、分かっている。それでも、聞かずにはいられなかった。瀬戸は、目を逸らさなかった。


「私も、やっと自分で選んだよ」


 その言葉、意味はよくわからなかったけど、素直に胸に落ちる。守った、でも、助けた、でもない。――選んだ。

 その決断は、彼女にとって大切なことだということはわかった。


「……重くない?」


 僕は、ぽつりと言った。


「重い、ようやく私にもわかった」


 


 上下も、主従も、救世主も、被害者もない。ただ、選択の結果として二人がここにいた。


「……ありがとう」


 そう言うのは、違う気がした。


「……ごめん」


 それも、違う。


 僕は、しばらく考えて、結局こう言った。


「……これから、どうする」


 彼女は、その問いを待っていたように、すぐに答えた。


「一緒に考えたい。勝手に決めないし、勝手に背負わない。私も、逃げないから」


 僕は、小さく笑った。


「……わかった、僕も一緒に考えるよ。いつかのグループワークのときみたいに、瀬戸さんに任せきりじゃなくて」


「なによ、今さら」


 彼女は、そういうと少しだけ過去をとがめ、そして新たな約束、そしてこの先に続く未来を見つめ笑った。そして、宣言した。


「私は守られるだけの立場じゃない。あなたも、全部一人でやれるわけじゃない」


 正しい。痛いほど。僕は、深く息を吐いた。


「……じゃあ」


 顔を上げる。


「頼む。また何かあったら、完全じゃなくていい。壊れる前に、止めてくれ」


 瀬戸は、一瞬だけ目を閉じて、それから頷いた。


「その代わり」


 条件が出た。僕は、少し身構える。


「次に暴れたら、一人で突っ込んだら。私も、本気で止める。殴るかもしれない」


 僕は、吹き出しそうになって、こらえた。


「……それは、ご褒美ですか?」


「違う」


 真顔で即答される。


「私の責任」


 山の奥で、風が向きを変える。僕は、立ち上がった。


「行こうか」


 彼女も、同時に立ちあがる。そして並ぶ。

 初めて、並んだ。鬼でも、巫女でもなく。この先を選んだ、二人として。


 眼下に望む猪苗代の湖面は、登りかけた太陽に輝いていた。

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